希土類元素とは?

 希土類元素は、水素(H)、ヘリウム(He)、リチウム(Li)、…と続く周期表で、3族に分類されているスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、とランタノイドの総称です。ランタノイドは原子番号57のランタン(La)から原子番号71のルテチウム(Lu)までの15元素の総称です。ランタノイド同士の化学的特徴は非常に似ており、なおかつ他の族の元素とは異なるため、周期表では本体の表の下に“はみ出して”配置されているのが一般的です(下図)。ハイテク産業には欠かせない元素であり、英語でRare Earth Elementと言うことから、“レアアース”として近年耳にする事が多い元素です。

 少し歴史について触れたいと思います。1787年、スウェーデンの陸軍中尉だったアレニウス(Carl Axel Arrhenius; 1757-1824)は、ストックホルム郊外のイッテルビー(Ytterby)村で黒いアスファルトのような鉱石を発見しました。この鉱石はガドリン(Johan Gadolin; 1760-1852)によって分析され、当時未発見であった元素が38%も含まれている事が明らかになりました。そして1794年、ガドリンによって新元素イットリウムが発見され、希土類元素の歴史が始まります。なお、この鉱石はガドリンの功績を称えてガドリナイトと命名されています。しかし、希土類元素は化学的性質が非常に良く似ているため相互分離は困難を極め、全ての希土類元素が分離されたのは100年以上後の1907年でした。なお、原子番号61のプロメチウムは安定同位体が存在しないため現在の天然環境では存在しない元素で、その発見は1947年でした(同位体についてはこちらをご覧下さい)。

 希土類元素の名前を見てみると、北欧、特にスカンディナビア半島に由来する名前が多いことに気付きます。原子番号21のスカンジウム(Sc)はスカンディナビア半島、原子番号69のツリウム(Tm)はスカンディナビアの古名であるThule(ツーレ)、原子番号67のホルミウム(Ho)はストックホルムの古名であるHolmia(ホルミア)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)の4元素はガドリナイトが発見されたイッテルビー村、そして原子番号71ルテチウム(Lu)はパリの古名であるLutetia(ルテチア)、原子番号63のユーロピウム(Eu)はヨーロッパが名前の由来です。なお、原子番号64のガドリニウムはガドリンを記念して命名されています。

 面白いことに、ガドリナイトが発見されたイッテルビー村の道路には、イットリウムやテルビウムなど元素の名前が用いられています(なぜか、希土類元素ではないタンタルの名前も)。また、スウェーデン語で長石を意味するFaltspatや雲母を意味するGlimmer、鉱山を意味するGruvaも道路の名前に使われています。ちなみに、“イッテルビー”とは「遠くの村」という意味であり、スウェーデンではよくある地名のようです。

 さて、それでは希土類元素の地球化学について紹介したいのですが、その前に太陽系の元素存在度を見てみましょう。右図は、珪素(Si)が100万個あるとした時に他の元素が相対的にどれだけ存在しているかを表しているのですが、原子番号が大きくなるにつれて、存在度が少なくなっていくことが分かります。さらに、原子番号が小さい元素(水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素)では例外ですが、それ以降の元素では原子番号が偶数の元素の存在度が、隣り合う奇数元素よりも高くなっています。この法則をOddo-Harkins(オッド-ハーキンス)則と言い、太陽系の元素合成メカニズムにおいて重要です。図を見れば明らかですが、希土類元素、特にランタノイドの存在度もギザギザしています。

 地球上の岩石と海水、そして隕石の希土類元素濃度を比べた図を次に載せます(海水の濃度は100万倍しています)。濃度だけをプロットするとギザギザになってしまうのですが(下左図)、ギザギザな形をギザギザな形で割る(これを規格化と言います)と、滑らかな線になるのです(下右図)!この事に最初に気づいたのは希土類元素地球化学の発展に大きく貢献された日本人の増田彰正先生(1931-2011)です。このように隕石などの基準となる物質で規格化したプロットを希土類元素(REE)パターンと呼びます。

 上図のようにREEパターンではイットリウム(Y)をホルミウム(Ho)とエルビウム(Er)の間に挟む事が多いです。それについて少し説明します。右に示したのは、希土類元素のイオン半径です。希土類元素は基本的に3価の陽イオンで存在し、様々な配位数を取ります。その中でも多くの教科書に載っている6配位、8配位、9配位のイオン半径を図示しています。この図を見るといくつか気付く事があります。まず、ランタンからルテチウムにかけてイオン半径が連続的に減少しています。これはランタノイド収縮と言われる現象で、ランタノイドとウランやトリウムなどのアクチノイドにのみ見られる現象で、原子の電子軌道が関係しています。そしてもう1つ、イットリウムのイオン半径がホルミウムととても近い事が分かります。化学的性質とイオン半径が似ている2つの元素ですが、先ほどのように、海水ではHoとErを結んだ線よりもYは上にプロットされますが、玄武岩や頁岩では下にプロットされます。この様に、イオン半径が似ているものの、異なった挙動を示すことから、YをHoとErの間にプロットする事が多いです。

 さて、再び隕石で規格化したREEパターンを見てみましょう。すると右に示したように幾つか特徴があることに気付きます。まずはセリウム(Ce)が滑らかな線から外れている点です。先ほど、希土類元素は基本的に3価の陽イオンで存在すると書きましたが、実はCeは4価としても存在する事ができるのです。4価のCeは溶解度が極めて低い(水に溶けにくい)ことから、河川などから海に入った希土類元素の中で、Ceは様々な粒子にくっついた際に(これを吸着と言います)4価になると海水中から取り除かれてしまうのです。また、3価と4価という異なる酸化数で存在できることから、過去の酸化還元状態(酸素が多かったか少なかったか)を推定する指標として用いる事ができます。同様に、ユウロピウム(Eu)も滑らかな線から外れていることに気付きます。Ceの場合は4価でも安定に存在することが原因でしたが、Euは3価だけではなく2価としても安定に存在することが原因です。還元的(酸素の少ない)環境ではEuが2価で存在するために他の希土類元素とは異なる挙動を取るのです。このように、滑らかな線から外れてプロットされる元素の振る舞いをanomaly(異常)と言います。

 もう1つ、ガドリニウム(Gd)からホルミウム(Ho)までと、エルビウム(Er)からルテチウム(Lu)までが、上や下に凸な滑らかな曲線を描いていることに気付きます。ここに載せているデータでは、CeやEuに異常があるためよく分かりませんが、実際には、ランタン(La)からネオジム(Nd)までと、プロメチウム(Pm)からGdまでにも現れ、Gdで折り返すようになっています。つまり、Gdを中心として前後に4元素ずつの曲線になっているのです。四つの組になっていることから、四つ組(テトラド)効果と呼ばれています。そして、このテトラド効果は上に凸のテトラドと下に凸のテトラドがあり、上に凸はアルファベットのMのように見えることからM型テトラド、下に凸はWに見えることからW型テトラド効果と呼ばれています。このテトラド効果も、実は電子軌道と電子スピンの影響が大きいです。また、テトラド効果は水が関与した反応(水-岩石反応など)で見られる事が多く、天然での希土類元素の挙動を考える上で重要な反応です。

 このように、化学的特徴が互いに類似した希土類元素ですが、REEパターンには様々な特徴が現れることがお分かりいただけたかと思います。また、玄武岩と頁岩ではパターンが全く異なるように、REEパターンは天然物質の起源や反応過程を反映する優れた地球化学的トレーサーとして用いる事ができるのです。


 希土類元素について、より詳しくはこちらの邦文をご参照ください。

他の研究手法:

・安定同位体比分析 → 同位体とは?

・化学種分析 → XAFSとは?