『手紙』
さて、今回で早くも連載も三回目だな。前回の原稿もお気に召さなかったらしく、ノーアポでナックルジムに突撃してきたダンデから散々文句だか感想だかよく分からないことを聞かされた。でもオレさまも反省してる。これは言われてもしょうがないなと。オレさま、全然ダンデファンのニーズに対応できてない。これはダンデファンが求めていたダンデの素顔ってやつではないなと気付いた。ファンが求めてるダンデのプライベートって言うのはもっと意外性があったり、ちょっと親近感湧くようなヤツなんだよ。ああいう実家から離れた独り身の生活感とか絶対ダンデに求められてない。だから今回は女の子のダンデファンがちょっとキュンとくるやつ書こうと思う。
多分親しい友人と家族くらいしか知らないだろうけど、アイツ結構筆まめなんだよ。最低二週間に一回、多い時は日に二回、オレさまはダンデから手紙を貰う。ダンデは手紙に拘りがあるのか、必ず封筒には封印が押してあるな。写真だとちょっと分かりにくいかもしれないけど、リザードンの横顔のエンブレムだぜ。らしいと言えばらしいし、変なところ手間かけるんだよな。オレさまはそのバランスが未だに分かんねえ。
手紙をくれるようになったきっかけはオレさまがジムリーダーになった時だな。その時にお祝いの言葉を長々と手紙にしたためて送ってくれたんだよ。おめでとうとか、自分の事のように嬉しいとか色々書いてあったけど、まあ結局は「今まで以上にバトルしよう」って話だったな。そんなのメールとか電話でも良いだろうに、忙しい時間割いてわざわざ手紙書いてくれたのが嬉しかった。だからオレさまもさ、丁寧にお礼の手紙を書いたんだよ。わざわざ手紙ありがとうとか、ダンデが祝ってくれて嬉しいとか、お前に勝てるようにもっと頑張るとかそういうことを書いた記憶がある。まあ随分前の話だから記憶も曖昧だけどな。その時はお互いガキだったから、寄ると触ると喧嘩ばっかだったんだよ。お互いライバルだって言って張り合って、口を開けば売り言葉に買い言葉、殴り合いの喧嘩もしょっちゅうでぶっちゃけ全然仲良くなかった。なのに手紙なんかくれたんだぜ。しかもいつもの調子じゃなくてさ、凄く丁寧に真心込めて書いてくれてたのが伝わるような良い手紙。切手なんかその辺で買えるココガラの84円切手でも良いはずなのに、わざわざリザードンの特別切手だったんだぜ。ダンデがチャンピオンになった記念に期間限定で発売されたやつ。この切手、今じゃプレミアつくんだぜ。こういうところに、ひとつひとつ、ちゃんとオレさまのことを考えてくれたのが分かるから本当に嬉しかったんだ。それから少しずつ仲良くなれて、今じゃこんな感じ。そこからずっと手紙でのやり取りが続いてる。どんなに喧嘩しても、お互いに手紙なら素直に謝れたって言うのもあるかもな。メールや電話よりも手紙送った方が返信が早い時があるのはどうかと思うけど。ま、オレさまとしては一つだけでも確実に反応が返ってくる連絡方法が確保出来てるから良いやって思うようにしてる。
まあ、最近の手紙の内容はそんなに面白いものじゃないんだぜ。メモの切れ端に日付と時間だけ書いてあるだけってこともある。そう言う時は、「この時間を空けられたからバトルに付き合え」ってこと。他にもポケモンに関する論文の全文コピーが送られてきて、端に「意見求む」って走り書きがあるだけとかな。出張先から絵葉書一枚届いたりとか、便箋にデカデカと「寝たい」って書いてあったり。そんなに忙しいならメールで手軽に済ませりゃいいのにとは思うんだけど、でももう何年も続いてる習慣だから、お互い止め時見失ってるんだよ。
チャンピオンやめてからは少し時間に余裕が出来たのか、分厚い近況報告の手紙も時々貰う。そういう時はびっくりするくらい事細かに色々書いてあるんだよ。日記かってくらい。いや知ってるよ、だってオレさまその時お前の横にいたじゃんって事まで律儀に書いてるのが可笑しくってさ、でもやっぱり嬉しいもんなんだよ。ダンデはそんな風に考えてたんだな、こんな感じに見えてたんだなって驚いたりする。読みながら、オレさまは柄にもなく色々考えたりもする。
そんな感じで、ダンデの手紙って、簡潔なのと長文の両極端なんだよな。本当に一言だけで済ませる時もあれば、めちゃめちゃ語るなコイツってオレさまでも若干引くくらいの時もある。オレさまの返信も似たり寄ったりだけどな。一方的に手が空いた時間指定したり、論文送りつけて「これだけは読んどけ」の一言だけ添えたり。でも多分、ダンデよりはちゃんとした手紙も送ってるぜ。オレさま、そんなに手紙を書くってことはなかったんだけど、ダンデにつられて何時の間にか頻繁に書くようになってたんだ。文具屋で便箋選ぶのにちょっと足止めたり、シーリングワックス買うのにも馴染みの店が出来たし、万年筆も好きなブランドが出来て新作のカタログ眺めるようになったり。これだけ付き合いが長いと、結構ダンデで生活のちょっとしたことが変わったりもしたんだよ。でもまあ、そういうのも悪くないと思うわけ。
最近ダンデからもらった手紙で一番笑ったのは、久しぶりに大喧嘩した時だったな。原因はなんだったかな。ドラメシヤの口内ケアに関する意見の相違、いや育成方針の相違だったかな。オレさまの誕生日にケーキ買ってきてくれたは良いけど、皿も出さずに鷲掴みで食い始めたからオレさまがブチギレたんだったっけな。指定の時間に会いに行ったら仕事の手伝いさせられたんだったかな。それともオレさまがダンデに無断でオノノクスを餌付けしてるのがバレて逆鱗に触れたんだったか。オレさま、ドラゴンタイプの女の子と仲良くしたかっただけなんだけどな。あわよくばヌメルゴンとも仲良くしてほしかっただけなのに。まあとにかく、しょうもないことだったんだよ。良い大人がみっともないって言われても仕方ない理由だったのは間違いない。どっちかが大人になって譲歩出来ればいいんだけどな、それがどうしても難しい瞬間があるんだよ。普段はちゃんと出来てるんだけど。まあ、タイミングが合わない時ってどうしてもあるよな。そうやって喧嘩になると手紙で謝罪するのがお決まりのパターン。オレさまもさ、すぐ謝ろうと思って仕事の休憩時間とかに何度も手紙書いてたんだよ。でも何となく文章がまとまらなくて、ああでもないこうでもないって書き損じばっかり増やして送れなかったんだ。それで結局三日くらい音信不通だったんだよ。メッセージアプリもメールも電話もお互いしなかったし、オレさまはSNSの更新もしてなかったしな。そんなこんなでダラダラしてたらナックルジムにポストマンがやってきて、オレさまにってメッセージカードと花菱草が届けられたんだよ。最初ファンからかなと思った。でも花菱草なんて花屋じゃあんまり見かけないよなあって。送り主聞いたら、ポストマンから
「ダンデさんからです」
って言われてひっくり返りそうになったわ。しかもさ、メッセージカード、なんて書いてあったと思う?「I MISS YOU」の一言だけだぜ。オレさま、腹抱えて笑ったね。いやだって、お前。オレさまにそんなんするかよ。お互い何歳になったんだよ。そんな謝り方ある?
勤務中だったけど速攻電話して、仕事場に送って来るなとか文句言うだけ言っておいた。それなのに、アイツ、なんて言ったと思う?
「カードは見てないのか?」
だと。アホか。その日の分の仕事速攻で終わらせてバトルタワーに喧嘩売りに行った。ダンデがリーグ委員長になってから全ジムがジムチャレンジ期間以外の勤務をフレキシブルにしたから助かった。まあ別に兼業してる奴も多いからな。オレさまも宝物庫があるし、自分都合で動きやすくて楽にはなった。十中八九ダンデは自分の都合だけでフレキシブルに踏み切ったけどな。とにかく、思い立ったらすぐに殴り込みに行けるのって素晴らしい。
良い年の男二人が文通ってちょっとサムいかなって思ったけど、今回は恥を忍んで書いた。ダンデから手紙貰ってるの、オレさまだけじゃないだろうしな。これだけ頻繁なのはオレさまくらいだろうけど、偶には他のヤツも貰ってるだろ。ネズとかルリナとか、後はソニア博士も幼馴染なんだし。それでやっぱりオレさま、なんだかんだ言ってダンデの手紙が好きなんだよ。世にも珍しい王様の気遣いだぜ。自慢したくもなるだろ?貰うだけでもオレさまがダンデにとってちゃんと友人やれてるんだなって実感できるんだけど、やっぱり読んでると嬉しいんだよ。端々からダンデの考えてることが分かって楽しい。普段口に出さないことも全部書いてくれるしな。
皆もダンデからの手紙が欲しかったら真心込めてファンレター送ってやってくれ。喜ぶだろうし、運が良ければ手紙で返信貰えるかもしれないぜ。忙しいから全部は無理だろうけど。オレさまとしても、ダンデがペンフレンド増やすのは大歓迎だしな。ダンデはもっとバトル以外で人と交流持った方が良いって、オレさまは思ってるから。長い人生なんだから、もっと楽しもうぜ。