『ライバル』
いよいよ最後だな。この原稿が「GP」に掲載される頃には、ダンデがチャンピオンじゃなくなって一年になる。最後だし、そういう節目だし、何か特別なことを書きたいんだが、どうせオレさまとダンデだしな。ここまで全部読んでくれた人は分かってるだろうけど、オレさま達スタジアムの外から出ても面白いことはそんなにしてないんだぜ。そうだな、この一年くらいで一番聞かれるようになった質問にでも答えておこうかな。この場を借りてってやつ。ダンデを期待してる読者には悪いな!でもちょっとだけダンデとオレさまに関わる問題だから付き合ってくれ。
この一年で一番聞かれたのは、「ダンデ選手とのライバル関係はどうですか?」かな。いやどうって。今まで通りです。他になんかある?いや、言いたいことは分かるよ。チャンピオンじゃなくなったダンデをまだ追いかけるのか?とか、ダンデの方だってまだオレさまをライバルだって思ってるのか?とかな。聞きたくなるのは分かるよ。でもな、それ今この時期に聞いちゃう?オレさまのメンタルがもうちょっと繊細だったらスランプになってるぞ。選手にとってモチベーション維持は結構大変なんだから、変なほじくり方してくれるなよ。まあ慣れてるけどな。皆もそれ分かってて言ってるんだろうしな。ここでオレさまが調子崩したら面白いだろうしな。「ドラゴンストーム、スランプ!ダンデロスか?」とか書きたいんだろ。でもそれはオレさまが嫌なんだよなあ。誰がそんな期待通りに素直に凹んでやるかって、反骨精神沸き上がってきちゃうね。オレさま、結構あまのじゃくだから。そんなに期待されると意地でも凹んでやりたくないんだよ。だから堂々とこの場で宣言するけど、ダンデのライバルはオレさまだし、オレさまのライバルもダンデだ。倒したい奴は他にもたくさんいるけど、でも純粋にバトルしたい奴って一番はダンデなわけ。張り合いたいのもダンデだし、一番負けたくないのもダンデ。そこにチャンピオンって要素は別にいらないんだよ。だからオレさま達はダンデがチャンピオンじゃなくなったくらいで何かがどうにかなるっていうのはない。逆にオレさまがジムリーダー引退しても二人でバトルしてるだろうな。でもライバルって、そういうものだろ?
次が「チャンピオンではなくなったダンデ選手に、何か言いたいことはありますか?」とか「試合後、ダンデ選手に何か言葉はかけましたか」だったっけ。言いたいこと?それはある。滅茶苦茶あるに決まってる。いやでも多分皆が期待してるのとは全然違う方向の話になるんだけど。こういう質問って多分オレさまが「おつかれさま」って言って綺麗にライバル同士の友情みたいな感じにしたいか、「ふざけんなよ」とか言ってバチバチに対立関係煽りたいかのどっちかだって邪推してるんだけど。あと泣くとか?本当のところどうなんだろうな。オレさまとダンデがどういう関係なら皆満足してくれるわけ?まあ良いや。
で、実際のところなんだけど、チャンピオンやめたダンデに言いたい言葉はあったんだよ。だからちゃんと顔見て言ってきたんだぜ。「やったな」「よかったじゃん」って。嫌味じゃないぜ。心の底から、オレさまはアイツがチャンピオンやめれて良かったなって思う。何回目かは忘れたけど、どっかでオレさまがダンデに
「消費するのがヘタクソ」
ってちらっと書いたの覚えてるか。ダンデはさ、この十年で色んなものを消費するのがヘタクソになったんだよ。特に娯楽系。まあどっちかって言うとアイツは消費される側だったからな。アイツがチャンピオンやってる時、最後の方なんかダンデはガラルのフリーコンテンツみたいなところあったと思う。グッズ展開もえぐかったし。ボールにTシャツに、もうなんでもダンデ入れときゃイイだろ、イケるだろみたいな。あれはオレさまちょっとどうかと思ったぜ。そういう商法にじゃなくて、そうやって消費されるのが当たり前になってるダンデにな。そんで、消費される側だからって自分で消費するのまでやめたのは、本気でどうかと思う。誰がそこまでやれって言ったよ。加減って言葉知らねえの?まあ知ってたら十年も品行方正な無敵のチャンプやってないわな。責任感強すぎて馬鹿正直でさ。お前だからそういうチャンピオンが出来たんだろうよ。これはマジで褒めてないからな。人間として不健全だって言ってんの。だから、ダンデがチャンピオンじゃなくなってオレさまは良かったと思うよ。それがオレさまの、超個人的な意見。
まあ、そうなった責任はオレさまにもあるんだよな。この十年、ダンデと一番長い時間を過ごしたのはオレさまだからな。オレさま、ダンデが「バトルしている時が一番楽しい」って言うから、ダンデが楽しいならどれだけでも付き合おうって、全部付き合っちまったから。だからダンデはどんどん他の楽しいこと忘れていって、気軽に娯楽を消費出来なくなっちまったんだよな。そりゃあもう際限なく、時間の許す限りバトルしてたよ。隙間時間見つけてはバトル、一日オフになったらオレさまもそれに合わせて休み取ってバトル三昧。バトル、バトル、バトル、その合間にキャンプしてバトル。お互い、よく飽きなかったし倦まなかったよな。普通これだけバトルしてたら発狂するって言われたぜ。でもオレさま達にはそれしかなかったんだよ。別の時間を共有しようだなんて思ってなかった。今思うと、もっと別のところに目を向けさせてやるタイミングはいくらでもあったんだけどな。ダンデにバトル以外にも楽しいこともあるんだぜって教えてやれるのはオレさまくらいだったのに。でもオレさまは、ダンデが楽しくオレさまとバトルしてくれるのが嬉しくて、ついそういう事を後回しにした。きっとどっかでは分かってたんだけどな。お前は真面目で不器用だから、息抜きの方法をちゃんと思い出させてやらないと忘れちまうって。それなのに、オレさまの馬鹿野郎。悪いことしたと思ってるよ。だから、今回の連載を口実にダンデと色んなことが出来たのはオレさまにとっても良いことだった。罪滅ぼしじゃないけど、埋め合わせの途中ってところ。これでもうちょっとダンデの世界が広がっていけば良いんじゃないかって思ってるよ。
今、バトルタワーのオーナーやリーグ委員長として駆け回ってるお前は楽しそうだよ。気兼ねなく、誰とでもバトルが出来るって言うのはダンデにとっては長年の夢みたいなものだったから当然だ。そういうお前見てると、オレさまはやっぱりお前がチャンピオンやめて良かったと思うんだよ。お前はチャンピオンじゃない方がずっと良い。でもさ、バトルに夢中になるのも良いんだが、お節介なお前のライバルが息抜きしようぜって言ったときはちゃんと付き合ってくれ。お前、楽しくなると周りが見えなくなるから、ほどほどにしとけよ。いやオレさまも人の事言えねえけど。
何だかんだ言ったけど、ダンデがチャンピオンだった十年を振り返ると、オレさま楽しかったんだ。バチバチにやりあったり、煽り合ったり、喧嘩したりもしたけど、でも一番ダンデに楽しませてもらったのはオレさまだって思うわけ。これは自信持って言える。オレさまはダンデとのバトルを誰よりも味わい尽くした男だし、楽しんだ男だ。だからダンデは今でもオレさまをライバルだと言うし、オレさまだってダンデをライバルだと堂々と言える。負けて悔しいのは当たり前だけどな、でもそれ以上に、ダンデとバトルしてたら何よりも楽しかったんだ。だからな、これからはオレさまの番なんだよ。ダンデに付き合って楽しく過ごさせてもらった分、オレさまがこれから十年、お前を色んなことに付き合わせて楽しませてやる。ダンデが忘れた楽しいことを、オレさまが全部思い出させてやる。そうやってお前はチャンピオンをゆっくり卒業していけよ。
気が付いたら、ほとんどダンデ宛の文章になっちまったな。最後なのに締まんねえな。でも良いか。オレさまのチャンピオン・ダンデの陥落にまつわる私情はこんな感じだ。発売後はこの手のインタビューが来ても「GP読め」で通すことにする。こんなに赤裸々に語ったんだからもう良いだろ。
六カ月あっと言う間の気もするし、でももう御免だと思ってたりもする。こんなに文章を書くのって大変なんだな。あと、長い文章を書くのはオレさまあんまり向いてると思えない。だからよっぽどの事がなければ連載持つのはこれで最後だろうな。人生観が変わるような一大事が起こって、これだけは伝えなきゃ!みたいな義務感に迫られない限りは多分無理。締切が怖いしな。まあ、これはこれで楽しませてもらったよ。「GP」の編集さんたちもありがとうな。締切伸ばしてくれとか無茶言って悪かったよ。いつもギリギリになってたのは申し訳ないと思ってるんだぜ。
今回の写真は普通にダンデの写真だ。チャンピオン時代に撮らせてもらったヤツ。楽しそうにしてるだろ。まあ、バトルしてる時の顔なんだけど。お前は他のとこでもそういう顔しとけって。そういうのも悪くないからさ。