メダカは家庭で簡単に飼えて、産卵と発生を観察することができる。
5月にはいって、25℃以上の気温が続くようになると、もともと熱帯が原産のメダカは 毎日早朝に生殖行動をみせる。メスの眼前でオスがひらりと身をかわしたりする一連の行動が示され、メスが受け入れるとオスはメスの体の側に接し ヒレでメスの体を包む。メスが産卵するとオスは放精する。受精した数個の卵はしばらくメスの腹部についているのだが、卵の表面には水中のものにからみつく長い糸がついていて、ホテイアオイの水中根などの近くを卵を抱いたメスが泳ぐと 根に卵がつく。
稚魚が親に食べられてしまわないように、直径1mmくらいの卵を根から外して、別容器にうつして観察する。写真の右側3個の卵は、発生が進んでいて、眼が見られる。右上と下の胚は横向きになっていて、背も見える。(写真中程の黒い棒は、ホテイアオイの根の切れ端)根にからみついていた卵の長い糸も写っている。
はじめは透明な卵で中の脂肪球がみえるだけであるが、しばらくすると盤状に細胞が分裂していき、身体がつくられていく。透明なので、身体のつくられていくありさまや、血液の流れなどをルーペや顕微鏡で観察することができる。(位相差レンズをつかうと 透明な血球や体の組織が とても良く見える)
眼や内耳などの感覚器官もできていき、およそ10日で孵化して 体の向きを上下にむけたりしながら 泳ぎだす。
左は孵化したてのメダカ。全体的にまだ透明で、下側の2つの眼の他に、赤い内臓(脾臓)や背にある黒色の色素胞(つぶつぶの黒い部分)が見える。
黒色の色素胞は背側の体色を暗色にして、水面の上から捕食者が見たときに、底の暗色のなかに身を隠すのに有効である。腹側は内臓を銀色の色素で囲んで、水中で下方から捕食者に見上げられた時に、光る水面のなかに身を隠す。銀色になる仕組みのもとは虹色素胞というもので、ちょうど可視光の波長(1ミクロンよりすこし小さい)とおなじくらいの大きさの綺麗に揃ったグアニンなどの板状結晶がたくさんならび、光の干渉効果による色を呈することによる。 CDや DVDのディスク(溝が1ミクロンよりすこし小さい幅で規則正しく並んでいる)が銀色に光り、光のあてかたによっては虹色を呈するのはこの効果による。アジ、サバ、イワシなどはみな背は暗色、腹は銀色である。
干渉色は動物が体色をはじめてつけたとき(ひとこえ5億年前 多様な生物種がうまれ 爆発的な適応放散がおこった時代)につかった仕組みである。捕食者は明暗ばかりでなく形や色をみることのできる眼を獲得し その眼で餌をさがし、餌動物は捕食者から逃れるためにてだてを尽くす という攻防のなかで この仕組みが研ぎ澄まされた。「眼の誕生: カンブリア紀大進化の謎を解く」(アンドリュー パーカー、訳本 2006)という本でこの攻防が解説されている。
化学的な色素による体色はよほどのことないかぎり化石の記録としてのこらないので、恐竜がどんな体色をしていたかは比較的自由に空想できる。干渉色による体色は、化石として細かな構造が保存されることがあるので、どんな体色をしていたかを推定できる。
干渉色により体色をつくるのは さまざまな動物がしていて、そのなかでもタマムシは有名。魚の体色とその変化についての解説が次のサイトにある。http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/fish/index.html