研究テーマ:都市の生物多様性
2025年度から開講する新しい3年制ゼミです.初年度の受講者数や受講者の希望によってゼミ内容は変わる場合があります.
経済学部のゼミ紹介ページ https://www.eco.nihon-u.ac.jp/about/seminar/shimada_daisuke/
研究内容
近年よく耳にする「生物多様性」とはそもそもどういうことなのか,それを保護して何か良いことがあるのか,疑問に思ったことはないでしょうか.人間社会を支えている資源のほとんどは,生物そのものか過去に生物が作ったものです.したがって,生物多様性の減少は資源の減少を招きます.生物多様性を守ることは,国家が公金を投入する価値のある経済活動なのです.
生物多様性は人里離れた野山に固有の現象ではありません.経済学部本館前の花壇の土にすら,数十種の動物が生息しています.千代田区内の小さな公園でも,観察できる植物はやはり数十種に達するでしょう.本ゼミナールでは一般に生物がいないと思われている都市の中心部において,隠れた生物多様性の解明を進めたいと考えています.教員の専門は顕微鏡サイズの微小な動物(センチュウ,クマムシ,ダニなど)ですが,昆虫・植物・水生生物・寄生虫を研究対象にすることも可能です.
本ゼミナールでは,身近な生物相の調査研究を通して,生物多様性とはどういうものか,どうやって調べるのか,人間活動の影響をどう受けるのか(あるいは受けないのか)を学ぶ機会を提供します.将来,資源という観点から生物多様性とかかわりを持つ方もおられると思います.そのようなときに生物多様性の実態を身をもって知った経験がきっと役に立つでしょう.
研究の進め方
1年目(2年生時)には,研究の前に標本や調査に慣れ親しむため,標本作成と簡単な採集方法の実践をいくつか試す予定です.2024年度の1年生ゼミで実施した魚類の透明骨格標本の作製,経済学部本館に生えたコケに潜む微小動物の抽出などは継続して行いたいと考えています.また体験だけでなく,生物多様性に関係する論文や書籍を読んで,内容紹介的な発表の経験を積んでもらう予定です.1年目・2年目には並行して,DNA鑑定などの実験的な手法も体験してもらいたいと考えています.
2年目前半にはゼミ全体で1つの調査地点と対象生物群を決めて,手分けして徹底的な調査を行いたいと考えています.生物の調査で重要なことは採集そのものよりも,得られた生物の種類を調べる作業(同定といいます)の方であるということがわかると思います.2年目後半には1人1人が自分の調査地点と対象生物を決めて,先人の調査記録などを探し出して検討するなど,最終年の研究論文作成に向けて準備を進めてもらう見込みです.
3年目には各人が自分の調査を行い,得られた生物の同定を進めて研究論文にまとめていってもらいます.具体的な進め方は2年目までの進捗具合と要相談です.
研究テーマ:生物学への招待
魚類の透明骨格標本の作製
事前に作成した金魚のエタノール固定標本を使い,ピンセットで皮と内臓を取り除き,消化酵素で肉を溶かして透明化,薬品で骨を赤紫に染色,グリセリンで脱色,までの一連の作業を,週1コマの中で数回に分けて実施しました.自分の作品は各自で持ち帰りました.
見本として作った写真の個体は腹腔に気泡が入って浮いてしまい姿勢が安定しませんが,十分それっぽい見た目にはなっていると思います.
コケのメイオファウナ(微小動物)の観察
経済学部本館の裏のコンクリートにはコケが豊富に生えていて,顕微鏡サイズの小さな動物が無数に生活しています.そのコケを採取し,ペットボトルを改造した簡易ベールマン装置にかけて顕微鏡観察することにより,大都会・千代田区の路上にすら生物多様性は見られるのだということを体験しました.下の写真は顕微鏡下で撮影した体長0.5 mm以下の微小動物で,左はクマムシ,右は水生甲殻類ソコミジンコ(陸上から見つかる例は珍しい)です.