星 夜
谷 玲之介
星がこんなにちかぢかと
かゞやきみちる夜だ
戰ひの前夜とは誰知らう
土くれとひねもす明け暮れて
あたりは次第に狹くなる
わたしは大地にあほむけにねころび
星よ滴(したた)りおちよと幼ない聲を放つ
生れざる眠りより
谷 玲之介
いまだ光茫は來らず
萬有(ものみな)生れざる眠りに眠る
かしこにて星は死せるがごとし
かしこにて森は死せるがごとし
ああ極限を啓示せる苛酷よ
生れざる眠りよりわが眼(まなこ)めざめ
わが耳はきく
石の窓を吹きすぐる太古の風を
幼き靈魂ゆゑ
孤坐するはさびし
いづこよりか
那 覇
慘禍なまなまし刧火の跡を見よ
茫々たる焦土
ために天日暗し
風に鳴るは燒け落ちたる電線
或は赤瓦崩れ累なりて
珊瑚石垣そゝり立つ
わが愛せし那覇よ
冷たき骸と化れる新嫁のごと
涙湧かざるゆえに
戎衣ひたすら 寒く
わが眦(まなじり)を裂けしむ
10月10日に突然米軍の空襲があり、部隊は那覇地区に移動した。惨状を目にした太田の怒りが表れている。
太田博 軍隊入営前 20歳
未 完
敵旣(すで)に目睫にせまる
『劍と花』
わがふるさとへ恙(つつが)なく歸れ
無名詩人は南島の一角に
雲霞の如き敵をむかへうち
衂(ちぬ)りたる劍を以て
生命と死の花を描かん
間もなく迎えるであろう突撃と命の終焉。人間として、詩人としての尊厳を最後まで貫き通した証しを、詩集ノート「劍と花」に託して故郷と後世に伝えて欲しいとの魂のさけびが綴られている。
校門へと続く相思樹並木 那覇市歴史博物館