イソギンチャクの仲間とは「 動物界 刺胞動物門 花虫亜門 六放サンゴ綱 イソギンチャク目 」の仲間をイソギンチャクと一般的に呼ばれています。この分類の体系については生物の分類体系 で詳しく解説しています。
イソギンチャクの仲間は世界中に約1200種類いるとされています( E.Rodriguez , M.Daly et al. 2014 )。
日本では約70種類ほどが論文で報告されています( 柳 , 2006 )。また、イソギンチャクガイドブック( 内田 , 楚山, 2001 )では未同定種も含めて約150種類掲載されています。いまだイソギンチャクの種類については具体的にわかっていることが少ないのが現状です。
というよりも、イソギンチャクの分類自体があまり進んでいないというのが現状です。
ではなぜ、イソギンチャクの分類の研究が進んでいないのでしょうか___?
大きく2つの理由が考えられます。
18世紀後半から19世紀初頭にかけて新種記載された際に、形態・形質の情報が非常に曖昧で、いざ同定するときに、原記載論文がどの種類のイソギンチャクのことを言っているのかわからないため。 このことで新種記載するときにまずその種類の含まれる属や科を整理整頓してから新種記載しないといけなくなるので非常に面倒。
そもそもイソギンチャク自体に分類に使える形態・形質が少なく、種類判別が難しいため。 イソギンチャクの場合、外部形態から種類判別は亜目レベルで不可能。そのため水平にぶった切って内部形態を観察し、さらにDNA解析を行わないといけない。そのため新種であると証明するのがほかの生物に比べて面倒。
という理由でなかなか研究が進んでいないと考えています。
とは言っても、イソギンチャクは赤道付近の熱帯域から極地である北極や南極付近、そして水深5000mにも生息できる生物です。イソギンチャクを研究することは少なからず、世界の海について解明することにつながります!
基本的にイソギンチャクは足盤と呼ばれる吸盤のような構造で岩や礫などに活着しています。
また、イソギンチャクを上からのぞくと中心に見えるのが口です。そこから放射上に触手が伸びており、刺胞を放出し、獲物をとり、口に運びます。 肛門はないので口から排泄物を排泄します。
また、体の中には褐虫藻という藻類を体に共生させており、その光合成によるエネルギーで活動しています。
この褐虫藻とイソギンチャクの間には、褐虫藻はイソギンチャクから安全な住み家と窒素化合物などの栄養を。イソギンチャクは褐虫藻から光合成によるエネルギーをお互いに渡しあっています。このような一緒に生活することでお互いに利益がある関係のことを相利共生と呼ばれます。
イソギンチャクを標本処理した後に、水平に切ると右のような写真になります。(写真の種はイワホリイソギンチャク属の1種)
たくさんの膜が並んでいます。その中心に口道が通っています。体壁から口道に膜で完全に仕切られている膜と途中で途切れてしまっている膜が見えます。完全に仕切っている膜のことを完全隔膜といい、途中で途切れてしまっている膜を不完全隔膜といいます。
また、完全隔膜には方向隔膜という、牽引筋という筋肉が膜の外側に発達している膜があり、完全隔膜と方向隔膜は区別されています。
イソギンチャクの内部形態はこれらの隔膜配列や隔膜に発達する牽引筋などの形や場所などで同定・記載を行っていきます。
イソギンチャクは分類形質が非常に少ないので、「そんなものまで見てるの!?」と驚くようなものをどうにか使って同定・記載を行っています。論文を読むと、研究者たちの努力が読んでわかります。
僕が驚いた分類形質といえば、イソギンチャクの最大の武器である刺胞です。
イソギンチャクの刺胞は顕微鏡を使わないと見えません。その刺胞が体のどの部位にどの種類の刺胞があるのか。そしてその刺胞のサイズを計測して使っています。
詳細はイソギンチャクの体構造詳細 で解説します。
イソギンチャクの繁殖活動には大きく2種類のタイプがあります。
有性生殖と無性生殖です。
下記のURLはイソギンチャクの放卵・放精をとらえた動画です。実際に見てみたいものです。https://youtu.be/QJnsGQ2hIXQ?si=EJfa4kkp9il4q-FX
有性生殖とは、配偶子である精子と卵を用いた繁殖方法です。イソギンチャクの親となる個体が海中に精子・卵を放出し(放精・放卵)、それらが海中で受精します。その後、受精した卵がプラヌラ幼生へ発生し、それが岩や石などに着底・活着します。その後成長することでイソギンチャクになります。
ちなみにイソギンチャクは基本的には雌雄異体で、オスかメスかは外見からは判別できません。放卵放精するまでどっちかわからないものなんです。
しかし、最近、沖縄県の美ら海水族館がハタゴイソギンチャクの有性生殖を飼育下で世界で初めて成功しています。その中で独自の方法で雌雄を判別しているみたいです。ぜひその方法を教わりたいものです。
僕の今のところの雌雄判別法の考えは、妊婦さんのお腹の中を見るエコーを使って生殖腺の発達の仕方で判別できるのではないかと思いますが、なかなかその機材を手に入れることができず、頓挫しています。
美ら海水族館のサイトより上記の内容のページchuraumi.okinawa/topics/1650252585/
無性生殖とは、精子と卵を用いず行う繁殖方法です。イソギンチャクの親が2つ以上に分かれてクローンを作ります。イソギンチャクの仲間にはこの無性生殖をする種がおり、中には巨大なクローン集団を作る種もいます。また、その無性生殖の方法にはいくつか種類があり、イソギンチャクで最も広くみられる、体軸方向に足盤から口にかけて裂ける、縦分裂。体軸方向とは垂直に、体の上と下で裂ける、横分列。イソギンチャクが移動するときに、足盤の一部がちぎれて残る組織から成長する、足盤裂片法。オヨギイソギンチャクからのみ知られる、出芽。体内の隔膜の一部がちぎれて小型個体になり、口から放出する、体性胚発生。
イソギンチャク目が属する、花虫亜門の仲間はイシサンゴなど群体性のものが多く、またそれらは無性生殖を行い、ポリプを増やす。イソギンチャクは単体性ながらその能力を残していると考えることができると思います。
有性生殖と無性生殖の使い分けとしては栄養状況(餌の豊富さ)が関係していると言われています。
例えば、ミナミウメボシイソギンチャク (Anemonia erythraea)は栄養の多いところにいる個体は大きく成長し、生殖腺を発達させることができるので有性生殖を行いますが、栄養の少ないところにいる個体は、大きく成長することができないので、高頻度で縦分裂をおこない無性生殖を行います。
イソギンチャク目は熱帯から寒帯まで、深海から潮間帯までいろんなところに分布しています。
探そうと思えば簡単に見つけられます。
例えば、干潮のとき近所の海に出てみましょう。
僕の今住んでいる沖縄ではこのような磯(イノー)が干潮には出てきます。この中を注意深く見てみると…。
岩の隙間に右のようにイソギンチャクが見つかることがあります。
イソギンチャクを見つけたからと言って興奮して触ってはいけません。
イソギンチャクには先にも行った通り、刺胞という毒を打ち込む武器があります。これに刺されると非常に危険なので、触らずに見るだけにしてください。どうしても触る際は水につかるところは服やウェットスーツを着て、厚手のグローブを付けて触って下さい。
また、堤防やテトラポッドのにもついていることがあります。もしかしたらそのイソギンチャクは未記載種(新種)かも...。イソギンチャクの標本作成法はイソギンチャクの研究法 で解説しています。 ぜひ、採って宝物にしてください。
採集したり、購入したりとイソギンチャクの飼育を始める方法はいくつかあります。
特に多いのはペットショップからの購入だと思います(僕も出会いは旭川の熱帯魚専門店でした)。ではイソギンチャクの飼育を始めるうえで何を準備するべきか、何に気を付ける必要があるのかを解説していきます。
イソギンチャクは体のほとんどが海水です。なので非常に海水の質の変化に弱いです。その中でも特に弱いのが栄養塩(硝酸塩)と呼ばれるNO₂やNOそしてNH₃の濃度です。
そもそもこれらはなぜ発生するのか。それは硝酸菌・亜硝酸菌による窒素同化と呼ばれる、糞や生き物の死骸を分解する中で発生するNH₃を害の少ないNO₂やNOに変化させていく働きによるものです。NO₂やNOは植物の光合成には必要なもので、それはイソギンチャク内の褐虫藻も例外ではありません。しかし、それらが体内に蓄積すると細胞に有毒になります(Camargo and Alonso 2006) 。また、硝酸塩が多くなることで褐虫藻内のチラコイド膜の構成が変化し、ほかの環境ストレスに弱くなるなど、硝酸塩が多くなることでイソギンチャクと褐虫藻の共生関係の崩壊が起こりやすくなり、白化が起こりやすくなることにつながります。
できるならこのNH₃と硝酸塩を0ppmにすることが理想です。
その際に使う検査キットおすすめはこちらです
この商品は非常に簡単にわかりやすく、扱いやすいと思います。これで検査を行うことをお勧めします。
NH₃の検査キットもこのRed Seaがおすすめです。
また、水槽の通常のフィルターに加えて、プロテインスキマーを設置することでこの硝酸塩などの増加を抑えることができます。
プロテインスキマーとは、餌の食べかすや糞、粘液などの有機物を微細な泡で海水から取り除く装置で、NH₃の発生源から取り除くことができます。これを使うだけで、個人的にはイソギンチャクの飼育難易度はかなり下がると思います。イソギンチャクの長期飼育には必須アイテムです。
プロテインスキマーのおすすめはこちらです。
カミハタ プロテインスキマー 海道河童フィルター(大) 海水 外掛式フィルター ~60cm水槽 エアーリフト式
この商品は非常に優秀で、この一台でフィルターとプロテインスキマーの2役を担ってくれます。
僕は60㎝水槽のときは街道河童大だけで何とかなっていました(水槽内はイソギンチャクのみ)。
イソギンチャクにとって水流は非常に非常に重要なポイントになります。というのも、イソギンチャクは常に粘液を放出しています。この粘液は、体が水面から出てしまったときに乾燥しないように放出しています。しかし、この粘液は水質を悪くするうえ、イソギンチャクの海水の体内循環を妨げる原因になってしまいます。また、イソギンチャクは自分の好みの水流があるところに移動します。そのため、ポンプに巻き込まれたり、思わぬところに移動して怪我や最悪死んでしまうことがあるので、水流は非常に考えて作ってあげないといけません。
しかしこれが非常に難しく、イソギンチャクの種類によって好む水流の強さや当たり方が全然違います。そのため、飼育を始める前にこれから飼育する予定のイソギンチャクがどのような環境に生息し、どのような水流を好むのかを調べることが大切です。
水流ポンプのおすすめは特にありません。それぞれの水槽サイズと形にあった水流ポンプを使ってあげてください。
では具体的にどの種類がどのような環境に住んでいるのかを少しだけまとめてみましょう。
1.センジュイソギンチャク
この種類は、非常に速い水流を好みます。
触手全体が右往左往するように、そして体にもしっかり水流が当たるように調節してあげましょう。これら写真は沖縄で撮った野生のセンジュです。
見てわかる通り触手全体が躍動感あるような動きをしています。
4枚目の写真は僕が中学1年生の時に飼育していたセンジュです。この時はフィルターから流れ出る水流にじかに当たるところに歩いて移動してきていました。
この時の体験談ですが、センジュは水流の強いところを求めて移動します。なので水流ポンプの近くやフィルターの吸い込み口の近くに来てしまいます。そこに巻き込まれて体を気づ付けることがあります。巻き込まれ防止のネットやスポンジを必ずつけましょう。
2. ハタゴイソギンチャク
この種類は強い水流を好みます。
体は岩の隙間やブロックの隙間、砂と岩の間などに固定することが多いので、ライブロックの配置をハタゴのサイズに合わせて、体が挟まるような配置にすることが大切です。
画像から見てもわかるように、岩の間や砂地の石との間にいることが多いです。
3.イボハタゴイソギンチャク
この種は中程度の水流を好みます。
水流が当たることよりも、体全体が砂や岩などに包まれることが好みであると思われます。自然界では基本的に体全体が砂に埋まっており、口盤だけを砂から出しています。
僕が高校のときに飼育していた時は最後の写真のように、体のサイズに合った植木鉢を買い、その中に入れてあげるとその中から一切移動することがなくなり、かわいいうえに扱いやすくなりました。
などのように、イソギンチャクはそれぞれ水流の好みが違うので調べてから買うようにしましょう。 もし、ほかの種の水流状況を知りたい場合は気軽にご連絡 ください。随時、回答の上このページに更新していきます。
イソギンチャクにとって、最も重要といっても過言ではないことが照明です。これは餌の代わりにもなります。
照明にもいろんな種類があり、いろんな色があり、困ることがあると思います。実際、どのような照明がいいか考えてみましょう。
まずこの照明は何のために、つけるのでしょうか?_______ 褐虫藻の光合成です。
この光合成には、光吸収の効率の良い色があります。
この良い色についての解説はこちらのサイトが非常に詳しく解説してくれています。
褐虫藻に焦点を当てたLED選び すごいです。
要するに、青色多めかつ赤色をほんの少し混ぜるとよいわけです。
ここで、僕も使っていたのは、
この白3:青3:赤1のLEDライト です。
こちらは24Wとほどほどに明るく上記の条件を満たしています。
もう少し明るくしたければ、これに白色LEDを別途でつけたりするとよいかもしれません。
また、照明をつける時間帯も大切です。 褐虫藻は光合成を行うほかに呼吸も行います。この呼吸は基本的に夜の間に行われるため、必ず昼間と夜間のリズムを作る必要があります。
基本的には買う予定のイソギンチャクの住む地域の昼間と夜間の時間に合わせてリズムを作ってあげましょう。
水温は基本的には、買うイソギンチャクの産地の水温を調べて設定しましょう。
例えば、ハタゴイソギンチャクやイボハタゴイソギンチャクは23~25度(熱帯域)
などです。これは種によって簡単に調べられると思いますので是非調べてください。
準備が終わったらいざ、買いに!!と熱帯魚ショップに行くことになると思います。
しかし、魚と違い弱っているのか元気なのかわかりづらいのがイソギンチャクです。
ここで見るときのポイントは、「口」です。 イソギンチャクの口は体調を表す唯一といってもいいほどの器官です。 口が弱弱しく開いていたり、口から茶色い褐虫藻を吐き出して開けていたり、口が開いているうえに触手がぺったんこに縮んでいたりしたらやめましょう。外国産のイソギンチャクは薬剤で無理やりはがして採ってきていることが多いので、元気に見えても買ってから2週間で急に死に至ることがあります。
加えてネットで買うときは、信頼できるところ(死着保証アリ)のところ以外はやめましょう。
先にも言った通り、イソギンチャクの体調管理で見るべきところは「口」です。
口が人間のお尻の穴のように”キュッと”しまっているときは元気です。しかし、口が力なく開けているときは注意です。栄養塩が多すぎたり、光が強すぎたり、水流が強すぎる/弱すぎるなどいろいろ考えられることがあります。
その時にはまず、水質検査→光の調整→水流の順番で見直してみましょう。
水質に問題があれば、水替えをし、光を避けているもしくは欲しているようであれば調節し、水流の当たらないところに逃げていたり、水流を求めて動き回りすぎているようでば水流を調整したり、その時その時で判断しましょう。 これは日ごろの変化からしか予測できないので、常日頃から見守ることが大切です。
どうしてもわからないときは相談にのりますので
水質条件・いつから弱っているのか・水槽の状態のわかる動画・水槽の規格・水温・使っている装置などを記載の上、ご連絡 ください。 できうる限りのアドバイスを考えます。