管水路の層流の流れを観察すると、下図のように管の中心で流速が最も大きく、管壁に近づくほど流速は小さくなり、壁上で流速は0となります。これは、1.5 水の粘性 で述べたように、水が粘性を持っているために摩擦応力が働くためです。
このとき、せん断応力の大きさから摩擦速度を求めます。せん断応力とは、物体内部のある面の平行方向にすべらせるように作用する応力のことであり、仮想断面を想定してそこに作用する摩擦応力を指します。ですのでこれら2つは少し意味が少し違うことに注意して下さい。まずは、管水路内に円柱型の仮想断面を想定し、釣り合い方程式を立てます。イメージ図は下のような感じです。
このとき、τはせん断応力 [N/m2] です。
すると、釣り合いの式から仮想断面におけるせん断応力を求めることができます。また、管水路の壁面で起きている摩擦応力を式で表すと次のようになります。
このとき、τ0は摩擦応力 [N/m2] です。
次に、せん断応力を摩擦応力で表していきます。
この式により、せん断応力は管中心からの距離と摩擦応力を測定することで計算することができます。また、せん断応力は管中心で最小値0となり、管壁面で最大値τ0となる直線分布であることがわかります。さらに、この関係は層流、乱流のいずれの場合においても成立します。
水力学の分野では、管壁面の摩擦応力から摩擦速度という物理量がよく導かれます。摩擦速度は、間接的に摩擦応力の大きさを表しており、速度の無次元化を行う際に利用されます。無次元のパラメータとしてはレイノルズ数やフルード数が挙げられます。これら係数のように無次元化することにより、流れ状況がより把握しやすくなります。摩擦速度もその無次元化するために必要なパラメータの一つだと思ってもらえれば大丈夫です。摩擦速度は、せん断応力を密度で割り、1/2乗することで求まります。
このとき、u*は摩擦速度 [m/s] です。
このとき、頭の良い人は速度の記号がvからuに変化していることに気づくことでしょう。まず、私達が一般に言っている速度はラグランジュ速度といい、速度の値は時間変数だけで決まります。一方、時間変数と位置変数によって変化する速度をオイラー速度といいます。特に断りがない限り、ラグランジュ速度はv(t)、オイラー速度はu(x,y,z,t)の記号を用いて表現します。今までは、平均流速を考えていたために記号vを使用していましたが、今考えている摩擦速度は粘性があるために位置によって速度が変化します。そのため、記号uを使用しています。記号vは平均流速、記号uは測定値と覚えてもらえれば大丈夫です。
では、管水路における層流の流速分布と乱流の流速分布を求めていきます。層流の場合、壁面近くのせん断応力は1.5 水の粘性で表した式で求めることができるのですが、管水路の半径が増加すると流速は減少するために負の符号をつける必要があります。
層流における管水路の流速はせん断応力の式から釣り合い式を立て、積分することにより求めます。
このとき、境界条件よりr=r0のときu=0となるので、積分定数が求まります。また、積分定数を速度の式に代入することで層流の流速分布が求まります。層流の流速分布は2次の放物線で表わされます。
最後に層流の全流量を求めます。まずは、下図で色の付いている微小面積について誘導します。
πdr2は微小距離を2乗しているのでさらに小さい値になり、0とみなすことができます。次に、連続の式から流量を求めます。
この流量を表す式をハーゲン・ポアズイユの式といい、層流における流量を示しています。この流速分布はドイツのゴットヒルフ・ハーゲン(土木技術者で下水道などの設計をしていた)が1839年に、フランスのジャン・ポアズイユ(医者で血流の研究をしていた)が1840年にそれぞれ別々に発見しました。そこで二人の名前を取ってハーゲン・ポアズイユの式と呼ぶことになりました。ハーゲン・ポアズイユの式は粘性係数の測定などに使われています。
ハーゲン・ポアズイユの式は様々な条件のもとで成り立っています。覚える必要はありません。
①乱れ変動がなくレイノルズ応力がゼロである(つまり層流である)
②定常流れである(時間的に変化しない)
③断面方向に流れない
④流体は連続体としてふるまう
⑤壁面において流体の速度0である
さらに、平均流速は次のように表わされます。
まとめとして、層流の流速分布はせん断応力から求めることができます。また、速度を無次元化するパラメータとして摩擦速度があります。6.2 乱流の流速分布では摩擦速度がたくさん出てきますので頭の片隅に入れておいて下さい。さらに、流体の層流流れを表す最もポピュラーな流れとしてハーゲン・ポアズイユの式があります。教科書によってはポアズイユ流れと書いているものがありますが、正当な評価とはいえないのできちんと正式名称で読んであげましょう。