シンポジウム

体育・スポーツの力で推進するSDGs

体育の指導を通して考える子どもの可能性と指導者の役割

白旗 和也(日本体育大学 教授)

【略 歴】

 東京学芸大学卒業。東京学芸大学大学院修士課程修了。

 小学校教諭、東京都教育委員会指導主事、世田谷区教育委員会指導主事、文部科学省スポーツ青少年局教科調査官、国立教育政策研究所教育課程調査官を経て、平成25年4月より現職。

 文部科学省では「学習指導要領解説体育編」「幼児期運動指針」の作成に携わる。

 日本体育大学では、スポーツプロモーションオフィス(社会貢献機構)・オフィスディレクターとしてキャンパスのある世田谷区、横浜市の子どもにスポーツの楽しさを伝える取り組みを推進している。

 JICAの青年海外協力隊事務局では、体育・スポーツ分野技術顧問を勤め、隊員への研修と共にアフリカ、大洋州の体育の普及に取り組んでいる。


【要 旨】

SDGsは、「誰一人取り残さない」持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標であり、 その実現に向け、ESDは持続可能な社会づくりの担い手を育む教育として注目されるものである。国立教育政策研究所はESDの視点に立った学習活動を行うための 6 つの構成概念例(相互性・多様性・有限性・公平性・連携性・責任性)を示しており、これらは体育・スポーツの教育活動で実現可能であると考える。そこで、本シンポジウムでは、日本の体育の考え方に基づいたウガンダ共和国での体育普及活動の実践を取り上げながら、体育指導を通して感じた子どもの成長の可能性と指導者の役割について考えたい。


パラリンピックの功罪と身体障害者のスポーツ参加における大学の貢献可能性

中村 珍晴(神戸学院大学 講師)

【略 歴】

 1988年愛知県生まれ。2007年天理大学在学中にアメリカンフットボールの試合中の事故で頚椎を骨折し車椅子生活となる。2010年に天理大学へ復学、そしてアメリカンフットボール部にスタッフとして復帰。2012年、同クラブのヘッドコーチに就任し、2015年12月まで4年間務める。天理大学体育学部を卒業後、2016年3月に大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科博士前期課程を修了(スポーツ科学)。同年4月に同大学院博士後期課程に進学。その後、独立行政法人日本学術振興会特別研究員(DC2)を経て、2018年4月に神戸学院大学心理学部に着任(講師)。2020年、博士(スポーツ科学)取得。


【要 旨】

メディアを通じてパラアスリートを目にする機会が増えた一方で、そのような報道が身体障害者に対する偏った認識を生んでいる側面もある。すべての身体障害者がパラリンピックを目指せるわけではなく、中には人工呼吸器をつけ日々を過ごしている人もいる。しかし、パラリンピックを通じて彼らの存在を知る機会はほとんどない。さらに、現在の日本では彼らが気軽にスポーツを楽しむ環境が整っているとは言えない。スポーツに参加することは、心身両面においてポジティブな効果を与えるだけでなく、人と人とを繋ぐような社会的健康を促進する効果がある。そこで、本発表では、身体障害者がもっと気軽にスポーツに参加するために大学が貢献できることについて皆様と考える機会にしたい。


心の健康へつながる大学体育:コロナ禍での大規模調査からの示唆

西田 順一近畿大学 教授)

【略 歴】

 1974年大分県生まれ。鹿屋体育大学体育学部卒業。九州大学大学院人間環境学府博士後期課程単位取得済退学、博士(人間環境学)。福岡大学スポーツ科学部助手、群馬大学教育学部講師、准教授を経て、2017年より近畿大学経営学部准教授、現在は教授。専門は体育・スポーツ心理学。現在、「大学体育スポーツ学研究」編集委員長、「北関東体育学研究」編集委員ほか。著書に「よくわかるスポーツ心理学(共著)」「体育教師のための心理学(共訳)」「未来を拓く大学体育(共著)」ほか。


【要 旨】

本発表では、運動やスポーツ実践が心の健康に及ぼす影響についての最近のエビデンスを紹介すると共に、コロナ禍における大学体育の学修成果に関する話題提供を行う。とりわけ、感染状況や感染対策への考え方、取り組み方が各大学にて同じでなかったため、授業は統一された形態や形式ではなかった。わが国の高等教育では体育授業がどのように実施され、また、体育授業の受講に伴い学生はいかなる側面の学びを得たかに関して大規模調査の結果を踏まえて報告する。以上より、VUCA時代に体育授業を提供する意義や実践方法を改めて考えるためのきっかけとし、ひいてはSDGsの推進やポストコロナ期での有効な資料として貢献できれば幸いである。


SDGsの達成に不可分な目標5「ジェンダー平等」:誰一人取り残さないスポーツの実現に向けて

井谷 惠子(京都教育大学 名誉教授

【略 歴】

 京都教育大学名誉教授。博士(学校教育)。日本スポーツとジェンダー学会理事。京都教育大学在職中、教員養成とSDGsに関するプロジェクトに携わる。2015年より学生生活・国際交流担当副学長。

 研究分野は体育・スポーツカリキュラムとジェンダー・ポリティクス。

 著書に「学校体育・学校スポーツ」『よくわかるスポーツとジェンダー』(共著、2018、ミネルヴァ書房)、「スポーツ・ジェンダー学への招待」(2004年、共編著、明石書店)などがある。平成28年度日本体育学会 学会賞受賞。


【要 旨】

SDGsの17目標は不可分であり、総合的な取り組みが重要である。つまり、2030アジェンダの達成には、社会の包摂性に関わる目標5「ジェンダー平等」、目標10「国内および国家間の不平等を是正する」の達成が不可欠である。スポーツ界は女性の活躍をわかりやすく示す反面、暴力やハラスメントが繰り返され、選手の表現への制限など未解決の問題が多く残されている。また、教育やスポーツ政策における競技スポーツ重視が、果たして「誰一人取り残さない」スポーツの基本的権利の実現につながっているのか再考する必要があるだろう。発表では、ジェンダー・セクシュアリティ問題を中心に、SDGsに貢献するためのスポーツの基盤を問う。