卒業研究・セミナー
研究室について
研究室の選択の際に参考になるかと思いますので, 色々書いておきます.
高校生向けの研究紹介はこちら→[夢ナビ講義] 素数を扱う関数と原子核エネルギーの不思議なつながり
夢ナビ30分動画はこちら
まず, 私の専門は数学です. 最近研究している分野は整数論であり, 特に「保型形式」について研究しております.
私が興味を抱いている「保型形式」というものは, 上半平面 (複素数平面の上半分) を定義域とする複素関数であって,
群の作用や微分作用素に関する対称性を備えた関数のことです.
保型形式という用語は実際は複素多様体やリー群上の関数に対しても使われており,
SL(2, Z)のような数論的な群の作用を考える時は, しばしば「モジュラー形式」と呼ばれます.
一見すると関数論のように見えますが, 楕円曲線と密接に関係しており,
その関係はフェルマーの最終定理のような方程式の整数解の研究にも使用されました.
保型形式は整数論の研究にはなくてはならない関数です.
ところで, 私はアデールが好きです (歌手のアデール ではありません!).
ここでは詳しくは述べませんが, アデールはイデアルから派生した数学的対象です (cf. 数学のアデール ).
実は, アデールを用いて保型形式を研究することができます. アデールを使うと保型形式は保型表現という概念に姿を変え,
これは類体論の非可換化にあたるラングランズ・プログラムの記述に不可欠です.
保型表現を研究するには跡公式(trace formula)が強力な道具でして....難しい話になってきたのでこのへんでやめますね.
(簡単な説明は高校生向けにサイエンスアカデミー に書いてありますが, 所属が変わったためこれはもうすぐ消えます.)
学生から「卒業研究にあたって事前に何を勉強すればよいですか? 」という質問をよくうけるので, ここで答えておきます.
整数論に限らず, どんな分野も代数学・幾何学・解析学と関連していますので, 色んな数学を満遍なく勉強しておくことが望ましいです.
(※代数学・幾何学・解析学は分野名ではなく「考え方・手法」のことです. これは大事なことです!)
最低でも「高校数学・微分積分学・線型代数学」の3つが理解できていれば卒業研究はなんとかなると思います.
もうひとつ付け加えておくと, 数学を勉強する上でもちろん実力も必要ですが, まず第一に数学が好きという気持ちが必要ですので,
そういう知的好奇心を一番大事にしてください.
さて, 卒業研究では基本的には整数論の初歩 (類体論の基盤にある, 初等整数論や代数的整数論など)を扱う予定です
(金沢大学のスタッフ紹介も少しは参考になると思います).
または, ゼータ関数や保型形式を扱います. ゼータ関数とは素数の分布を調べる上で重要な道具です.
上記のこと以外の数学ももちろんOKです. どの分野も整数論との関連はあります. 代数学・解析学・幾何学といった枠にとらわれず,
はたまた整数論という枠にもとらわれず, 数学ならば何でもwelcomeですので, 何かご要望がありましたら気軽にご相談ください.研究室選びの際は, こちらの数物科学専攻のページを参考にしてみてください.
卒業研究・セミナーの準備の仕方, 発表の仕方
河東先生の記事に書いてあるようにするのが望ましいです.
以下の記事も参考にすると良いです.
卒業研究・セミナーでこれまで使用した本
日本大学にて
2019年度 (5名)
小野孝 「数論序説」
安福悠 「発見・予想を積み重ねる それが整数論」
2020年度 (5名)
雪江明彦 「整数論1 初等整数論からp進数へ」
山崎隆雄 「初等整数論 数論幾何への誘い」
栗原将人, 黒川信重, 斎藤毅 「数論II」
2021年度 (4名)
斎藤秀司 「整数論」
細矢治夫 「トポロジカル・インデックス -フィボナッチ数からピタゴラスの三角形までをつなぐ新しい数学-」
2022年度 (6名)
Ernst Kunz 著・織田 進・佐藤 淳郎訳 「可換環と代数幾何入門 -イデアルと加群の生成系をテーマの中心として-」
松本耕二 「リーマンのゼータ関数」
森田康夫 「整数論」
青木昇 「素数と2次体の整数論」
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金沢大学にて
2023年度 (3名)
志賀弘典 「保型関数」
森田康夫 「整数論」
M. F. Atiyah, I. G. MacDonald 著・新妻弘 訳, 「可換代数入門」
2024年度 (5名)
大島利雄, 小林俊行 「リー群と表現論」
S. Awodey 著, 前原 和壽 訳 「圏論」原著第2版
荒川恒男, 伊吹山知義, 金子昌信 「ベルヌーイ数とゼータ関数」新装版
修士課程のセミナーで使用した本
日本大学にて
2020年度 (1名)
Toshitsune Miyake "Modular forms"
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金沢大学にて
2024年度 (3名)
Davidoff, Sarnak, Valette "Elementary number theory, group theory and Ramanujan graphs"
志賀弘典 「保型関数」
Quing Liu "Algebraic geometry and arithmetic curves"
学生の修士論文
2021年度「保型シュワルツ微分方程式のモジュラー解について」