寛容と適当・大雑把をはき違えているダンデくんへ
そろそろ本格的な冬が来る頃だな。ナックルシティの街路樹が色付いて、道に一枚落ち葉が落ちたらうちでは冬支度が始まる合図だ。オレさまのパートナーたちは寒さに弱いのが多いから冬支度は厳重だ。ダンデは知ってるよな。ドラゴンジムは『冬支度休業』っていう期間があるんだよ。自分のパートナーたちが快適に冬を過ごせるようにいろいろ準備するんだ。ジム内はもちろん、自宅の環境整備もこの休業期間できちんと行わないといけないことになっている。じゃないとドラゴンタイプのポケモンがうっかり冬眠しちまうからな。まず、家の床暖房の整備をチェックする。いや、これが本当に死活問題なんだよ。久しぶりに使ってうっかり効きが悪かったりすると、ヌメルゴンが足元だけ冷やして足が凍傷になったりする。家の中でも気は抜けねえんだよな。そっちもドラゴンタイプがいるから分かるだろ。寒さに震えるパートナーたちの表情の可哀そうなことったら。あんなに胸の痛む光景はなかなかないぜ。本当に、心の底からごめんなさいと言いたくなる。それから業者を呼んで暖炉を掃除して、薪と石炭を買い込んで、ラグとカーテンを厚手のものに取り換えて。こうやって書くと大掃除と模様替えを一気にやってるのと変わらないな。でも、意外に楽しかったりするんだぜ。ジュラルドンはこの色の毛布を敷いてやると喜ぶだろう、ヌメルゴンには花模様のクッションが好きだ、コータスは固めの肌触りのマット、フライゴンには大きいビーズクッションって具合にさ。ひとつひとつ、丁寧に好みを考えてやってると楽しいわけだよ。それから自分のインテリアを考える。って言っても、うちの家具はアンティークものばっかりだから、どう頑張っても調和の取れた感じにはならないんだけどな。うちの婆ちゃんは今年もソファーカバーをくれたよ。寒いのが苦手な子が多いだろうってさ。おかげで今年もモダンって言うよりアットホームな雰囲気の我が家だ。カラーリングが毎年ちょっとずつ違うだけで、なんかこう、妙に実家感溢れてるんだよなあ。まあ、オレさまそういうの落ち着くから良いけど。パートナーたちもリラックス出来てるから慌てて環境変えようとも思わないしな。
まあ、それだけのことを準備しようとするとやっぱり買い出しも大仰になりがちで、今年も結局ダンデに付き合わせちまったな。複数の大型ポケモンと暮らしてるヤツってそんなにいないからさ、こういうときダンデがいて良かったと思うよ。同じ世代で、パートナーのための大規模な模様替えに理解があるヤツってメチャクチャ貴重なんだよな。それでいて、買い出しとかに付き合ってくれるくらいの仲って言うともう奇跡みたいなもんだよ。ホント、この時期だけはダンデ様様。感謝してるぜ。マジでこの瞬間だけは拝んで有難がっときたくなる。
今年はお前が運転するって言うから初めから大きめのワゴン車借りて買い出し行ったよな。「ついでだからお前も冬支度したら?」って誘って、大型の家具屋をいろいろ回ってきた。まあ、ダンデは気が短いからいつも「全部一か所で買い物が済むように出来ないのか?」って一回は言うんだけどさ。でも「パートナーたちにも好みがあるだろ」って言うとすぐに黙るんだよ。ダンデのそういうところ、オレさますげー好きなんだよね。だってさ、他の人にこんなこと言っても全然理解されないと思うんだ。ポケモンにそこまで手間暇かける人って意外に少ないんだよ。特に多頭で生活してるとどうしても手が回り切らない。現実問題、平日に普通に仕事して休日だけで家のこともパートナーのことも全部やろうとすると無理が出るもんなんなよ。だから、買い物くらいは一か所で済むように計画を立てる。もっと商品を吟味したりしたくてもそれが出来る時間は殆どない。でも、オレさまはそこで妥協したくないんだ。オレさまの打倒ダンデっていう目標に付き合わせてる以上、それ以外のところではオレさまがパートナーたちに全力で尽くしたいんだよ。ダンデはオレさまがどれだけパートナーたちを大事にしてるか分かってくれてるし、それを言うと絶対に文句を言わずにどこまでも付き合ってくれる。理解してくれるし共感してくれる。そういうところを見つけるたびに、本当に得難い親友を持ったなってつくづく思うよ。
で、だ。有難いし、感謝はしてるんだけど、それはそれとしていつもの通りオレさまたちだからトラブルはある。これはもう仕方ない。まず、買いすぎ。でもしょうがないんだよな。もしもに備えるのがポケモントレーナーの義務なんだから。どんなに慣れた道を歩くときだって、きずぐすりもボールも全く持たないで草むら歩くなんてことないだろ?色違いが出てきたら?うっかり急所に当たったら?無限にあるもしもに対応するのがポケモントレーナーだもんな。ここでうっかり買い忘れがあったりするとパートナーが夜凍えることになりかねない。でも流石に荷物の量がワゴン車に対して全然間に合ってなかったよな。後部座席の二列をフラットにしてパズルゲームしながら何とか押し込もうって、30分以上駐車場で粘った。通りかかった店員さんが見かねて手伝ってはくれたのは嬉しかったな。あの時の店員さん、ありがとう。おかげでなんとか帰れたぜ。
まあその過程も大変だったよな。荷物下ろすときのことを考えるとこっちは先に入れようだの、いやでもデカいものから入れていくしかないだの、喧々諤々とずっと言い合ってさ。いつの間にか怒鳴るみたいな調子になってたのは反省したよ。つい、いつもの癖で。ダンデと何かやってると周りに人がいるっていうのをついつい忘れがちになっちまうんだよなあ。これは普通に反省してる。オレさまとダンデの剣幕にビビって皆がいつの間にか遠巻きに見てたのにはびっくりしたな。ざわざわして、時々「喧嘩かな?」とか聞こえてきてさ。うわー、やっちまったなーって。一応「いつものことだから」ってフォロー入れたけど、よく考えたらあのフォローも何か白々しい感じになってたかなって。いや本当なんだよ。いつものことなんだって。あの場にいた人たちがこれ読んでるかどうかは知らないけど弁明しておく。あれは全然喧嘩とかじゃないぜ。ただ単に議論がヒートアップしてただけで、ダンデもオレさまもその後同じ車に乗ってネズの「エールの歌」大合唱しながら帰ったからな。普通に仲良いよ、オレさまたち。
帰って荷物下ろして、それから模様替えもダンデに少し手伝ってもらった。冬仕様にすると部屋の中が布だらけで笑っちまうんだよな。ブランケットがそこら中にスタンバイされてて、分厚い寝床でリビングがぎゅうぎゅうになってさ。このごちゃごちゃっとした感じは実家って言うよりもおばあちゃんの家思い出すヤツなんだよな。「今度お前の家の方も手伝う」って言ったら、お前はちょっと嫌そうな顔をして「寝室みたいに私物置くなよ」ってさ。いやあれは違うじゃんか。お前の家のQOL上げてやっただけじゃん。全然私物じゃないし。お前だって使ってるだろって滾々と諭しても、ダンデはどこ吹く風で「君は俺がひとつ言い返すと倍くらい返してくるよな」って笑ったりする。失礼だな。オレさま、他所では温厚で通ってんだぞ。ジムトレーナーからだって「キバナ様ってダンデさん以外の人間相手に怒ったことあるんですか?」って言われてるんだぞ。そんな温厚なオレさまを怒らせるダンデが悪いとは思わねえの?「全然」ってお前なあ。ちょっとは悪びれたりして見せろよ。可愛くねえの。
そんなこと話しながら紅茶飲んでたらさ、お前が急に考えこむような仕草したからオレさまも黙ったんだよ。何か次のバトルの戦略でも思い付いたかなって。オレさまもだけど、お前もそういう時あるじゃん。だからいつものそれかなって。お前は黙ってゆっくり、集中しながら紅茶飲んでさ。それで二杯目の紅茶半分くらい飲み終わって、そこで急に「これ、アッサムティーか?」って言われてオレさまめちゃくちゃビックリしたよ。だってさ、あのダンデだぜ。紅茶どころかポケモン以外に全然興味のなかったお前がだよ、紅茶の銘柄当ててきたんだぜ。「いや違うけど。これダージリンな」って言ったらお前は目に見えてしょげ返ってたけどさ。「え、なんで急に?」って聞いたら、「以前マグノリア博士から、いろんな紅茶があることを知るのも大切だと言われたのを思い出して……」とかぼそぼそ言ってんの。その情けない姿ったらなかったぜ。いやあ、笑った笑った。しかもそれ言われたのチャンピオン時代なんだって?おまえのマイペースさには恐れ入るよ。でも良い傾向だぜ。やっとお前は言われたことを振り返る余裕が出来てきたんだな。お前は間違えたってしょんぼりしてたけどさ、それは別に良いと思うんだよ。それよりも、お前がそうやって自分から興味を持ち始めたってことがオレさまには重要なわけ。分かるだろ?
そうそう、それからダンデ。今年はお前のお爺さんとお婆さんからハロン産の麦酒が送られてきたぜ。1ダースも。あんまりにも気前が良くって驚いたぜ。メッセージカードにはいつもダンデが世話になってますってさ。それと、畑のお世話してくれてありがとうとも書いてあった。でもさ、オレさまとしてはそういうつもりじゃなかったんだよ。休耕地でちょっと野菜作ったりして遊ばせてもらってたのはオレさまの方で、なんかこれあべこべじゃね?みたいな。でも返品するのも失礼だし、一本試しに開けてみたんだよ。そしたらビックリ、これがめちゃくちゃ美味いんだ。お前は何でもないように飲んでるだろうがな、口当たりがよくって苦味がくどくなくってスッと流れていくんだ。感動したね。一回ネットで調べてみろよ。ハロンの麦酒って結構酒好きが買っていって中々手に入らねえんだから。それを気前良く1ダースぽんとくれるんだ。これって本当にすごいことだぜ。それから、おふくろさんからも燻製ハム貰った。これがまた酒に合うんだ。労せずに最高の晩酌が完成しちまったぜ。
せっかくこれだけもらったのに一人で楽しむのもなあと思ってさ、クリスマス辺りにホームパーティーでもしようかって今企画してるところだ。ジムリーダー連中全員呼んでのんびり飲み食いするのも偶には悪くねえかなって。未成年たちはジンジャエールで乾杯してもらうけどな。想像してみろよ。デリと手作りの料理で机の上をいっぱいにして、ダンデの家から貰ってきたあのレコーダーで音楽かけて、普段バチバチにやりあってる奴らが穏やかにおしゃべりする。どうだ?ガラルで一番豪華なホームパーティーじゃねえ?
もちろんネズも呼びたいし、ポプラのばあさんもアラベスクタウンに籠りっきりじゃボケるだろ。スタートーナメントには出てくるとは言え、会うたびユニフォームしか見ないって言うのも寂しいしさ。ばあさんのタンスで眠ってるジュエリーたちも偶には活躍の機会に恵まれても良いだろ。ま、レッドカーペット歩くときみたいな豪奢なの付けてこられると困るけどな。身内ばっかりでリラックスできるホームパーティーみたいな感じにしたいんだから。ばあさんにはドレスコードはカジュアルな感じで頼むようにお願いしとかなきゃな。逆にネズはカメラがあると思って身支度してもらわねえと。アイツ、地元じゃスウェットとサンダルでポケセン行くタイプの人間だからな。
問題は会場なんだよな。それだけの人数呼ぼうとすると、ちょっとオレさまの家だと手狭なんだよ。パートナーたちのオモチャなんかを片付けりゃ全員座れないこともないけど。でも、そうしたって何人かはベランダに居てもらうしかない。他の会場借りるって言うのも考えたんだけど、1ダースの麦酒運び込むのが怠いんだよ。
それで相談なんだけど、会場にダンデの家使っちゃダメ?そしたら荷物の搬入ベランダからしても良いし、別に怒らないだろ?お前の家の食器棚で大量に眠ってる食器たちも使ってやらないと可哀そうだしさ。……駄目なら駄目で断ってくれていいからな。別の会場探すから良いぜ。そのときはバウタウンのレストランとかどうだろう。こんな急に貸し切り予約対応してくれるかどうかは分かんないけど、まあ打診するだけしてみるつもり。
急ぎ返事を頂ければ幸いです。……って癖で書いたけど、これ雑誌に掲載されるんだったか。ダンデに手紙書いてるとつい忘れちまうな。読み返すと結構ぐだったし、良くない。次からはもうちょっと気を引き締めて書こうと思う。じゃあな。
お前の唯一無二の親友キバナより