『ドライブ』
前回はめちゃくちゃ反響があった。手紙を書くダンデって言うのが皆意外だったんだな。喜んでもらえたようで何より。女の子のニーズにも少しは応えれたようでホッとしてるぜ。それでだな、前回分で読者の皆に謝罪しなくちゃいけないことがあって。他の友人とか親にも手紙は送ってると思うって書いたんだが、そうじゃなかったらしい。オレさまにだけだった。ダンデと文通してるの、オレさまだけらしい。
あれ読んだダンデが凄い怒りながらやってきて、
「君以外に手紙なんか書くか」
って言い捨てていったんだ。家を出てから実家にも書いたことないらしい。いやそれはそれでどうなんだって話だけど、そうじゃなくて。
これ言われたオレさまの気持ち、分かるか?もうな、じわじわ恥ずかしい。嘘だろ。いやだって、こんな頻繁にくれるからそういう習慣とかなのかなって。そういう風に育ったのかと思うじゃん。その真実、今言うか?うわーってなる。この話やめよう。マジで恥ずかしい。出来れば先月分の雑誌全部回収したいくらい恥ずかしい。書いてても背筋がもぞもぞする。編集さんに言ったら「無理です」の一言で終わっちまったけど。本気でガラル中の「GP」を全回収してオレさまの連載が掲載されてる部分だけ焼きたい。皆、せめてなるべく早く記憶から抹消しといてくれ。
この件についてはネズにも散々言われた。
「アイツ、自分がリーグ委員長になった時の挨拶も俺が書類提出しに行ったついでに口頭で済ませましたけど。そんな男が、手紙ねえ」
ってねちねちねちねち。本気でやめてくれ。これ以上はオレさま恥ずかしくて死ぬ。この話終わり。二度としない。
最近ダンデが車を持ったらしいと聞いて、オレさまは喜び勇んで取材させろと突撃してきた。丁度、編集さんから「ダンデさんとのおでかけ風景を読者の皆さんはお望みみたいですよ」って言われてたんだよ。渡りに船ってやつだ。そんな訳で、今回はダンデとクラシックカーでドライブしようってことになった話する。
アーマーガアタクシーが主流の現代、個人で車を持つなんて珍しいし、譲渡の際に何か面白いエピソードがあったのかって思うけど、そこはダンデだった。なんかひょんなことで車を貰ったんだと。ひょんってなんだと思うけど、詳しくは聞いてない。もうな、ここまで来ると面白くなってくるよな、この面白くなさ。これがダンデ。知ってたよ。
ダンデも車を貰ったは良いけど、なかなか乗る機会がなくて困ってたらしい。人から譲渡してもらった手前、駐車場で埃被ってるだけにしておくのも心苦しいって言ってたし。だからオレさまがドライブしようぜって誘ったときは二つ返事で了承してくれた。目標は近場だけど、シュートシティでショッピングだ。ダンデも久しぶりの運転だって言ってたし、そのくらいが丁度良いだろうってことになった。オレさまはナビ係。未だにダンデに地図は任せられない。二人とも全日フリーの日が遠かったし、本当に軽いドライブのつもりだったから、それなら午前中にリーグに参加して午後から出かけようってことになった。
それで、実際ダンデのマンションの駐車場行ってビックリした。貰ったって言う車がトポリーノだったんだよ。丸っこいラインがキュートで、ぴかぴかの黒いボディーがセクシーなやつ。クラシックカーに詳しくないオレさまでも見たことあるフォルムの車がマンションの地下駐車場で待ってたんだぜ。映画でしかお目に掛ったことない光景だった。ナックルシティは結構クラシックカーの愛好家たちが多いけど、ここまで古い車を走らせるのは見たことない。こんなものどこでどうしたら貰えるんだって思う。ここまで古いのなんか博物館でしか生で見れないんじゃないか?今買うとしたらどれだけの価値なんだろう。考えるのも怖い。住んでる世界が違うってやつだな。もう贈答のスケールが分かんなくて笑うしかない。
今回の写真は、もちろんトポリーノとダンデ。黒いボディーのクラシックカーの横にダンデ置いとくと映画のワンシーンみたいだよな。それこそスパイものみたいな雰囲気がある。モノクロ映画時代の恋愛ものでも良いけど。それこそローマの休日だな。文句なしに洒落てる。この日ダンデは私服着てたんだけど、オレさまが拝み倒して仕事中に着てるあれ着てもらった。乗馬服みたいなやつ。いや、本当にサマになる。オレさまこの一枚ですごい大満足だ。いい仕事しただろ、褒めてくれ。でも残念。ここから先はそんなにカッコ良くないぜ。
で、実際に乗ってみたら問題が次々出てきた。まず、オレさま達のガタイが良すぎて車内がみっちりした。ダンデと肩がぶつかってるし、オレさまは足が収まりきらないし。窓開けて腕出してなんとか収めたけど、あんまりにもカッコ付かなくてゲラゲラ笑った。
それだけなら笑ってられたんだけど、いざ発車って時にダンデが
「待ってくれ、どれがアクセルだ?」
とか物騒なこと言いだしてもう大混乱。
「運転免許持ってんだろ!?」
って聞いたら、
「取得したのが3年くらい前だからほぼ忘れた。あと教習車と仕様が全然違う」
とかケロッと言ってきてオレさまパニック。
「ハンドルとアクセルは分かった。あとはブレーキさえ分かれば走れるだろ」
とかブツブツ言ってるし。それは免許持ってないオレさまでも大体分かるヤツじゃん。思わず
「勘弁してくれ、オレさま死にたくない」
って絶叫しちゃったね。オレさま降りる、いや待てもうちょっとしたら分かる、分かるってなんだよ怖いんだよ、ガラルの免許を信頼してくれ、お前を信頼したいんだけど、大丈夫だ保険には入ってるから、なんで事故前提なんだよ頼む殺さないでくれみたいな押し問答10分くらいして、結局走り出した。乗り心地?正直に書く。送り主の人には申し訳ないんだけど、最悪の一言。アーマーガアタクシーって風で結構揺れるよなあって思ってたけど、これ乗った後だと全然そんなことない。快適そのもの。がたがた走るし、シートのクッション性は100年くらい前のままだし、窓全開だからエンジン臭いし、あと多分これが一番だと思うけどダンデの運転が怖い。右にウィンカー出そうとして「あ」とか言いながらワイパーが動き出した時は車から飛び降りたくなった。扉開けようとしたらがっちり肩掴まれたから出来なかったけど。本当に最悪。
スピードはそんなに出なかった。馬力が足りないんだろうな。コータスの歩みかって思うくらい遅い。具体的にどのくらい遅いかって言うと、リーグ帰りのロトム自転車に乗ったマサルに軽やかに追い抜かれていったぜ。大男二人がクラシックカーにぎゅうぎゅう詰めになりながらのろのろ走ってるのはさぞ目立ったんだろうな。追い抜かれながらマサル君には二度見されました。ついでに写真も撮られた。他の人にもかなり見られてたな。このドライブ風景はSNSでも一部話題だったから、まだ検索すれば写真が見つかると思う。あんまりにもカッコ付かないから見つけてほしくないけど。
現役のトポリーノに乗ってシュートシティをドライブって凄い貴重な経験なのに、全然楽しめなかった。オレさまが数メートルおきに「もう嫌だ」「戻れ」「降ろせ」って連呼するから、ダンデも諦めて5ブロックくらい進んだところで引き返したんだよ。一本道に入って、適当な所で右折を繰り返して戻ればいいかって算段だった。でもシュートシティって一方通行が多いんだな。道は細いし、行き止まりも多くて見事に二人で迷子になった。スマホロトムの情報じゃ実際の道路標識なんか分からないし、普段歩いてても全然気にしてなかったし、ダンデがハンドル握ってるから散々迷った。たったの5ブロックの話なのに、結局解散したのはどっぷり日が暮れてからだった。ドライブは当分ごめんだ。少なくとも次はオレさまが運転する。ダンデに運転させるくらいならオレさまが免許取って若葉マーク付けて運転した方が数倍マシ。
結果としてドライブは大失敗だった。ダンデは
「次までにもう少し練習しておく」
って殊勝に言ってきたけど、どうかな。そんな暇が今のダンデにあるとは思えないけど。でも、まあ次に遊ぶ約束をダンデが自分から言い出したっていうのは、結構嬉しかった。ダンデから言いだしてくる約束なんかバトルばっかりだったからな。オレさまも
「またどっか二人で行こうな」
って言ったら、ダンデは嬉しそうに返事してくれた。素直だな。素直なのは良いんだけど調子狂う。なにせ、このドライブ行ったのリーグの直後だから。オレさま、一回戦でダンデにボコボコにされた後なんだよ。バトル中お互いめちゃめちゃ煽ってた。でも、そこでお互いその日の毒は吐ききったんだろうな。だからオレさまもいつもより素直だったのかも。だって、今こんな子供みたいにストレートに次の約束なんてしない。流石に良い大人なんで、何の確認もせずに相手に直接自分の願望言える機会は少なくなってきたわけ。相手にも都合もあるし、そういう事考えるとなかなか言えなくなった言葉だよな。そういう意味では、ダンデといると色々貴重な体験してるなあって最近思う。
でも、そうやって取り付けた約束を果たそうって時は、スマートにバッチリ決まるってことって少ないんだよ。むしろ今回みたいに、結構間抜けな終わり方する方が多い。ポケモンバトルしてないオレさま達なんか、こんなもんだよ。期待してる人たちには悪いんだけど。