数学的な内容というより,関連する思い出やエピソードが中心です.不定期更新.
(with Masahiko Yoshinaga) Divides with cusps and Kirby diagrams for line arrangements, Topology and its Applications 313 (2022), Paper No. 107989 (arXiv:2103.15262)
複素超平面配置の補集合は極小セル分割(セルの枚数=Betti数となるセル分割)を持つことが知られており、複素化された実超平面配置の場合は、吉永先生によるLefschetz超平面切断定理を応用する方法、Salvetti-Settepanellaによる離散Morseを用いて具体的なセルの接着写像が知られています。今回、直線配置の場合についてLefschetzの定理の方法を精密化することで、微分同相型を記述するハンドル分解を得ることができました。また、ハンドル分解を表すKirby図式をA'Campoのdivideを一般化した「カスプ付きdivide」を定義し、それを用いて記述しました。
カスプ付きdivideを発見したのは、確かdivideについてのセミナーがあった直後の先生とのセミナーで、「こうすればdivideっぽく見えるけどどうしてもひねらせる必要が...」「ではカスプをつけて向きを入れ替えてしまえば良いのでは?」というやりとりがあったのをよく覚えています。
$¥mathbb{Z}$-local system cohomology of hyperplane arrangements and a Cohen-Dimca-Orlik type theorem, International Journal of Mathematics, Vol 34 (2023), no. 8, 2350044 (arXiv:2209.02237)
超平面配置の補集合の局所系係数コホモロジーはさまざまな文脈で調べられており、あるgenericな条件のもとでの複素係数のコホモロジーは中間次元だけ値が残り、他はすべて0になる(消滅定理)が知られています。この論文では、Cohen-Dimca-Orlikによる消滅定理の条件のもと、複素化実超平面配置の整係数の局所系係数コホモロジーの計算をしました。複素係数のように0となるではなく、Z/2Zのトーションがたくさん出てくるという結果になりました。計算は、吉永先生が導入したchamberの隣接関係を使ってコホモロジーの計算を行う方法に基づいています。
M2の秋頃は局所系係数ホモロジーの計算をずっとして過ごしていました。プレプリントを出した直後、関連する論文がいくつかarXivに上がってドキドキした記憶があります。
(with Suguru Ishibashi, Masahiko Yoshinaga) Betti numbers and torsions in homology groups of double coverings (arXiv:2209.02236), to appear in Adv. in Appl. Math.
二重被覆空間のBetti数と2-トーションの個数についての関係を示しました。超平面配置の補集合の場合、これはMilnorファイバーの(-1)-モノドロミー固有空間に対するPapadima-Suciu予想の精密化にあたります。
Handle decompositions and Kirby diagrams for the complements of plane algebraic curves (arXiv:2306.10519)
アフィン平面代数曲線の補集合は実4次元多様体になります。そのハンドル分解とKirby図式を与える方法を、ブレイドモノドロミーを精密化することで与えました。
修論(1.の内容)が一区切りついた段階で次は何しようかと考えたときに、代数曲線補集合の基本群の勉強をしてLibgoberの結果を知り、「このアイデアはKirby図式まで書けるのでは?」と思ったのがきっかけでした。1.の時ほどexplicitに接着写像が記述できず苦労しましたが、なんとか(想像していた通りに)できました。
Divides with cusps and symmetric links (arXiv:2312.00422)
カスプ付きディバイドで表すことのできる絡み目の特徴づけを与えました。これによって特にstrongly invertible knotは全てカスプ付きディバイドの絡み目として書けることが従います。(個人的に)本質的な気づきである、signed divideとの関連は2021年の2月には気づいていた。。。
(with Takuya Saito)Homogeneous quandles with commutative inner automorphism groups (arXiv:2403.07383)
純粋なカンドルの論文。内部自己同型が可換な等質カンドルの特徴づけを行いました。特に、それらは全て自明カンドルのアーベル拡大になります。きっかけは2021年11月の田丸先生の集中講義でした。その講義でこの論文の内容が紹介されていて、一緒に聴講していた同期の斎藤さんと「一般化できるのでは?」という話になってできました。M2の冬は院生室で斎藤さんとずっとSection 4の内容について議論していました。
First homology groups of the Milnor fiber boundary for generic hyperplane arrangements in $¥mathbb{C}^3$ (arXiv:2404.01555)
3次元の超平面配置の(closedな)Milnorファイバーの境界として現れる3次元多様体を調べました.これは孤立特異点の特異点リンクに対応するものです.ジェネリックな配置に対して,Milnorファイバーの境界の1次ホモロジー群を計算した,というのが主結果で,これはSuciuが予想した式そのものになっています.非孤立特異点のMilnorファイバーやリンクに関して調べていたらNemethi-Szliardの本にD2の頃出会い,D2の頃はずっと非孤立局面特異点のMilnor fiber boundaryのplumbing graphを求める方法を勉強していました.結局は,Z-上の線形代数でゴリ押し.ジェネリック配置のplumbing graphもNemethi-Szilardに書いてありますが,直ちにわかるものでもないと思います.Section5で超平面配置の場合にMilnor fiber boundaryのplumbing graphの求め方をまとめたので,これは将来誰かの役に立つと嬉しい.
(追記:査読中に計算が進んで,「n枚配置ならばトーションはZ_nのみだろう」というSuciuの予想の反例が見つかりました.n枚配置トーションの位数には,交点の多重度とnの最大公約数が大きく関わっている気がしますが,その真相はこれから解明したいです.)
The cohomology ring of the boundary manifold of a combinatorial line arrangement (arXiv:2507.06728)
超平面配置のトポロジーにおいて「位相不変量が組合せ的に記述されるか?」というのは有名問題ですが,直線配置の管状近傍の境界として現れる3次元多様体は位相型そのものが組合せ的に記述されます.(incidence graphをplumbingする)「ということはこの三次元多様体は実現不可能なrank 3 simple matroidからも定義できるのでは?」と思ったのが調べ始めたきっかけ.結局その定義および研究は先行研究にあった(Ruberman-Starkston)のですが,いろいろ調べていた中で,「コホモロジー環が補集合のコホモロジー環の二重化になる」ことと,「グラフ多様体のコホモロジー環の記述」をほぼ同時期(2024年11月頃)にみつけて,それらをうまく組み合わせれば,二重化の結果を実現不可能な場合まで一般化できるだろうと思って,やったもの.一番大事なのは,Section 4.4の2-cycleの構成.これは複雑ではあるが,できあがり,intersection productの計算も思い通りになった時は嬉しかった.
Even torsions in the homology group of the Milnor fiber boundary of hyperplane arrangements in $¥mathbb{C}^3$ (arXiv:2512:01371)
論文7でMilnor fiber boundaryのホモロジー群を計算したものの続き.C^3内の超平面配置のMilnor fiber boundaryは閉3次元多様体であり,同相型は組合せ的に決まることが知られている.1次のBetti数は明示的な公式があるが,ホモロジー群のトーションに対しては明示的な公式がまだ知られていない(いくつかの計算を根拠に,ある条件下での予想を論文7で与えているが).具体的に計算しようとするとハードなので,何か一般論でいい方法はないか?と考えていた2025年9月上旬のある日,吉永先生の20-12面体配置論文の方法や論文3で与えた二重被覆のトーションの計算公式が使えるのでは?と気づく.Cohen-Suciuをもう一度みてみると,boundary manifoldのresonance varietyの計算も書いてあり,それも上手く合わせて,ある条件下(枚数が2の冪+交叉の重複度が2または奇数)の元で偶数トーションがEuler標数で下から抑えることができた.条件,トーションの位数は限られているし,結果も不等式なので強い結果ではないが,boundary manifoldのresonance varietyの結果を使えたことや,論文7を書いた時点では予想にEuler標数が出てきた根拠が謎だったが,それがresonance varietyに関係ありそうという雰囲気が出てきたのはいい進展かと思う.Milnor fiber boundaryに興味を持ってくれる人が増えて欲しい.ちなみに論文着手から投稿まで今までで最も早かった.