「桜花爛漫」の大会長を務めます三谷幸聖と申します。Mutius(京都大学クイズ研究会)でクイズを始め、大学卒業後は関西でクイズを続けています。今回、私が「桜花爛漫」というクイズ大会を開くことになった理由は、大きく2つあります。
競技クイズと輝き
1つ目の理由は競技クイズに向き合う人たちの輝きを、従来の軸とは違う軸で切り取ることはできないかと考えたことです。
競技クイズはこれまでに様々な形で発展してきました。特に、abcをはじめとする短文基本については、ここ数年で競技としての過熱化が急速に進んでいるように思います。そして、多くの人が目指そうとするからこそ、abcというクイズ大会には唯一無二の強い輝きが生まれています。その一方で、競技人口の増加の中でabcの48枠に入れなかった人が多くなることもまた事実です。それと差別化するような評価軸のある大会として、勝抜杯、STU、PERSON OF THE YEAR、暁王戦・翠帝戦などの大会も多くあります。そうした大会に乗じるような形で、abcや短文基本以外の傾向によるクイズ大会を開きたいという考えから、私は「1・2・3」というクイズ大会を始めました。
その意味で「1・2・3」というクイズ大会は、それなりに成功していると思います。ただ、競技性はあっても、題材至上主義のような側面はあるため、クイズを始めたばかりの人にとって完全に満足できる大会ではないことも事実です。というのは、私があまりに簡単な題材を選定の過程で削っているため、面白いけど、興味深いけど、フリバで使ってみると「なかなか正解できない…」という人も多いと思うのです。もちろん、始めたばかりの人でも気に入ってくださる方はいると思いますが、そうした人たちが「競技クイズで活躍したい」と思うような、競技性と題材のバランスを保ったクイズ大会を開きたいと考えるようになりました。
とはいえ、私は大会は多様であればあるほどいいと思っているので、「1・2・3」の問題傾向を変えるつもりはありません。そこで、「1・2・3」で意識した題材の面白さや興味深さを残しながら、様々な人たちが早押しクイズに挑むことができる問題群によるクイズ大会を別に開こうと考えました。
競技クイズと物語
2つ目の理由は、今の競技クイズを過去から受け継ぎ、未来に引き継ぐ中で、競技クイズに新しい意味を付与することに挑戦したいと考えたことです。
これまでに競技クイズは様々な形で発展してきました。その発展の歴史には、問題の作り手のある種の願いが込められていたと私は考えています。その願いには問題傾向やクイズ大会という形になり、現在まで引き継がれているものもあります。前述した「1・2・3」というクイズ大会も私のある種の願いから生まれたものです。その一方で、競技化が進めば進むほど、題材に対する切り取り方が一極化し、無味乾燥な問題も増えるようになったと考えています。競技クイズとしての純度を高めるなら、その傾向は正しいことかもしれませんが、私はそうした世界がクイズの全てだったなら、きっとクイズを始めていなかったと思います。それ以外のクイズも好きだからこそ、私はクイズを続けています。そうした競技に純化したクイズを取り除いた時に、私が一番残したいものは何か。それを考えた時に思い浮かんだのが「物語」でした。
クイズには物語がある。私はそう考えています。クイズを正解する人にはその問題を正解するだけの理由があります。日常生活でよく目にしていたから。クイズの問題集で覚えたから。実際に現地を訪問し、聖地巡礼をしたから。そういう風にクイズ大会の1問の正解には正解のブザー音以上の物語があると思うのです。私は別にクイズによってその人の人生を肯定する気も評価する気もありませんが、そうした物語性があるということだけは忘れないで、クイズを作りたいと思います。クイズはクイズをするためにありますが、それはクイズだけで完結するものではないと信じています。だから私は、情報の列挙だけでクイズを終わらせることはもったいないと思います。クイズの問題文の中に私はできるだけ物語を取り入れます。それは、単なる文字列の組み合わせに終始したクイズに飽き飽きしてしまった過去の私に対する答えでもありますし、その問題を正解した人をほんの少し演出する行為でもあります。こう聞くと、作問者の主観に基づいたクイズを想定する人もいるかもしれませんが、私はあくまでフラットに題材を切り取った時に見えてくる物語を提示したいと思います。全ての問題でこうした物語を提示することは、それぞれの題材と照らし合わせると不可能ですが、そうした一部の問題の物語も会場で楽しんでいただけますと幸いです。
伝統と創造
これまでに培われてきたクイズの伝統を受け継ぐ上で、今の私は未来のクイズに何を残すことができるか。それが、私がここ数年で考えていたことです。その中で生まれたのが、題材の多様な切り口を追求した「1・2・3」というクイズ大会でした。そして、競技性と題材のバランスに対する現在の答えとして編み出したのが、「桜花爛漫」です。競技性を追い求めながら、題材面でも可能性を追求する本大会は、純然と競技に向き合う人を否定、とは言わないまでも、勝利という形で彩ることはできないかもしれません。ただ、今の競技クイズをとりあえず受け継いで従来のスタンスで問題を作るという行為は、これまでの伝統を大事にすることにはならないと私は思います。そこに、私の願いは乗らないからです。本大会が成功するかどうかはわかりませんが、そうした願いを乗せて、未来に繋げるということが、これまでの伝統を大事にするということではないかと思います。
伝統と創造、その現段階での到達点としての本大会をお楽しみいただければと思います。
2025.7.6 三谷幸聖