4.4 堰

私たちが普通目にするダムは貯水ダムと呼ばれ、水を溜める為に作られています。高さ15 [m] 以上のものを貯水ダムといい、それ以下のものをといいます。この堰を越流する水脈をナップと呼び、ナップは完全ナップ、不完全ナップ、付着ナップの3つに分けられます。完全ナップは堰を越えた水脈が壁を伝わずに自由落下する状態のことです。一方、付着ナップは水脈が壁に付着しながら流れていく状態を指します。不完全ナップは完全ナップと付着ナップの間の状態のことです。付着ナップは越流水深が小さい場合や下流側水深が高い場合に起きやすく、完全ナップより流量が増加することが知られており、レーボックの実験によれば付着ナップの流量は完全ナップの流量の1.3倍程度になるそうです。

完全ナップ

付着ナップ

不完全ナップ

①四角堰

四角堰は下図のような堰を指し、四角堰の流量は接近流速を考慮しない長方形大型オリフィスの流量の式をh1=0、h2=hと置くことで求めることができます。詳細については5.1 オリフィスを参照して下さい。

JISの四角堰公式では次のようになります。

この式が使える適応範囲は、B=0.5〜6.3 [m]、b=0.15〜5.0 [m]、hd=0.15〜0.3 [m]、bhd/B^2≧0.06、0.03≦h≦0.45√bです。ちなみにhd死水深と呼びます。

②全幅堰

四角堰のような切欠けがなく、越流幅が水路幅に等しい堰を全幅堰といいます。JISの全幅堰は次のようになります。

この式が使える適応範囲は、h≦hd、h≦B/4のときB≧0.5 [m]、0.3≦hd≦2.5 [m]、0.03≦h≦0.8 [m] です。

③三角堰

三角堰の流量は三角形大型オリフィスの式をh1=0、h2=hと置くことで求めることができますが、先に水面幅を求めておきます。

この水面幅の式を流量の式に代入します。

また、直感三角堰の場合、θ=90°のためtan(θ/2)=1となります。

ちなみに、JISの直角三角堰は次のようになります。

この式が使える適応範囲は、h≦B/3のとき0.5≦B≦1.2 [m]、0.1≦hd≦0.75 [m]、0.07≦h≦0.26 [m] です。

④台形堰

下図のような台形堰を考えます。すると台形堰は四角堰と三角堰の組み合わせで流量を求めることが出来ます。

⑤広頂堰

堰の断面が台形状であり、越流水が堰の面に沿って流れ落ちる場合を広頂堰といいます。別の言い方をすれば、下流側水深が堰の頂面より低い場合を広頂堰といいます。まずは図を見て下さい。

2点間でベルヌーイの定理を適応させます。

このとき、左辺は全水頭Hと同じになるので、式変形を行い速度および流量を求めます。

さらに、流量を最大にさせる水深h2について考えます。流量を最大にする水深h2ベランジェの定理より次のように定義されます。ベランジェの定理の証明については7.2 等流の常流と射流を参照して下さい。また、流量が最大となるときの式が求まります。

⑥潜り堰

下流側水深が堰の頂面より高い場合を潜り堰といいます。下流の水位が比較的低い場合を完全越流潜り堰といい、堰頂部を超えると射流になるため下流の水位の影響を受けなくなります。そのため、広頂堰として扱うことが出来ます。一方、下流の水位が比較的高い場合を潜り堰といい、堰の真上でも常流となるために下流の水位の影響をもろに受けます。

完全越流潜り堰

潜り堰

潜り堰における3点間にベルヌーイの定理を適応します。その後連続の式で流量を求めます。

例題を1問解いて終わりましょう。

例題:下図のような台形堰がある。b1=0.3 [m]、b2=0.05 [m]、h=0.2 [m] のときの流量を求めよ。ただし、流量係数は0.6とする。

まとめとして、堰には四角堰、全幅堰、三角堰、台形堰、広頂堰、潜り堰と様々な種類があり、流量の式もそれぞれ異なってきます。式自体を覚える必要はありませんが、誘導のやり方は覚えておいて下さい。また、四角堰や三角堰などにはJISによる公式があり、これらの式には適応範囲があることに注意して下さい。