浮体とは水に浮かんで静止している物体のことであり、この浮体が傾いたときに転倒するのか復元するのかをここでは計算していきます。浮体には浮心(浮力の作用位置)があります。図にすると次のようになります。
浮心は浮体が傾くと少しづつずれていきます。そのずれた浮心から鉛直方向に線を伸ばし、浮体の中心線と交わった点を傾心またはメタセンターと呼びます。また、上図の浮体が転倒することは絶対にありません。それは、傾心が重心より高い位置にあるために反時計回りのモーメントが作用するからです。そのため、浮心が重心より高い場合は常に安定しています。一方、傾心が重心より低い場合は、転倒し始めます。
上図のように、傾心が重心より下にあると転倒モーメントが発生し、傾心が重心より上にあると復元モーメントが発生します。傾心と重心が同じ位置のときは浮体は釣り合っているため、そのまま静止します。これを式で表すと次のようになります。
このとき、MGは傾心高 [m]、GCは浮心から重心までの距離 [m] です。
今から、上式の誘導をしていきます。面倒な人は飛ばして下さい。まずは、浮体の傾きを微小とし、浮力によるモーメントから式を立てていきます。また、3.4 傾斜した平面に作用する静水圧のときと同様に、∫x2dAはy軸(奥行き方向の軸)に関する断面2次モーメントと考えることができ、浮心の移動距離が求まります。
このとき、eは浮心の移動距離 [m] です。
また、浮心の移動距離は三角関数を使った方法でも求めることができます。式にすると次のようになります。
この浮心の移動距離の式を組み合わせることにより傾心高の式を導出することができます。
では、最後に例題を1問解いて終わりましょう。
例題:下図のようなコンクリートケーソンがある。そこに砂を入れて海水に浮かべたときの喫水H、重心位置、浮心位置を求め、ケーソンの安定性を評価せよ。ただし、コンクリートの単位重量は23.52 [kN/m3]、海水の単位重量は1.025 [kN/m3] とする。
まずは、コンクリートの体積と重量を求めていきます。
次に、浮力を求めます。このとき、喫水(コンクリートが海水に浸かっている高さ)をHとして計算します。
また、浮力と重量は釣り合っているため、喫水Hを計算することができます。また、浮心から底面Bまでの距離は、喫水の半分なのでH/2で求められます。
上下非対称の物体の場合、重心が物体の高さの半分にならないので底面に関するモーメントを考え、重心から底面までの距離を求めます。その結果を用いて重心から浮心までの距離を計算します。
y軸(底面)における断面2次モーメントを求めていきます。このとき、y軸のとり方によって断面2次モーメントが2パターン存在しています。浮体の安定を計算するときは安全性を考慮し、小さい値を採用します。
最後に、傾心高を求めます。その結果、今回のコンクリートケーソンは安定であることが分かります。
まとめとして、浮体の安定性は傾心高を求めることにより照査することができます。