イソギンチャクの研究を始めるにはどのようにしたらいいのだろうか?
そんな新米研究者のための研究法解説ページです。筆者も最近研究し始めた新米であるため、学んだことを順々に乗せていくので更新はゆっくりです。
参考文献
・新付着生物研究法-主要な付着生物の種類査定ー日本付着生物学会編 第4章イソギンチャク類
こちらは日本の千葉県立中央博物館でイソギンチャクの研究をされている、柳 研介 研究員が書かれたものになり、研究法が非常に詳しく載っています。
・なぜテンプライソギンチャクなのか?
こちらは現在、広島県福山大学の講師をされている、Drクラゲさんこと泉 貴人講師が書かれたものになり、泉節という泉さんの独特な口調のまま研究者としての軌跡を面白く書いているものであり、イソギンチャクの種類や研究法も載っています。
どんな研究もまず必ず必要なのが標本やデータです。実際に採集したのち、どのようにイソギンチャクを標本を作製するのか解説します。
必要なもの
・MgCI₂ (MgCl₂・6H₂Oでも可)---- 麻酔用
・原液ホルマリン ----固定用
・70%エタノール ----固定用
・99%エタノール ----DNAサンプル用
・海水----MgCl₂とホルマリンを希釈する用
・標本写真撮影用カメラ
・スケール(定規)
・耐水紙
・鉛筆
・広口ボトル(虫かごの透明なものなどで代用可)
・ハサミ
・DNAサンプル保存用の保存管
・注射器(シリンジ)
方法
0.原液ホルマリンと海水で10~20%ホルマリンを作成。(この時、最終的にホルマリンの濃度が10%を下回らないような濃度にする)また、MgCl₂を海水に溶かす。(無水塩化マグネシウム;34.1g/L,塩化マグネシウム6水和物;73g/L)
標本に関しては、耐水紙と鉛筆でラベルを作成する(書くべき情報:採取日、水深、種名(わかるとこまで)、採集者、いれば共生生物名)。
1.採集したイソギンチャクを観察用の水槽に入れて、触手が開くのを待つ。種類によっては暗闇でないと開かないものもいるので、その場合は黒い布や暗い部屋で行う。
2.触手が開いたら、スケールとともに写真を撮る(撮影すべきところ:全体、口、触手、足盤、体壁、アクロラジのある襟の部位などその他観察している種において重要なところ)。
3.写真を撮り終えたら、標本固定用の容器(広口ボトル)にイソギンチャクを移し、再度触手が開くのを待つ。
4.触手が開いたら容器内の海水を1/4取り、麻酔用に作ったMgCl₂海水溶液を吸い取った海水と同じ量ゆっくりと注ぐ(この時に触手が閉じないようにピペットで数回に分けていれる)。1~3時間後、今度は海水を1/3取り、同じ量ゆっくりと注ぐ。さらに1~3時間後、今度は1/2の入れ替えて1~3時間待つ。 もし、触手が閉じてしまったら純海水水槽に入れて元気になるのを待ってからやり直す。
5.麻酔がかかっているかどうかをピンセット等で触れて確かめる。かかっていれば、反応がなく、力もなく触手を開いている。この時に余裕があれば再度スケールとともに写真撮影を行う(生前最後の姿になります。最後の生きている有志をぜひその手に)。
6.イソギンチャクの体の一部(触手や体壁、足盤)を0.1gほどハサミで切り取り、99%エタノールに入れる。この時、必ずホルマリンに使用する器具とは別のものを使用する(ホルマリンはDNAを壊すので)。
7.10~20%ホルマリンにイソギンチャクを入れる(全身が必ずつかるように十分な量のホルマリンに入れる)。この時にラベルも一緒に入れておく。
8.1週間ほどホルマリンにつけておいておく。口盤が直径3㎝を超える個体の場合、2日に1回くらいの頻度で注射器(シリンジ)で体内に20%以上の少し濃いめのホルマリンを直接注入する(体内の膜構造が崩壊しないようにするため)。
注射器がない場合、ハサミやメスなどで穴をあけるだけでも良い。
9.1週間後、水でホルマリン洗浄を入念に行った後、十分な量の70%エタノールに入れる。
その後日の当たらないところに保存する。
刺胞動物の同定には、刺胞と呼ばれる毒針の入ったカプセルのような細胞の観察が必要です。刺胞は非常に小さく、顕微鏡で観察する必要があります。そのために、刺胞観察用のプレパラートを作成します。
必要なもの
・固定済み標本
・カバーガラス 5枚(1サンプル当たりの最低数)
・スライドガラス 5枚(同上)
・封入材----・グリセリン ・海水 ・原液ホルマリン ・透明マニキュア(100均で可)
・ピンセット
・ペトリ皿
・顕微鏡
・解剖バサミ
方法
0.グリセリンと海水をそれぞれ1:1で混ぜたものに微量にホルマリンを入れる。
固定標本を保管していた保存管からペトリ皿に取り出す。
体の4部位(触手、口道、隔膜糸、体壁、足盤の縁)から1~2㎜くらい(想像以上に小さめ)の組織をピンセットや解剖ハサミで剥ぎ取る。この時、触手や隔膜糸といった部位間での刺胞が混ざらないように1つの部位が終わったら必ずピンセットなどをふき取るか洗い流す。
また、足盤の縁や体壁はピンセットで表面を擦ってみると刺胞が取れやすい時もある。
スライドガラスに剥ぎ取った組織を載せ、0.で作ったグリセリン海水を2~3滴たらす。
その上からカバーガラスを静かに載せて、カバーガラスとスライドガラスを軽くこするようにやさしく潰す(ティッシュでこよりを作るように)。ここで、強く潰しすぎると刺胞もつぶれること、気泡が入らないことを注意する。
プレパラートで刺胞を20倍~40倍対物レンズで確認し、刺胞がしっかりと取れているかどうかを確認する。取れていなければ、洗い流しもう一度。
刺胞が確認出来たら、カバーガラスの四方を透明マニキュアで厚めに塗る(塗るというより水滴を置いていくイメージに近い)。乾いたら2~3回さらにマニキュアで重ねて塗る。
観察すべきこと
100倍の対物油浸レンズで刺胞の形ごとにサイズ計測する。この時一つ一つすべての刺胞の写真を撮り、画像解析で計測する。
各部位に現れた刺胞の種類(種類は勉強中なので後々解説をします)と平均的なサイズを記録する(論文読む限り100個近い数を各部位の各種類計測していることが多い、中には1つの部位の1種類だけで1290個の刺胞を計測しているものも...地道な作業です)。
これらの情報をまとめることで分類形質の一つとして利用することができる(すべての種がやられているわけではない)。
イソギンチャクの同定には内部構造である、隔膜の配列や構造、周口筋や足盤筋の様相などを観察しないといけない。そのため、ミクロトームを使用して組織切片を作成・染色して内部形態観察用プレパラートを作成します。非常に長い工程になるので、包埋・切り出し・染色の大きく3つに分けて解説します。
この工程では固定標本を切り出しやすいように、パラフィンに置換します。
必要なもの
・80%エタノール, 90%エタノール, 100%エタノール
・キシレン
・パラフィン
・パラフィン置換用カセット
DNA解析はイソギンチャクの種を研究する上で欠かせない解析になっています。
工程としては、DNA抽出、PCR及び精製、シーケンス解析、系統解析の4つになります。それぞれ非常に多くの方法がありますが今回は僕が何を使っているのかの紹介を行います。
系統解析には様々なソフトウェアが必要になる、いつかそのダウンロード方法も解説すると思う。
系統解析ソフトのダウンロード方法解説
ここではダウンロード後の使用方法について解説する。
4-3-1, アライメント
4-3-2, モデル解析
使用ソフトウェア:Modeltest-NG
起動コマンド:①cd /modeltest/bin
② ./modeltest-gui
4-3-3, 系統解析
使用ソフトウェア①:RAxML-NG (ML法)
起動コマンド:raxml-ng
解析コマンド:raxml-ng --all --msa <alignment_file> --model <model> --bs-trees 1000 --threads 4 --prefix <output_file>
上記のコマンドで ブートストラップ1000回の系統解析ができる。しかし、これはブートストラップ値が記載されている系統樹ができない。
そのため次のコマンドでコンセンサスツリーを作る
コンセンサスツリーを作成するコマンド:raxml-ng --support --tree <best_tree_file> --bs-trees <bootstrap_trees_file> --prefix <output_name>
これでできたファイルがML法によって作成された系統樹となる。大体name.support.という名前になって保存されているはず。
使用ソフトウェア② MrBayse
起動法 ダウンロードした MrBayse.exe をクリック
注意点 NEXUSファイルでないと使用できない。また、MEGAでアライメントしてNEXUS形式にすると、読み取り形式指定する部分で変更が必要
FORMAT MISSING=? GAP=- MATCHCHAR=. datatype=nucleotide; という部分を
FORMAT MISSING=? GAP=- MATCHCHAR=. DATATYPE=DNA;
というように一部を手動で変更してから使用する。
また、ファイルのリンクに日本語で\home\kenta\デスクトップ\alignment_file というように入ってしまうとうまくいかないので、ネットワークから C:\\ に保存して行うとうまくいく。
解析コマンド Execute <Alignment_file> #これでデータをインポートする
その後TAXA名が羅列されると成功。
次にモデルの設定 lset nst=2; # モデルを設定、モデル毎に数字が違うので調べる(nst=2はHKY)
もしG4などのパラメーターが必要な場合
lset rates=invgamma; #G4モデルの設定その都度調べる
次に世代指定 mcmc nruns=2 ngen=5000000 samplefreq=100;
# 2つの独立したMCMCラン、5000000世代、100世代ごとにサンプリング
mcmcコマンドで解析が開始するので Nrunsの指定と世代数、サンプリング数は1行で書く。
これで解析が開始する。
じゃあ、解析の間に語彙の勉強でもしましょう。教えて!ChatGPT先生!
・MCMCとは、確率分布からのサンプリングを行うための一連のアルゴリズムの総称で、特にベイズ推定や統計モデリングにおいて広く使用されます。MCMCの基本的なアイデアは、マルコフ連鎖を使用して、計算が難しい確率分布からのサンプルを生成することです。 (chat GPT4oより)
この時に適切なバーンイン数や世代数を指定しないと適切なデータが得られない。
・バーンインとは、マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法やその他のシミュレーション手法において、最初のいくつかのサンプルを捨てるプロセスを指します。バーンインの目的は、サンプリングが収束するまでの初期段階で得られるサンプルを排除し、より信頼性の高い結果を得ることです。 (chat GPT4oより)
・世代数とは、世代数はアルゴリズムが実行される回数や、モデルがサンプリングを行う回数を指します。具体的には、MCMCプロセスが行われるステップの数や、提案された状態が受け入れられるかどうかの評価が行われる回数です。 (chat GPT4oより)
・世代数指定の基準
モデルの複雑さ:
使用するモデルが複雑であるほど、収束するまでに必要な世代数が多くなることがあります。より多くのパラメータや状態を持つモデルでは、十分なサンプリングが必要です。
データのサイズ:
データセットのサイズが大きい場合、パラメータの推定に必要な世代数も増加します。大きなデータセットは、より多くの情報を提供するため、より多くのサンプルが必要です。
収束の診断:
MCMCアルゴリズムが収束するまでの世代数は、収束診断によって評価されます。複数の独立したMCMCランを行い、その結果を比較することで、収束しているかどうかを確認します。収束が確認できるまでの世代数が世代数の基準になります。
バーンインの期間:
バーンインとして捨てるサンプル数が指定される場合、世代数はバーンインを考慮に入れて設定されます。例えば、5000000世代のMCMCを実行し、最初の25%をバーンインとして捨てる場合、実際に解析に使用されるサンプルは3750000世代分となります。
ーーー以上ChatGPT4o先生の語彙授業でした。
次に バーンイン指定(バーンインとは、初期の計算は安定しないので結果を破棄する期間のこと)
設定コマンド sump burnin = 25; #初期の25%の結果はバーンインする(通常10%~25%の間で行う)
最後に sumt burnin = 25; サンプルの要約を行い系統樹を出力する。