コンバインドコンペ『イニシエ』ホールド協賛の多治見市グラニットオーナー豊場コージ氏によるホールド蘊蓄です!
歴史やホールドの質感、当時のトレンドなどまで幅広い内容がギュッと詰め込まれています。
題して「トヨバイブル〜時代の匠〜」
【ホッチホールド】
今ではクライミングウォールの施工やアンダーブルーホールドを擁する会社として知られるホッチホールドは、1988年に初の国産クライミングホールドを世に送り出した国産ホールドメーカーの元祖であり、当然ながら社長の堀地清次さんは日本初の商業ホールドのシェイパーということになります。今回提供のホールドはその中でも比較的初期のシェイプが中心になっています。
今時のようなエルゴミック感はなく、時としてエッジが手足に突き刺さってくるような形状もあって非常にスパルタンな雰囲気がありますが、それも含めて「岩を登るためのトレーニングとシミュレーションをするためのホールド」としての性格をよく表していると思います。
’80年代のホールドは、「円盤や六角形をしていて、ホールディングのための形状が刻まれた中央部を持つ」というタイプが多かったなか、ホッチホールドはすべてのホールドが「ホールドの外周形状そのものを持つ」というタイプの先駆けでもあったといわれています。
なお「人工ホールドのボルト穴に親指を入れて持つのはNG」という不文律を聞きます。これはおそらく初期のホッチホールドがT字レンチでの手締めを前提に作っていたため取付穴が非常に大きく、ほとんどのホールドが親指入れれば楽々ピンチ持ちできてしまうため、これを避けるのが発祥なのではないかと思われます。
【クリフホールド】
大岩純一さんと故・杉野保さんが自分たちのトレーニング用として作られたのが始まりのクリフホールドは、1991年に発売が開始されています。
時代が時代だけに当然のようにバリバリのエッジやポケットもあって、やはり岩に向けてのトレーニングを志向しているわけですが、改めて見てみると当時としては比較的丸みのあるシェイプも多く見られ、また「似た形状だけど微妙に持ち感が違って、強度が調整できる」シェイプも散見されます。これは単に指にハードなだけではなく故障を回避してトレーニングをしやすいように考慮され、ホールドが岩を模した形状を離れてトレーニングに最適化していくという、時代の流れを象徴していると言えるかもしれません。
なお、90年代初頭の記憶ではこのホールドに付属していたボルトは、現在主流の「キャップボルト」ではなく「ボタンボルト」でした。先のホッチホールドにあったようなボルト穴、あるいは飛び出したボルトの頭がホールディング上の弱点にならないような工夫だったのかもしれません。
【フランクリンクライミング】
元々はメトリウスのシェイパーだったスコット・フランクリンが独自ブランドとして立ち上げたのがフランクリンクライミング。取り付けてしまえば表からは見えませんが、ブランドのロゴにもなっている歯車?ナット?のような形状のパーツがホールドに埋め込まれていて、ボルトで締め付けた時の破損を防止する独自の設計になっています。今でこそ当然のように組み込まれているホールドの破損防止&破損時の落下防止の構造を先取りしたシステムだったかもしれません。余談ながらこのパーツ、初期は金属、後期は樹脂製です。
今回提供させていただいたのは比較的初期~中期のシェイプで、白と茶色を主にした特徴的なサイケデリックなマーブル模様で印象に残っている方も多いのではないでしょうか?
その多くは岩を模した形状でありながら指に優しい丸みがあり、またポジティブでありながら甘さのある持ち感であり、程良く持てるホールドで的確にムーブを起こしたり、ギリギリまで粘る持久トレーニングに向いています。単に悪いホールドに耐えるだけの前時代的なトレーニングではなく現代に通じるベーシックなトレーニングに向いたホールドとして今の時代でも通用すると思います。
なお、今は同名のアウトドアアパレルブランドとしてのほうが有名かもしれません。ブランド名の復活時にホールドやギア類も復活するのかと期待した方も多かったかもしれませんが、どうやらクライミングメーカーの直接の系譜ではないようです。
【expression】
フランス発のヨーロピアンホールド。トレーニングのための機能性を高めたシンプルなホールドが増えていった中において、そのビジュアルはとても目を引くものでした。曲線的でアーティスティックな形状と2トーンのマーブルの色彩でエレガントな外見。きっと保持感もフレンドリーと思いきや、触ってみると掛かりが浅かったり甘かったり、指が馴染まずフィットしない持ち感といった様々な「悪い」要素が取り込まれていて、一筋縄では行かないホールドが多かった印象です。当時のフランス人トップクライマーが自分あるいはナショナルチームのトレーニングに向けてシェイプしたというラインナップには1フィンガーポケットや限界に挑戦するような薄さのエッジなど激しく攻めたものまであり、機能とビジュアルの両立を目指していたことが伺えます。若干大きめサイズ、かつギリギリに薄く仕上げられたホールドは破損しやすく現存するものは少ないかもしれません。触れても冷たく硬質な感じがなく、むしろ柔らかさを感じるような優しい触感も特徴的でした。初期のホールドの一部は今でも同じシェイプのものが「エコパック」という商品名のアソートパックで販売されていますが、当時と素材が違うため触感はだいぶ異なっています。
なお、当時の商品ラインナップのトレーニングボードが左右非対称で、トレーニング的にこれってどうなんだろうという疑問を持ったものですが、今思えばやや前衛的なアートとして壁に飾るにはお洒落なものかもしれません。