研究内容
ー問いを評価するー
ー問いを評価するー
前職での気づきから約20年,「問う力」を問うテストの開発を具体化する糸口が見つからないまま暗中模索の状態が続きました。そこに新型コロナが流行し授業はすべてオンラインとなりました。担当していた授業もこれまでよりきちんとした資料を用意することとなり、それに関わる書籍を今一度しっかり読む必要が生じました。その1冊オーストリア出身の科学哲学者であるウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』です。そしてこれが大きな転機となりました。知識というと命題,すなわち「AならばB」という記述ばかり考えていましたが,「論理」があるではないかと気づいたのです。この本は,科学的な知識についての定義について詳細に記述されています。私たちが未来永劫にわたって知り得る,すなわち「ことば」で表現可能な知識の総体を「論理空間」と名づけました。そして知識は命題と論理によって構成されており,命題は原子命題という最小単位に分割されるとしています。「問う力」の試験あるいはテストは解答を評価する必要があります。つまり,「AならばB」という解答であれば○とか×とか,何点だとかといった評価指標が必要です。しかし「問う力」の評価指標としてこのような命題を設定してしまう,すなわち「AならばBであるか?」という質問をしたら○にするとか,何点だとかとしてしまうと,問いの持つ自由さが損なわれます。
Judge a man by his questions, rather than his answers.
という格言は中世フランスの啓蒙主義であるVoltareのものだと言われていますが,実際には彼より後代の,同じくフンランスの政治家Pierre-Marc-Gaston Lévisが著した格言集の10番目のものです。問いは自由であるが故にそれを発した人のオリジナリティが現れます。そして問いの自由さはその人の創造性につながります。したがって,問う力を評価する指標として命題を使うことはできません。そこで20年余り逡巡していたのですが,知識のもう一つの構成要素である「論理」を問えばいいじゃないか!と閃いたのです。その瞬間がQ Laboの第一歩となりました。
QI Labo
北海道大学 高等教育推進機構/大学院理学院/脳科学研究教育センター〒060−0817札幌市北区北17条西8丁目情報教育館4F