2024RadEpi

連続ウエビナー
「放射線の健康影響評価を巡るデータ分析の問題

    市民、統計家・データサイエンティストとともに学ぶ」

○ウエビナーの背景

 福島原発事故以降、「100mSvを越えると、がん死亡のリスクが高まる(放射線医学研究所[1])」、「(東電福島事故による)放射線関連のがん発生率上昇は、みられないと予測される(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)[2]」など、放射線被ばくの健康影響について説明されてきました。前者は、100mSvまでは被ばくしても影響はない(100mSv閾値論)、後者は福島原発事故による放射線被ばくによるがんの発生がないと国連の機関が予測していると解釈されがちです。


 しかし、前者のもとになっている原爆被爆者を分析した論文を読むと、様々な問題があることがわかります。例えば、ひとりひとりの放射線被ばく量が推定されているにもかかわらず、分析の際は5mSv以下、5.1-10mSvのように被ばく量を区切って、集計したデータを用いています。これは個人別の情報を捨ててしまっていることになり、被ばくの影響を検出しにくくしています。後者については、報告書を読むと、被ばく時5歳以下の女児グループでは、生涯で50件程度の甲状腺がんが放射線によって生じ得るが、誤差にまぎれて検出できないとしています[3]。そうであれば、誤差が小さくなるようにしっかりとした検診体制を構築するといった対策が必要でしょう。

 

 どのような分析がなされているのかを理解していないと、これらのメッセージの意味を正しく理解できず、誤った対策を行ってしまうことになります。

 福島原発事故では100mSvだけでなく、年間20mSvまでならば校庭を使って良い、などの参考レベルが設定されました。その根拠となったICRP(国際放射線防護委員会)の2007年基本勧告が約20年ぶりに改訂されることになりました。基本勧告は、これらの研究に基づいて策定され、それが日本の政策にも取り入れられます。これまでの研究によって、どのようなことがわかっているのか、その問題点も含めて理解しておかないと、勧告が改悪される可能性もあります。

 

○ウエビナーのねらい

 このようなデータを分析する学問分野は放射線疫学と呼ばれ、一般の市民には難しく聞こえますが、分析方法は、ばねに力をくわえ、その伸びを測定し、横軸に力、縦軸に伸びをプロットし、その傾きを求めるというフックの法則の実験と同じです。横軸に被ばく量、縦軸に健康影響をプロットし、その傾きを求めればよいのです。このウエビナーでは、市民の皆さまにわかりやすく、放射線の健康影響評価を巡る様々なトピックを紹介することによって、リテラシーを高めるための一助としたいと考えています。

 

 いうまでもなく上記の言明はデータ分析に基づいています。データ分析はさまざまな分野で行われていますが、研究分野の細分化が進み、ある分野では専門家であっても、分野が異なると何をしているかわからない、興味がないといった状況も生じています。しかし、放射線疫学で用いられているのは、おもに(ポアソン)回帰分析であり、難しい手法ではありません。分析手法や利用可能なデータを紹介しますので、より多くの統計家・データサイエンティストの方々が、原論文などを批判的に読み、再分析する手がかりとなれば誤りが広く流布してしまい状況も回避できるのではないかと考えています。



[1] QST放射線医学研究所、放射線被ばくの早見図2011年4月版の表現。その後、100mSv以上の部分の、「がん死亡のリスクが線量とともに徐々に増えることが明らかになっている」とされた。

https://www.qst.go.jp/site/qms/1455.html

[2] UNSCEAR 2020/21福島報告書(ドラフト)のニュース・リリースタイトル

https://www.unscear.org/docs/publications/2020/PR_Japanese_PDF.pdf

[3] UNSCEAR 2020/21福島報告書 (日本語訳 パラグラフ222)

https://www.unscear.org/docs/publications/2020/UNSCEAR_2020_21_Report_Vol.II_JP.pdf


○第一回 日時と内容

・2024年7月12日 (金) 19:00-20:00

濱岡豊(慶応大学商学部・教授、マーケティング・サイエンス)

「データ分析入門、原爆被爆者疫学調査からの知見と課題」

 

(概要)

 「講演録:福島第一原発事故と市民の健康 ――放射線疫学を読み解くためのデータ分析入門」(https://www.ccnejapan.com/?p=12422 から無料公開)をベースに、まず簡単な例題を用いてデータ分析の考え方を紹介します。その後、放射線疫学の重要な研究である広島、長崎の被爆者調査の結果からわかっている点とあわせて、分析上の問題点を紹介します。

 広島・長崎の原爆被爆者については、集計された匿名化データが公開されていますので、データ分析に興味がある方は、自分で分析するとよいでしょう。


○開講方法など

ZOOMによるオンラインセミナー形式。

録画を公開する予定です。重要な事項をコンパクトに紹介するため、40分程度で説明。その後20分程度のQ&Aを想定しています。

 (講師の都合によっては、その後も希望者がいらっしゃればQ&Aを延長する可能性もあります)

 

○申し込み方法

 下記からZOOMに登録して下さい。接続用のアドレスがメールされます。 (メールアドレスの入力間違いに注意してください)。 参加無料。

 ウエビナー形式で開催予定ですが、録画を公開する予定ですので、表示される名前、Q&A時に顔を映写するかなどはご自分で設定をお願いします。


 こちらから登録して下さい(ZOOMのページに移動します)。 


○2回目以降の日程、内容

・2024年8月9日 (金) 19:00-20:00

永井 宏幸(NPO 法人市民科学研究室)

「国際核施設労働者調査INWORKS2023の成果と喫煙交絡問題」

 

・2024年9月13日 (金) 19:00-20:00

本行 忠志(大阪大学名誉教授 放射線生物学)

「低線量被ばくの危険性について:放射線生物学からの重要な知見を中心に」

 

・以降、下記のようなトピックを取りあげる予定です。

 「福島県での甲状腺検査」

 「データのオープン化の現状と課題」

 

○主催: 分野を横断した放射線疫学の研究会

https://sites.google.com/view/radepi/

  

共催:放射線防護の民主化フォーラム 

 https://sites.google.com/view/democratize-rp

 ほか、募集中

 

○問い合わせ先

 濱岡 豊(慶応大学商学部、教授)

hamaoka@fbc.keio.ac.jp