REPORT 1

ICT活用教育デザイン研究会(第2回)

ワークショップ「芸術論を語ってみよう」[高校1年/現代の国語の模擬授業]

第2回ICT活用教育デザイン研究会(以下研究会)の発表者は、聖学院中高の伊藤豊先生。伊藤先生が紹介した授業実例は高校1年の「現代の国語」の二学期の課題「芸術論を語ってみよう」でした。まだ芸術について深く考えたことがない高校1年生が、資料を読んだりクラスメイトの意見を取り入れることで、この課題の終わりには芸術論が書けるようになるという授業です。研究会ではワークショップ形式で参加者が実際に授業を受講し、ICTによって授業がどう広がるか、授業デザインがどう変わるかを体験しました。

●研究会概要

日時:2022年11月17日(木) 16時30分~18時20分

場所:聖学院中学校・高等学校

発表:伊藤豊先生

聖学院中高  国語科・中1学年主任・前教育統括部長

助言:益川弘如先生

聖心女子大学

授業のデザインと前提

●「途中乗車、乗り換え自由」

生徒はよく授業中に集中を欠くことがあります。その間にも授業は進んでいくので、一度集中を欠くと授業に追いつくのが難しくなります。すなわち授業を「途中下車」してしまった状態になります。一度集中を切らしても途中からでも参加できる「途中乗車、乗り換え自由」な仕組みを心がけて授業を作っています。

●「概念型カリキュラム」

「概念型カリキュラム」とは、生徒が物事の本質を概念として理解するためのカリキュラム設計論です。様々な分野において、対象となる概念にフォーカスして問いをたてる(概念レンズ)ことで一つの体系だった知識を作っていきます。伊藤先生は自然や社会と自分自身との関係を本質的に考えさせるため、「自然と人間」「芸術論」「言語論」「アイデンティティ」の4分野を用意しました。どの文章、どの課題を読み解くにあたっても「実存と観念」という概念レンズを使って考える作りになっています。今回のワークショップは4分野の中の「芸術論」の授業です。

ワークショップの流れ

問1

ポール・セザンヌはサント・ヴィクトワール山を生涯で80点以上描いたと言われている。なぜセザンヌは同じ山をたくさん描いたのか。自分の考えを答えなさい。

・ロイロ・ノートで回答し、提出

 ↓

・参加者の回答を共有

・他の参加者の回答でいいと思ったものを1~2つ選んで、自分の文章に取り入れる

この時点で解答を書けなかった生徒は、ここで授業から脱落しがちです。しかし他の生徒の解答を使うことでここから授業に参加できます。これが「途中乗車、乗り換え自由」なところです。


2

評論(参考資料)を読んだ上で、もう一度、同じ問いに答える。

・ロイロ・ノートで資料を受け取り、再度回答し、提出

 ↓

・参加者の回答を共有

・他の参加者の回答でいいと思ったものを1つ選んで、自分の文章に取り入れる

3

「概念レンズ」を使う。「実存と観念」という言葉を使って同じ問いに答える

・ロイロ・ノートで回答し、提出

 ↓

・参加者の回答を共有

・他の参加者の回答でいいと思ったものを1~2つ選んで、自分の文章に取り入れる

問2は具体的な説明、問3は抽象的な説明。ワークショップではここまででしたが、実際の授業では自分の問2と問3の文章を使って自分なりのセザンヌ論にまとめあげる課題を出します。両方を合わせることで文字数も増え、内容も濃くなり、文章力が飛躍します。生徒は自分の文章が芸術評論のようになる体験ができます。

ワークショップのポイント

●ICTを使うことで共有ができる。

●他の生徒の解答を取り入れられることで途中乗車ができる。

●ICTを活用した途中乗車の仕組みで、文章が苦手な生徒も自分の文章が昇華していく楽しさを体験できる。

ワークショップの後には質疑応答と、聖心女子大学の益川弘如先生による講評が行われました。質疑応答においては「間違えることを怖がる生徒が多いのでとても参考になった」「ICTの研修や授業作りの研修はどうやっているのか」「こういう授業を作る工程を教えてほしい」など熱量の高さがうかがえる質問が飛び交いました。また益川先生も「ICTのスキル以前に授業そのものが重要です。この授業もカリキュラム研究や教材研究がベースにあったからこそ素晴らしい授業になっていたと思います。生徒に何を学んでほしいのかという考えからカリキュラム設計がスタートしていることが、毎時間の授業に一貫性をもたらしていると思います。さらに生徒が取り組みたいと思う仕掛けや、生徒自身で答えを見出せるリソースもちゃんと用意しているのも良かった点です」と、とても高く評価されていました。