プロジェクトについて

PREVENIR(水害の予測および警報)は、持続可能な開発のための科学技術研究パートナーシッププログラム(SATREPS)の枠組みにおいて、国際協力機構 (JICA)・科学技術振興機構 (JST)の協力のもと、日本とアルゼンチンの研究機関が共同で行う研究プロジェクトです。


目的


PREVENIRは、ブエノスアイレス州とコルドバ州の2つの非常に脆弱な都市部流域を対象に、都市水害早期警報システムを設計・開発することを目的としています。本プロジェクトは、早期警報システムの開発・運用で世界をリードする日本の機関(理化学研究所、大阪大学、土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センターおよび気象庁)と、アルゼンチンの機関(国立気象局(SMN)、国立水研究所(INA) 、およびアルゼンチン国立科学技術研究評議会 (CONICET))との協力によって進められています。本システムはアルゼンチンで初の取り組みであり、これによって世界の他の地域で同様のシステムを導入するための有用な手段や知見を得ることができます。



プロジェクト実施場所


PREVENIRの開始にあたり、アルゼンチンの中でも最も人口が密集する2つの都市において、複数地区にまたがる2つの流域(ブエノスアイレス市の南に位置するサランディ川とサントドミンゴ川の間の低地、ならびにコルドバ州のコルドバ山脈の山腹からコルドバ市を通り流れるスキア川流域)を試行エリアとして選択し、開発を行います。


主な目的


    • ∙ 選定した流域において、現在の気象・水文監視能力を拡大すること。

    • ∙ 都市水害に重点を置いた最先端の気象・水文予測システムを開発すること。

    • ∙ データ、予報および警報の効率的な統合と視覚化を行い、予報の専門家、意思決定者および防災責任者が利用できるWebプラットフォームとして開発すること。

    • ∙ 地域社会、個人、意思決定者および防災管理者に対する影響力の高い、効果的な予報伝達スマートフォンアプリを開発すること。

    • ∙ 都市水害や非常時の適切な行動に関する知識を普及し、市民の意識向上を図ること。

    • ∙ 水害早期警報システムの開発と運用のために、日本とアルゼンチンの研究・運用機関間の協力を進めること。



理念

PREVENIRは、社会的側面と環境的側面の両方を考慮した持続可能な開発という理念を出発点とし、日本とアルゼンチンにおける最先端の科学技術開発と現地における知見を統合し、特定の社会的・環境的背景に配慮しながら、都市洪水がもたらす危険を低減することを目的としています。

本プロジェクトでは、このような危機管理計画の設計において情報が確実に活用され、これを地域社会が容易に理解し利用できるよう、日本・アルゼンチンの研究機関、運用機関、地方自治体および地域社会の代表者といったさまざまな関係者を含めていく予定です。

また、さまざまな専門分野で人材育成を行い、開発されたシステムの継続的な改善と拡大を行っていくことも予定し、これによって持続可能な開発が可能になるものと考えています。さらに、水害リスクに対する地域社会の意識を高め、危機管理とより効果的な意思決定を推進することにも注力します。


主な取り組みと期待する結果


本プロジェクトでは、都市水害に対する早期警報の提供という課題に対し、さまざまな補完的な観点から取り組みます。

観測網の改善とより統合的な観測:正確な予報を行うためには、質の高い信頼できるデータをリアルタイムで得ることが不可欠となります。本プロジェクトでは、2つの流域における現在の観測能力を拡大し、気象レーダーや人工衛星によるリモートセンシングデータなどの種々の観測源を効果的に統合する取り組みを行います。

雨量推定の精度向上:豪雨に伴う洪水を予測するには、リアルタイムでの雨量監視に加え、その頻度や空間分解能をできる限り向上させることが不可欠となります。

本プロジェクトでは、機械学習を利用してリモートセンシングデータを統合する、新しい雨量推定アルゴリズムの開発および評価を行います。このアルゴリズムを、対象流域で雨量をリアルタイムで監視するために実装します。

正確な短期気象・水文予測:水害の予測には、雨量や水の流量といった重要な変数の短期予測が非常に重要となります。本プロジェクトでは、データ補外(ナウキャスティング)、高解像度の気象・水文数値予測およびデータ同化といった最新技術を用い、短期気象・水文予測システムを設計します。本システムによって、気象レーダーや人工衛星のリモートセンサーをはじめとした、さまざまな観測源からの情報が統合されます。

予報や警報の効率的な伝達:効果的な意思決定と防災対策には、予報や警報を明確に伝達することが不可欠となります。本プロジェクトにおいては、Webポータルやスマートフォンアプリなどの予報・警報配信ツールを防災管理者や危機管理部門と協力しながら設計し、予報システムから得られるリアルタイム情報が確実に有効活用されるようにします。

市民の意識向上:水害の影響を軽減するには、リスクの存在や可能な軽減措置に関する知識が不可欠となります。本プロジェクトでは、深刻な洪水リスクにさらされている最も脆弱なコミュニティに特に焦点を当て、社会の意識向上のため、さまざまな教育機関や社会組織と連携し、活動を推進していきます。

能力開発:洪水早期警報システムを今後も存続させ、将来的に拡大していくためには、次世代の研究者、技術者および予報官の育成が不可欠となります。本プロジェクトにおいては、様々な教育水準での能力開発や、日本-アルゼンチン間の専門家の交流を推進します。