Data-driven computing for turbulent heat and mass transfer 

& 

dynamical system for mathematical modeling and flow control

Homogeneous Shear Turbulence

  一様せん断乱流を対象として乱流の生成維持メカニズムについて研究しています.

  単純な一様せん断流は,理論解析に用いやすいことや,工学で扱われる高レイノルズ数のせん断乱流の良いモデルとして扱えます.また,ミクロからマクロなスケールでの応用範囲が考えられ,分子や粉体のミクロな現象から,地球規模の大気成層乱流,そして,ブラックホールまわりの降着円盤中の乱流の解析にまで応用されています.

 左の図は温度ゆらぎ(赤と青)と乱流中の微細秩序渦(灰色)の相互作用の様子です.大気中の乱流や化学工学における乱流混合などにも大きく関わる密度成層乱流(下図)にも応用範囲を広げ,高プラントル数での熱・物質輸送の研究を進めています.

Turbulent Channel Flow 

壁面近傍の秩序構造の維持生成メカニズムや壁面熱伝達についての基礎研究を行います.壁面があることによって,壁近傍の速度勾配が急激に大きくなり,3次元的な秩序渦構造(流れ方向に伸びた縦渦や低速ストリーク)が生じます.高レイノルズ数では,それらは階層的な自己生成メカニズムを形成します.

Turbulent Duct Flow

4方が壁面に囲まれて矩形ダクト内の乱流においては,壁面近傍の乱流の秩序構造の振る舞いが角付近で大きく変化します(下左図).これによって,平均流れには下右図のように角へと二次流れが現れます.これはプラントルの第二種二次流れと呼ばれています.平均二次流れが壁面熱伝達率や壁面摩擦抵抗に及ぼす影響を調査し,乱流中の秩序構造との関連性を調べています.より高レイノルズ数における渦の階層構造と平均二次流れや乱流統計量への関連とそのモデル化が課題です.また,二次流れなどの複雑な流れを制御することにより,生産プロセスの性能向上のための技術開発も行います.

Reinforcement learning for  flow control, and Bayesian optimization   

  非定常で工学的に重要な乱流の制御が可能になると,エネルギーの効率的な利用や,持続可能な社会へ貢献できます.流体の数値計算を用いたさまざまな試行錯誤をAI・機械学習の手法を用いて自動で行うための手法について研究しています.右図は,正方形ダクト内の乱流の熱的制御を強化学習で行っているイメージ図です.エージェントが学習を重ねると,ダクト壁面の加熱量を上手く制御して,時々刻々と変化する乱流状態を制御できているようです.数値シミュレーションの高速化や真相学習モデルの大規模化が鍵となりそうです.

  複雑な流れの制御パラメタ―は多岐にわたります.多くの変数を同時に効率よく最適化させるためにベイズ推定や遺伝的アルゴリズム(GA)などの手法が利用されています.

Turbulent Multiphase Flow 

水や油などの混合や界面現象について研究しています.水と油など2つ以上の混ざり合わない流体が接すると,界面が生まれます.ナノスケールの現象であるため,マクロスケールの流体数値計算での扱いは非常に困難な問題です.

Turbulent Boundary Layer

航空機の翼やタービン翼などの曲がった翼形状の周りの乱流境界層の理解とそのモデリングを研究しています.壁面上を高速に流れる流体と壁面との間は境界層と呼ばれる薄い層があり,その中で非常に複雑な渦同士の相互作用が生じています.特に曲面では剥離現象が生じるため,従来の乱流モデルの予測精度が下がるという問題があります.そこで,高精度な数値シミュレーションのデータを用いて,背景にある物理を解明することが重要になります.高精度な乱流モデルを構築できれば,流体シミュレーションの予測精度の向上や設計の試行錯誤の短縮が可能です.また,流れの剥離のメカニズムの詳細を明らかにし,新たな制御手法などの提案を行います.

(左図)レイノルズ応力の等値面で可視化すると大規模構造が見え,(右図) 渦度エンストロフィーで可視化すると乱流中の微細渦が見えます.

Dynamical system and Data-driven approach for self-sustaining mechanism of turbulent shear flow

力学系アプローチやデータ駆動の手法を用いて乱流のダイナミクスの理解や流体制御に向けた基礎研究を行います.乱流はランダムな現象ではなく,渦構造が生成維持される非線形なメカニズムがあり,乱流統計量などに影響しています.統計物理学の手法では乱流現象の理解には至っておらず,数値シミュレーションを用いて研究します.支配方程式であるナビエ・ストークス方程式に埋め込まれた乱流渦の生成維持メカニズムの解明とそのモデリングが興味対象です.左図は,位相空間での乱流の起動と,乱流中に埋め込まれた不安定な周期軌道(赤線)です.右図は,活発な周期解に近づいた乱流の渦構造(流れ方向渦度, 赤が正の渦度,青が負の渦度)と速度のストリーク(流れ方向速度の等地面を高さで色付けしたもの)を表します.これらの解はサドル(鞍点)に相当し,乱流状態はよく不安定な解へと近づき,そして離れます.比較的低レイノルズ数においては,これらの不安定周期解が乱流状態に果たす役割がわかってきています.が,高レイノルズ数においては大小様々な渦が相互作用するため乱流のダイナミクスの理解のためには.新たなアプローチのが課題です.

High-performance computing with GPUs

  GPUなどのアクセラレータによる 流体解析の高速化と設計最適化を行っています.機械学習用のGPU計算チップを他の用途にも効率的に利用することは,ITと環境調和の基盤的技術で,グリーン・コンピューティングに繋がります. (図は正方形ダクト乱流のポアソンソルバーの高速化, 詳細は東京大学スーパーコンピューティングニュースVol23(1) P.57 (2021.8)参照 

Adjoint variational method and data-assimilation 

データ同化の手法に, 変分法を用いた逆解析があります.  以下は, 2次元キャビティ内の熱対流の例です.設定したターゲットエリア内の温度を制御するために必要な境界条件を随伴感度解析によって推定します.ターゲットエリアへ境界からの情報を伝えるためには,因果律を反転させたシミュレーション(右図)を行います.左の実際の気流の流れとはほぼ逆方向に情報が流れていき,境界へとたどり着くことがわかります.(大学院授業「逆解析とデータ同化」より)
  この感度解析の手法はシミュレーションだけでなく,機械学習による予測結果の解釈にも使われており説明可能機械学習の一種です.