喚起的映像

喚起的映像とは

 箭内匡『映画的思考の冒険』によれば、「映画的思考」とは映画独特の仕方で、私たちが生きる世界に向き合い、その本質を捉え、生きるべき世界のイメージを提示する思考である。そして、優れた映画は必然的にそうした思考を含むのだと箭内は述べる。彼がその立論において言及するのは、主にフィクションとして制作された映画であるが、ノンフィクションとして制作された映像もそのような思考を持ちうるだろう。私たちはそうした思考を喚起することを試みるようなノンフィクション的な映像を「喚起的映像」と呼ぶ。

 喚起的映像は、実際に起ったことを記録した映像素材をもとに作られた映像である限りにおいて、ドキュメンタリー的な映像である。とはいえ、多くのドキュメンタリー映像が表象を、すなわち通常の意味で実在するものを映像の中に引き込むことを志向するのに対して、思考的映像の狙いは異なる。その狙いは、先に述べたように思考を喚起することにある。いわば、ほとんど実在するとは言えないような概念や印象を捉えたり、実際には成立し得ない反実仮想的なイメージを感じさせ、考えさせること。映像を、何か事物の表現とみなすのではなく、思考の表現とすること。

 そしてこのような映像は、おそらく、これまでの人類学が文章を用いて行ってきた実践の対応物であると私たちは考えている。人類学は人々の生を記述することではなく、それを通して何らかの思考を喚起することを目的としてきたはずだ。

 そこで私は、友人たちとともに、そうした映像の制作と、人類学的な思考法の学習としてこうした映像を制作するワークショップに取り組んでいます。

関連する発表とワークショップなど


2024.4  「映像編集を通してフィールドワークを学ぼうーーベトナム編2024」TUFiSCoワークショップ、於・東京外国語大学(ゲスト講師 康陽球)

2024.3  「映像編集を通してフィールドワークを学ぼう@メルカリ・メルペイ人類学部」メルカリ・メルペイ人類学部、於・メルカリ東京オフィス

2024.2  「映像編集を通してフィールドワークを学ぼうーーペルー編2024」TUFiSCoワークショップ、於・東京外国語大学(ゲスト講師 イリナ・グリゴレ)

2023.11 「人類学的思考の拡張のための映像編集ワークショップ」TUFiSCoワークショップ、於・東京外国語大学 (ゲスト講師 津田啓仁)

2023.7 「映像編集を通してフィールドワークを学ぼう——メラネシア編」TUFiSCoワークショップ、於・東京外国語大学 配布資料  参加者が制作した映像作品集 (ゲスト講師 橋爪太作)

2023.6 (映像配信・口頭発表津田啓仁・橋爪太作との共同発表)「開かれた民族誌映像制作のために——映像的思考法ワークショップの方法と意義 」、日本文化人類学会第57回研究大会、於・県立広島大学 配布資料

2023.2 「ワークショップ『映像編集を通してフィールドワークを学ぼう』の方法と反省」、コモンズカフェ、於・東京外国語大学 配布資料

2023.2 「映像編集を通してフィールドワークを学ぼう」TUFiSCoワークショップ、於・東京外国語大学 参加者が制作した映像作品集

2022.6 (映像上映津田啓仁との共同発表)「Second Life in Peru/通り過ぎないもの 」、日本文化人類学会第56回研究大会、於・明治大学 配布資料(「映像で考える」ワークショップの概要とその意義について)


ワークショップ「映像編集を通してフィールドワークを学ぼう」

2023.7
映像編集を通してフィールドワークを学ぼう——メラネシア編
TUFiSCoワークショップ、於・東京外国語大学

長谷川莉帆「自然と人の力学」
村上梨緒「静と動」
飯盛真緒「座空間」
小川楽生「にかかる」
閻美輪「生の力」
服部琢磨「ソロモン諸島マライタ島の一日」

(撮影:橋爪太作)

2023.2
映像編集を通してフィールドワークを学ぼう
TUFiSCoワークショップ、於・東京外国語大学  

植田彩乃「食べること 旅に出ること」
青山俊彦「音があろうとなかろうと」
吉村一飛「ぺルーの時間の流れ方」

(撮影:藤田周

喚起的映像の作品集

撮影・編集:藤田周
「通り過ぎないもの2023」 2023.2.5

撮影:橋爪太作 編集:藤田周
「みんなで踊る」 2022.6.21

撮影、編集:藤田周 字幕:穂村弘『シンジケート』(1990年、沖積舎)
通り過ぎないもの」 2021.9.27

撮影、編集:藤田周
「光を失う」 2021.6.17

撮影:友人たち 編集:藤田周
「知っていたこと」 2021.3.7

撮影:近藤晴香 編集:藤田周
「ぼくのなつやすみ」 2020.12.24

撮影、編集:藤田周
「剥き出し」 2020.7.23