研究テーマ

能力は努力によって変わりうるかどうかに関する信念、暗黙理論(Implicit theories、マインドセット(Mindset)とも呼ばれます)に関心があり、この暗黙理論が文化や社会とどのように相互作用するかを研究しています。


従来の暗黙理論研究は、主に学校・教育場面において「困難な課題を努力で克服するためのパーソナリティは何か?」という観点から暗黙理論を扱ってきました。

そして、「能力は努力によって変わる」という増加理論的信念(Incremental theory)を持つことが、困難なときも努力を継続することのカギであることが主張されてきました。

逆に、「能力は努力によって変わらない」という実体理論的信念(Entity theory)を持っていると、困難に直面したときに努力を継続することができず無力的な反応に陥ってしまうと言われています。

基礎学習など避けては通れないタスクなどに取り組むときに、そのような無力的な反応に陥ることの問題の重要性を考えると、増加理論を持つことが望ましいと言えます。


では、個人が与えられた特定の課題に取り組む以外の状況で、暗黙理論はどのような働きを持つでしょうか?

これが私の研究に通底するリサーチクエスチョンです。

昨今の暗黙理論研究は学業を超え、ビジネスやスポーツ、健康行動にまで対象を広げています。

しかし教育というある意味特殊な文脈を離れた時に、暗黙理論が従来期待されていた働きをするのかは必ずしも自明ではありません。

暗黙理論の知見を適切に社会に実装するためには、様々な特性を備える社会の影響を考慮することで、教育場面における暗黙理論の知見を相対化し、暗黙理論に関するより一般的な知見を構築していく必要があると考えます。


例えば特定の課題を与えられるのではなく、課題に選択肢がある場合はどうでしょうか?

私たちが暮らす社会には、目の前の壁を乗り越えないといけない場面だけではなく、自分が乗り越えられそうな壁(得意分野)を探す場面もたくさんあります。

受験における文理選択や、就職・転職、研究テーマの策定はそういった場面に該当するでしょう。

この時、増加理論を持つことよって苦手な分野に固執してしまう可能性や、逆に実体理論を持つことによって得意な分野を色々探索するようになる可能性が考えられます。

このような問題意識のもと、私は課題を選択できる場面における暗黙理論の働きを検討しています。

Suzuki, K., & Muramoto, Y. (2023) "'You will never know unless you try': Entity theorists who perceive effort as information" The Japanese Journal of Experimental Social Psychology, 62, 64-79. Link  

Suzuki, K., Aida, N., & Muramoto, Y. (2021) "Effect of implicit theory on effort allocation strategy in multiple task-choice situations: An investigation from a socio-ecological perspective", Frontiers in Psychology,  doi: 10.3389/fpsyg.2021.767101


また、学習者が自分で課題を選択しやすい程度には、文化や社会によって違いがあります。

アメリカの教育は、ギフテッド教育や習熟度別授業などで知られるように、個人が得意な分野に取り組みやすい環境だと言われます。

逆に日本の教育は、生徒の学習進度によらない平等主義的な授業形態で、苦手な分野も克服することが求められることが多い環境だと言われます。

このように簡単に対比できるわけではありませんが、教育制度やカリキュラムによって、学習者にとっての課題選択の自由度は異なると言えます。

このような、環境要因としての課題選択の自由度と暗黙理論の関係性についても検討しています。

Suzuki, K., Aida, N., & Muramoto, Y. (2021) "Effect of implicit theory on effort allocation strategy in multiple task-choice situations: An investigation from a socio-ecological perspective", Frontiers in Psychology,  doi: 10.3389/fpsyg.2021.767101


近年は、学習者同士で学業的な援助要請・授与が行われる場面や、選抜や学歴獲得競争のダイナミクスの中で暗黙理論が社会的・心理的分断にどのような影響を及ぼすかをRQとして研究を行っています。

Suzuki, K., Fujiwara, T., & Muramoto, Y. (2023). The effect of implicit theories on help-seeking behavior: Focusing on anticipated evaluation and perceived implicit theories of the peer member. Proceedings of the Annual Meeting of the Cognitive Science Society, 45. Link 

Suzuki, K., Yoshino, T., & Muramoto, Y. (2019) "The effects of selection systems and implicit theories on individual effort," The Japanese Journal of Experimental Social Psychology, Vol 60, 50-55. doi: https://doi.org/10.2130/jjesp.1912



また、中学校・高校を対象にヒアリングを行い、生徒を対象とした調査(暗黙理論などの教育心理学的なテーマ)を実施し、授業改善につなげるためにその結果を学校側にフィードバックする業務を企業と共同で行っています。これらの調査結果の一部は学術論文として掲載が決定しています。

鈴木啓太 (印刷中). マインドセットが総合的な探究の時間の達成感に与える影響. 日本教育工学会論文誌, 47巻-Suppl.号, xx-xx.

コラボ・リクエストのこれまでとこれから: コラボにいたる路を知る」2023年9月、日本グループ・ダイナミックス学会第69回大会、高知工科大学

株式会社リバネス プレスリリース Link