講演会人と繋がり

講演会「人とのつながり」が健康格差を生む!

講師:村山洋史東京大学高齢社会総合研究機構特任講師

保健福祉部会では、新田原地域の健康福祉のまちづくりを目的に、昨年11月3日と今年1月19日に講演会&セミナーを開催しました(参加者はそれぞれ34名、27名)。今回、これらの内容を紹介します。(保健福祉部会 副部会長 秋谷正)


【要旨】

注目される「つながり」の効果

2011年東日本大震災が起こり、絆やつながりが見直されるようになりました。

外国からは、被災地の助け合う姿に驚きと感銘の声が寄せられたといいます。しかし、0ECD(経済協力開発機構)による国際調査では、家族以外の人との交流が全くない・殆どない人の割合は約15%。OECD加盟国で最も低い国のーつとなっています。社会的孤立が大きな課題となっているのも日本の現状です。

こうした中で、近所付き合いや社会参加などの「つながり」が、運動や飲酒・喫煙などの個人のライフスタイルよりも、死亡リスクに大きな影響を与えることが明らかになり、「つながり」と健康や寿命との関連が注目されるようになっています。

例えば、ボランティアや趣味活動などで人との繋がりがある人は、こうした活動のない人よりも要介護リスクが2割程度低く、また将来不安など精神面でも良い状態にあることが様々な調査から示されてきています。

「つながり」が与える健康効果

人と人との「つながり」は、単に困った時の手助けだけでなく、時々の役立つ知識・情報をもたらすとともに、辛くなった時には精神的なサポートも与えてくれます。このような効果は、単につながれば健康になるということではなく、「つながる」ことで色々な経験・交流が行われ、こうした積み重ねを介して、結果的に健康に大きな恩恵を与えてくれているのです。

では、どういう「つながり」を持てばよいのでしようか。近所付き合いをありがたいと思う人もいれば、ストレスと感じる人もいます。

親密な人とだけ付き合っておけば良いというものではなく、たまにしか会わない人から有益な情報をもらえることもあります。接する人数や関係の近さ・遠さなどでなく、多様な人とつながりを持つようにし、その時々で自分にとって居心地の良い関係(つながり)を持てることが重要だということです。

健康長寿は地域がつくる

一方、地域の「つながり」を考えてみると、外国のみならず日本の調査からも、地域の「つながり」と健康寿命や死亡率との関係が明確になっています。「つながり」が豊かな都道府県と少ない都道府県を比較すると、前者の方が、健康寿命が半年長いという結果でした。僅か半年!?と思うかもしれませんが、健康寿命を半年延ばそうとすると、例えば、地域全体で運動習慣のある者を10%増やす、高血圧者を10%減らさなければ達成できないと言われており、その労力は大変なものです。地域の「つなかり」の恩恵はとても大きいと言えます。「つながり」のある地域にすることで、そこに住む皆が健康になるということです。

新しい「つながり」を求めて

しかし、今の日本の現状は高度成長の頃に較べて、地域の「つながり」は大きく低下してきています。昔のように自ずと地域の交流が生まれる状況にはありません。世界遺産として有名な白川郷でさえ、過疎化や高齢化により合掌造りの茅葺き作業が地域内での助け合いだけでは難しくなり、積極的に地域外の若者を巻き込むような仕掛けを行っているほどです。これからは、時代に合わせた地域のつながりや互助の仕組みづくりが必要であり、地域の実情に見合った計画された戦術的な取組みが重要になっています。

この講演が、こうした取組みに少しでも役立てていただければと思います。

(保健福祉部会 副部会長 秋谷 正)

講師:村山洋史東京大学高齢社会総合研究機構特任講師

プロフィール (むらやま ひろし)

1979年三重県生まれ

2009年東京大学医学系研究科博士課程修了

15年より同大学高齢社会総合研究機構特任講師

著書:「つながり」と健康格差(ポプラ新書150)