研究紹介

論文リストは以下の NASA ADSライブラリから御覧ください。

私は宇宙プラズマ物理に関するテーマに広い興味を持って研究を進めています。現在は特に太陽や星の磁気活動の起源と、星形成を中心とした天体形成に関わる降着過程の研究を行なっています。私の研究では、詳細な観測ができ宇宙物理学的に理解が進んでいる太陽物理が土台になっています。太陽が宇宙プラズマ物理現象の宝庫であることを踏まえ、太陽物理と他分野の融合を進めることによって宇宙のダイナミックな側面を解き明かそうとしています。研究手法には主に磁気流体シミュレーションを用いていますが、多様な研究テーマに応じて観測・理論・シミュレーションを使い分けています。

太陽物理

私は太陽フレアと呼ばれる太陽表面で起きる爆発現象に関して、観測と理論の両面から研究を進めてきました。太陽フレアは、黒点上空に蓄えられた磁気エネルギーが磁気リコネクションと呼ばれる物理機構によって解放されることで発生します。私はこのエネルギー蓄積・解放機構についてシミュレーションを用いて研究してきました。大フレアを起こしやすい黒点の形成過程に関する研究 [1, 2] や、磁気リコネクションで駆動された高速プラズマ流が作る衝撃波の振る舞いとフレアの観測的特徴との関連性を調べた研究 [3, 4] があります。

私は磁気リコネクションの素過程に関して観測の側面からも研究を進めてきました。多波長・撮像観測を通じて、プラズモイドと呼ばれる微細構造を発見し [5]、プラズモイド噴出に伴う高エネルギー電子の生成の兆候も見つけました [6]。

私は太陽の知見をもとに恒星一般の磁気活動性を理解する研究も進めています。恒星コロナ由来であるX線の観測量と星表面の磁場分布を関連づける理論モデルを作り、X線観測から星の表面磁場分布を探る手法を提案し、観測とも比較しました [7]。太陽・恒星フレアに関するレビュー論文の執筆も行なっています [8, 9]。

[1] Takasao et al. 2015 ApJ, 813, 112
[2] Toriumi & Takasao 2017 ApJ, 850, 39
[3] Takasao et al. 2015 ApJ, 805, 135
[4] Takasao & Shibata 2016 ApJ, 823, 150
[5] Takasao et al. 2012 ApJ Letters, 745L, 6
[6] Takasao et al. 2016 ApJ, 828, 103
[7] Takasao et al. 2020 ApJ, 901, 70
[8] Shibata & Takasao 2016 , in Magnetic Reconnection, ed. W. Gonzalez & E. N. Parker (Cham: Springer International Publishing), 373
[9] McLaughlin et al. (including Takasao) 2018 Space Science Reviews, 214, 45

星形成

太陽をはじめとする星は、分子雲の重力崩壊で開始します。生まれたばかりの星である原始星や前主系列星は周囲に形成された円盤から降着を受けて進化するため、最終的にできる星の状態を理解するには星・円盤の相互作用過程を解き明かす必要があります。この星・円盤相互作用は星表面と円盤の複雑な磁気流体過程が関わる過程であるため、長年その点は星形成理論におけるミッシングリンクとなっています。それに対し私は太陽物理で培った知見を土台にし大規模3次元磁気流体シミュレーションを駆使し、この問題の解明に取り組んでいます。

降着円盤からは円盤風というガスの吹き出しがあると考えられており、円盤ガスの質量や角運動量の抜き取りに重要だと言われています。しかし乱流的な円盤からの円盤風がどのように振る舞うかは十分よく知られていませんでした。私は乱流円盤からの円盤風の一部が星へと落下して降着流へと遷移する、新しい降着形態を見つけました [1]。原始星は太陽フレアの10万倍ものエネルギーを一気に解放する超巨大フレアを起こすことが観測的に知られています。低温な星形成領域でこのような巨大爆発が起きると、周辺環境に多大な影響を及ぼす可能性があります。この爆発の起源は十分理解されていませんが、私は原始星フレアに相当しうる爆発を計算機内で再現する世界初の3次元シミュレーションを行いました [2]。

[1] Takasao et al. 2018 ApJ, 857, 4
[2] Takasao et al. 2019 ApJ Letters, 878L, 10

その他の研究

以下に私が取り組んでいる話題について列挙します。