XAFSとは?

 XAFSとはX線吸収微細構造のことで、英語でX-ray Absorption Fine Structureの頭文字をとっています。X線と聞くと病院のレントゲン写真や空港の手荷物検査をイメージするかと思います。しかし、科学では物質の構造を明らかにしたり、元素の濃度を測定したりすることに使われています。X線は1895年にレントゲン(Wilhelm Conrad Rontgen; 1845-1923)によって発見され、その後1912年にラウエ(Max Theodor Felix von Laue; 1879-1960)が結晶によるX線回折現象を発見し、電磁波であることが明らかとなりました。電磁"波"ということは波であり、波長(波打ちの幅)によってエネルギーが異なります。

 物質にX線が当たると、(i) 物質を透過するX線、(ii) 屈折したり反射するX線、(iii) 蛍光を発するX線の3種が生じ、それぞれ、透過X線散乱X線蛍光X線と呼ばれています。このうち、散乱X線は結晶構造を、蛍光X線は元素の濃度や物質の極表面の状態を調べるのに使われ、透過X線は物質の密度や元素の状態を調べるのに使われます。以下では主に透過X線について説明します。

 物質に当たる前のX線(入射X線)と透過X線の強度の比を吸光度と呼び、物質にX線が当たると、物質を構成する原子によってX線が吸収されることで吸光度が増加します。ここで、I0は入射X線、Iは透過X線の強度です。吸光度が急激に増加する所を吸収端と呼び、原子核の周囲にある電子が、外側の電子軌道に移れるエネルギーを吸収します。移動する電子がK殻にあればK吸収端、L殻にあればL吸収端と呼びます。

 次に、吸収端付近でもっと細かくエネルギーを変化させてみましょう(右図)。すると、吸収端の直後にギザギザと波打つような構造が確認されます。このように、X線が吸収した際に現れる微細な構造をX線吸収微細構造(XAFS)と呼びます。XAFSスペクトルは、エネルギー領域によってX線吸収端近傍構造(X-ray Absorption Near Edge Structure: XANES)と、広域X線吸収微細構造(Extended XAFS: EXAFS)に分けられます。XANESは吸収端の前後50 eV程度の領域で、EXAFSは吸収端から1000 eV程度までの領域です。XANESとEXAFSでは波打ち構造の原因が違い、それゆえ得られる情報も異なります。

 XANESは結晶構造に敏感で、配位の対称性や原子の化学状態(価数)についての情報が得られます。右図に示したのはセリウムL3吸収端XANESスペクトルです。CeCl3は1つの鋭いピークなのに対し、CeO2とCe(SO4)2はピークが2つに分かれており、さらに、ピーク位置がやや右側(=高エネルギー側)にズレているのが分かると思います。このパッと見てわかる形状の違いは化学状態の違いを反映しており、CeCl3はセリウムが3価であるのに対し、CeO2とCe(SO4)2は4価として存在しています。さらにCeO2とCe(SO4)2のピークの形を比べてみると、CeO2では左側の方が吸光度が高いのに対し、Ce(SO4)2では右側の方が吸光度が大きくなっています。これは、CeO2は共有結合性が強いのに対し、Ce(SO4)2ではイオン結合性が強いためです。

 EXAFSでは目的原子の周囲の局所構造について、(i) どのような元素が、(ii) どの程度の距離に、(iii)どのくらいの配位数で結合しているかの情報を与えます。まずはXAFSスペクトルからEXAFS振動を抽出し(右上図)、さらにそれをフーリエ変換すると所々ピークが現れます(右下図)。このフーリエ変換した図の横軸は目的原子からの距離で、ピークは近接元素を示します。右図の場合は水酸化セリウムのEXAFS振動を抽出し、フーリエ変換した例で、目的原子のセリウムが横軸0に、1つ目のピークは第一近接元素の酸素を、2つ目のピークは第二近接元素のセリウムの存在を示しています。

 最後にXAFSの利点について少し説明します。XAFSはX線の吸収を測定するものですので、同位体比測定などとは異なり、非破壊測定です。また、周期表のほとんどの元素では試料の状態に関わらず大気圧下で測定可能です。元素に固有な吸収X線を測定するということは、言い換えると元素選択性が極めて高く、原理的には全元素の測定が可能です。そのため、感度が高く、低濃度の試料でも測定可能です。さらに、X線回折では測定できない非晶質鉱物の測定も可能です

他の研究手法:

・希土類元素分析 → 希土類元素とは?

・安定同位体比分析 → 同位体とは?