研究紹介

昆虫ホルモンによる脱皮・変態の制御メカニズム解明(水口准教授のテーマ)

 昆虫は脱皮を繰り返しながら幼虫からさなぎ、成虫へと成長しますが、このように成長に伴って形態が大きく変わることを変態と呼びます。このような脱皮・変態には、内分泌された脱皮ホルモンと幼若ホルモンが関与しています。すなわち、幼若ホルモンが十分にある時に脱皮ホルモンが作用すると幼虫から幼虫への脱皮が起こり、幼若ホルモンがない状態で脱皮ホルモンが作用すると幼虫からさなぎ、さらに成虫への変態脱皮が誘導されるのです。
 ところで害虫のホルモン作用をかく乱することによって害虫を死に至らしめるような殺虫剤が開発され、昆虫以外の生物に対しては毒性が低く優れた殺虫剤として利用されています。しかしこのような殺虫剤も、害虫だけではなく有益な昆虫に対しても毒性を示してしまうという問題点があります。昆虫の脱皮・変態とそのホルモンによる制御メカニズムは、昆虫種ごとにわずかな違いがあると考えられていますが、詳しいことはわかっていません。そこで私達は、ホルモンによる脱皮・変態の制御メカニズムを昆虫種ごとに解明して他種昆虫との違いを見つけ出し、防除したい害虫に対してのみ効果があるような殺虫剤の開発に応用したいと考えています。
 また、昆虫の性成熟や卵形成といった現象もホルモンにより制御されています。私達はその制御機構を解明し、昆虫の生殖をターゲットとするような害虫防除法の開発に応用したいと考えています。

甲虫における免疫システムの解明(水口准教授のテーマ

 昆虫体内では、外来異物に対する液性免疫システムの一つとして、抗微生物ペプチド (AMP) の産生が行われます。異物の認識に伴ってAMP遺伝子の発現が制御される機構は、これまでキイロショウジョウバエを初めとするモデル昆虫で詳しく研究されてきました。その結果、感染した微生物の種類に応じて、Toll経路またはImd経路を経てAMP遺伝子の発現に至るというシグナル伝達経路が明らかになっています。私達は甲虫の一種であるコクヌストモドキにおいて、AMP遺伝子の発現制御メカニズムの解明を目指して研究を行っています。最近の実験結果から、AMP遺伝子の発現制御メカニズムがキイロショウジョウバエの場合と異なっているという興味深い知見を得ており、さらに解析を進めています。
 また、昆虫の表皮は外来異物の侵入を防ぐ物理的なバリアとして作用します。私達はRNA干渉法で表皮の形成を抑制したコクヌストモドキにおいて、昆虫病原糸状菌や殺虫剤の効果を検証し、バリアとしての表皮の役割を解明しようとしています。

昆虫の毒物代謝に関わる解毒代謝酵素の機能解析(水口准教授のテーマ

 植物には、昆虫にとって毒性の高い物質を合成・蓄積することで、昆虫から食べられにくいように進化を遂げたものがたくさん見られます。しかし一方で昆虫は、そのような物質を食べたとしても、毒性の低い物質へと速やかに変換するような解毒代謝酵素を有しています。このような解毒代謝酵素は、昆虫に投与された殺虫剤の解毒にも働きます。同種の殺虫剤を繰り返し同じ圃場に散布すると、その殺虫剤が効きにくい害虫個体群が出現して深刻な問題となることは有名な話ですが、そのような薬剤抵抗性の害虫群では、解毒代謝酵素の存在量や活性が上昇している事例が報告されています。そこで現在私たちは、殺虫剤の解毒代謝に関わる酵素群に着目して研究を進めています。アザミウマなどの農業害虫において、解毒代謝酵素の関与を調べるとともに、薬剤抵抗性の生じるメカニズムを詳しく調べています。


シロアリの化学コミュニケーションのメカニズムの解明(三高助教のテーマ)

 昆虫は化学物質や光、音(または振動)を知覚することで、周囲の環境の情報を得たり、他個体とコミュニケーションをとったりしています。多くの昆虫は採餌や繁殖行動、産卵基質探索をはじめ様々な目的のために、嗅覚と味覚を用いて環境中の化学物質を知覚しています。特に社会性昆虫(アリ、ハチ、シロアリなど)は、単独性昆虫よりもはるかに高度な化学コミュニケーションシステムを発達させてきた分類群であり、そのコロニー内では、異なる役割を担う個体集団(カースト)が個体間で化学物質を介した情報伝達を行いつつ、コロニーの維持に関わる仕事を分業しています。

 生物間のコミュニケーションに用いられる化学物質(情報化学物質)のうち、同種他個体の特定の行動変化や生理的変化を生得的に引き起こすものはフェロモンと呼ばれますが、我々は、シロアリたちが用いているフェロモンの成分と機能を同定し、どのような分子メカニズムによってフェロモンの送受信が行われているのかを調べることで、社会性昆虫が化学コミュニケーションを基盤とした複雑な社会を発達させることができた進化的背景を探っています。また、そこから得られた知見を活かして、シロアリの行動特性を逆手にとった防除方法の開発も目指しています。

 研究成果に関する詳しい情報は三高のウェブサイトを参照


シロアリの生産する抗菌物質(三高助教のテーマ)

 シロアリをはじめとする社会性昆虫は、血縁関係にある個体が多数集まったコロニーを形成しているため、巣内で特定の病気が蔓延しやすいリスクを抱えています。そのため、彼らは多種多様な抗菌物質を生産・利用することによって巣内を抗菌・滅菌し、あらゆる病原性微生物の侵入・発芽・成長を抑制しています。

 我々はシロアリたちが用いている抗菌物質の成分とその機能を同定し、彼らのコロニーレベルでの防疫戦略の謎を解き明かしています。この戦略を理解すれば、シロアリに対する生物的防除の有効性や、殺虫成分に対する耐性についても理解が進み、防除方法にも役立つことが期待されます。

 研究成果に関する詳しい情報は三高のウェブサイトを参照