立ち上げの経緯

去る2015年、第189回国会の会期中に「多様な教育機会確保法案」の上程が話題になり、2016年12月には最終的に条文中の「多様な」の文言が全削除された法律(「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」2016年12月14日公布)として成立しました。

私たちは2015年夏に骨子案が報じられた時点で、この法案の可能性と危険性とに問題意識を共有した数名の仲間で集まり、法案ができてきた経緯や条文の内容について勉強会を始めました。

月1回ペースで半年ほどのブレインストーミングの期間を経て、あらためてこの法案が提起した問題の射程は広く、かつ深いと考えるに至りました。そこで、法案への直接の賛否・立場やそれぞれの分野を超えて、広く「多様な教育機会」について考えていく研究会を立ち上げようと準備を進め、2016年4月から正式に研究会をスタート、以来、およそ隔月に1度の頻度で研究会を開催しています。

集まりの名称は「多様な教育機会を考える会」です。現在は20名足らずのメンバーですが、教育学、社会学、社会政策・社会保障・社会福祉の研究者、それ以外にジャーナリストや元教員、フリースペース出身の会社員の方などもいます。

当初「オルタナティブ」や「多様な」といった文言が刻み込まれた法案には、たしかに既存の公教育体系を揺るがすような潜勢力が備わっていました。それは「公」を「国家」と、また「教育」を「学校」と等値に見なしてきた、これまでの公教育のあり方を根底から問い直し、公私関係の新たな線引きを正当化する理念・思想とそれを具現化する制度設計とを要請していたように思います。

法案が形をとるまでに、すでに多くの努力と英知が注ぎ込まれたことは明らかです。法案が提示されたのちも、当事者の方々を中心に、推進派・反対派双方の意見がはっきりと打ち出され、争点の所在がいっそう明確になっていったことも画期的なことでした。その過程じたいに、「公教育」がどこか高みから与えられるものではなく、私たち自身の議論を通じてはじめてその内実がダイナミックに支えられるべきものであることが示されていたからです。

私たちは、あらためてこの法案が提起した論点の布置を、「公教育の再編」という長期におよぶ過程の一局面として把握する射程のもとで整理し、錯綜する問題群を一つひとつ解きほぐしていく学際的かつ実践的な営みとして引き継ぎ、継続していきたいと考えています。

これまで公教育体系から排除されてきた「多様な教育機会」の公共性をどのように考え、多様な価値観の肯定と「教育の機会均等」の理念とをともに手放すことなく、いかなる再編の全体像を描くことができるのか。検討すべき論点は多岐にわたりますが、概略的に言えば、(1)「公」教育の再編(の長期におよぶ過程の一局面)に「福祉」の視点・要素をどう組み込んでいけるか、そして、(2)そこにどのような理念や根拠にもとづいて財源をつけていけるか/いくべきか、といった課題が軸になるでしょう。

今後は少しずつ研究会の「外」に向けた発信を増やしていき、これまで接点のなかった人たちとも交流と議論の機会をもって、上述した「錯綜する問題群」を解きほぐしていく方向性を模索する営みを共有していきたいと願っています。私たちの模索に同伴してくださる方の来訪も、いつでも歓迎いたします。

連絡役は森のほか数名が務めています。ご関心があれば気軽に話しかけてください。

2017年 8月 1日

【事務局】

金子 良事、加藤 梨乃、森 直人、仁平 典宏、澤田 稔、山田 哲也