本会の趣旨

私たちは、社会の「多様な教育機会」について、可能なかぎり多様な立場から考え、議論していくプラットフォームをめざします。


〈何を議論するのか〉

この集まりは、2015年のいわゆる「多様な教育機会確保法案」をきっかけに誕生しました。ですが、私たちの考える「多様な教育機会」は、この法案に直接かかわる学びの場にかぎりません。

フリースクール、フリースペース、オルタナティブスクールや夜間中学、ブラジル学校などの外国人学校だけでなく、塾や予備校、通信制や特別支援の教育機関・教育サービス、あるいは(学童)保育、社会的養護、就労支援や貧困対策・生活困窮者支援などの社会福祉制度や労働世界のなかにある育ちの場、さらに家庭でのホームエデュケーション/ホームスクーリング、そしてもちろん公立・私立の学校を含みます。ここにあげたリストはずっとアップデートしていかなければならないでしょう。

この社会に遍在し、成長する人びとの生を支えるあらゆる「多様な教育機会」が、私たちの考察と議論の対象です。


〈なぜ議論するのか〉

「多様な教育機会」には、学校などの公的機関だけでなく、NPOや株式会社などの各種法人・民間団体も、重要なアクターとしてかかわります。そして現に、これらのアクターが複雑に絡みあいながら、従来型の公教育制度に絶えず、新しい問いかけをしているように思います。

そこには育てていくべき可能性の芽もあれば、避けるべき危険性や落とし穴もあるでしょう。法案が提起した問題も、現在の日本の公教育で進みつつある変容も、その射程は広く、行く末は不透明です。そこから派生する問題群は錯綜しており、具体的な制度化の構想をめぐっては、ときに激しい対立をもたらします。

私たちは、そうした対立のどちらかに立つ前に、錯綜する問題群のそれぞれが、どこで、どのような対立をもたらし、どういう争点・論点を構成するのか、ということを明示的に共有していくプロセスをまず大事にしていきたいと考えています。

そのためにも、 争点を構成しうるだけの――対立の契機をも含んだ――多様な観点・志向・利害・関心・背景・専門を有する人びとが同じ場に集まり、それぞれの立場を尊重しつつ対話する、という条件を維持することに努めます。


〈何をめざして議論するのか〉

私たちの会は、扱うトピックも、議論に参加する人びとも、一見するとバラバラな集まりですが、それでもひとつに貫く大きな目標があります。

それは、「多様な教育機会」という視角を軸に、さまざまな領域で営まれている多様な実践を相互に関連づけ、新しい回路を切り拓きながら、それらをより豊かにしていく将来構想の全体像を描くということです。単純で粗悪な「市場化」「民営化」へとつながりかねない公教育の再編とは異なる道筋を示すことです。

誰も取り残されることなく、学び、育つ権利が保障される社会の実現という理想にむけて、狭い「教育」の枠を越えた、実践とその制度化のビジョンを模索することです。この模索に終わりはありません。

いま・ここにいる〈ひとり〉の意思を尊重し、いかに支えるかという問題意識と、制度の変化が長期にわたって〈社会〉にもたらす帰結を問う視線は、どちらも必要です。どちらの視角からの問いかけにも、多様な背景をもった人びとが、世代をまたいで、長くともに考え続けていくことが大切です。

私たちは、その一翼を担いたいと願っています。

2019年9月1日

【事務局】

金子 良事、加藤 梨乃、森 直人、仁平 典宏、澤田 稔、末冨 芳、武田 緑、山田 哲也