REPORT 2

ICT活用教育デザイン研究会(第3回)

オリガミクス × ジグソー法 × MetaMoji ClassRoomで

証明してみたいと思わせる数学の授業作り

中学2年生/平面幾何(証明)の模擬授業

第3回ICT活用教育デザイン研究会(以下研究会)の発表者は、女子聖学院中高の糸井慈先生。糸井先生が紹介した授業実例は中学2年の「平面幾何」の証明の導入に使われている授業でした。生徒が手を動かして数学の法則を再現することで「どうして?」という面白さを体験し、「証明してみたい」という動機付けにつなげることが目的です。研究会では、ワークショップの種明かしを聞いて、参加者が「おぉー!」と歓声を上げる場面もありました。

●研究会概要

日時:2023年2月16日(木) 16時30分~18時20分

場所:聖学院中学校・高等学校

発表:糸井慈先生

女子聖学院中高  数学科

助言:益川弘如先生

聖心女子大学

授業のデザインと前提

「オリガミクス」

「オリガミクス」は折り紙を折ってできる折線の中に定理や法則を見出す数学のアプローチです(元筑波大学教授で生物科学が専門の芳賀和夫先生が発案)。この授業は「オリガミクス」を取り入れ、まず折り紙を折ることから始まります。

「ジグソー法」

教育デザインのフレームワークの一つです。テーマや課題について、グループ内で各自が調べ学習を行い、メンバー全員の成果をジグソーパズルのように組み合わせて答えを出します。自分で責任をもって調べ、他のメンバーにそのことを説明するため、自主性、積極性、協調性が培われ、学習効果が高まります。この授業では、グループを再構成し、他のグループとやり方や考えを学び合う形で調べ学習を行います。

MetaMoji ClassRoom

リアルタイム学習支援アプリです。教員は生徒一人ひとりの端末をリアルタイムに把握でき、サポートできます。この授業では他のグループとディスカッションしたことを元のグループ内で共有するためのグループワーク支援ツールとして活用されています。実際の授業ではそのまま教員への提出、採点も行われます。

ワークショップの流れ

ワークショップ1

「面白い」と思わせる

・グループに分かれ、各自裏を上にした折り紙を一回だけ折ります。

・色が見えてるところが三〜五角形のいずれかの形になっていることをグループ内で確認します。

 ↓

・グループのメンバー人ひとりが他のグループメンバーと調べ学習を行うため、グループを再構築します。

・大きな紙の上に折り紙をおき、一つの角を起点に折ります。

・折った時の折り返した場所に点を打っていきます。

・その点を見ることで、距離と角度で何角形になるかが決まることが分かります。

・この調べ学習を通して気づいたことをMetaMoji ClassRoomに書いていきます。

 ↓

・元のグループに戻り、調べ学習で得た答えを組み合わせて結論を作ります。

・すると右の図のようになります。

・折り紙の一辺を半径とし、左右の角を中心点とした円の範囲(図:水色)に折り返すと四角形になり、その2つの円の重なった部分(図:黄色)に折り返すと三角形に、さらには折り紙の対角線を半径とした円の範囲(図:グレー)に折り返すと五角形になります。

ワークショップ2

「証明したい」と思わせる

前提:折り紙の角と角をピッタリ合わせて折る方法は2種類です。辺と辺を合わせて折る(長方形になる)か、対角線に折る(二等辺三角形になる)かのいずれかです。

・前提の2種類の折り線を「一次折り線」とします。

・裏を上にした折り紙を一回だけ折ります。この折り線を「二次折り線」とします。

・二次折り線によって分断された辺をそれぞれ別の辺として考え、二次折り線に全ての辺を合わせて折っていきます。これによってできた折り線を「三次折り線」とします。

・三次折り線が交わるところに点を打っていきます。

・するとその点は必ず一次折り線のどこかに重なります。

・これらは例えば「三角形の内角の二等分線は必ず交わる」という性質に由来しています。

・実際の授業では、この後、性質の証明に入っていきます。

折り紙の中に三角形と二等分線が出来上がっているので見た目にわかりやすく、驚きもあります。確かに証明してみたくなる授業です。

ワークショップのポイント

●折り紙の中に、「必ず〜になる」という法則が存在することに驚きがある。

●ジグソー法により、生徒が主体的に関われ、また最初答えを思いつかなかった生徒も調べ学習を通して答えに至ることができる。

●MetaMoji ClassRoomは教員が生徒の答えに至る過程、どこでつまづいているかなどを把握できる。

ワークショップの後には質疑応答と、聖心女子大学の益川弘如先生による講評が行われました。質疑応答においては紙とICTによる生徒の理解度の違いや、どう評価に活用するかが議題になりました。また益川先生は「認知研究では体験することとそれを内省すること、その行き来が重要と言われています。このワークショップは体験が内省を自然と誘発していました」とこの授業のデザインを高く評価していました。加えて「ICTは記録を残せることから、テストなどでは見えてこない授業中の生徒の学習状況を把握できます。今回のワークショップでいえば、どの時点で生徒が答えに気づいたのかが分かります。これにより教員は次の授業作りに評価を使うことができ、それは生徒の成長につながります。またICTによる変化は生徒の中で起こっているため、なかなか見えにくくはあります。それでも続けていくことで教科に対する学びの深さが変わります」と、質疑応答に対しても答えてくれました。