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近年、全国の山林でシカが増えており、食料となる植物の減少や生態系の急激な変化が問題となっています。日光でもシカの影響で希少な高山植物等の減少を招きました。また、森の中でもシカの口が届く範囲の植物が強い食圧を受けるため、樹木の世代交代が妨げられるなど森林の衰退も心配されています。さらに、その影響は固有の植物を生活の糧とする他の動物たちにも及んでいます。

一方で、シカがある植物を食べつくし土地が空くと、それまで土中で眠っていた別の植物が芽を出し、花を咲かせることもあります。また、シカに樹皮を食べられた大樹が枯れることで、林床に日がさし若木の成長が促されることもあります。シカは生態系の一員として、森に変化をもたらし、多様な生態系をはぐくむ役割を担う動物でもあるのです。

シカの個体数増加や分布拡大は、農林業を営む人々にとっても大きな問題となっています。以前は珍しく、かわいらしい動物だったシカも、今では害獣と呼ばれています。厳しい自然を生き抜くために植物を食べるシカの行為に罪はなく、しかし、このまま放置するわけにもいかない。人々がシカを憎むのは残念ですが、被害に苦しむ人々の気持ちも理解できる。

大きなジレンマの中で、個体数削減のためやむなしと捕獲対策に取り組みつつ、積み上げられていくシカの死体を前に誓ったこと。廃棄される命を資源として蘇らせ、シカを憎しみから喜びの対象に代える。豊かに彩る草花や鮮やかに紅葉する森の中で、いつまでもシカの姿を見られるように。シカが山の恵みとなりますように。一人でも多くの方と、ヒトとシカが共存する明るい未来を模索していければ幸いです。