「N garage」は、慣れ親しんだユーザインタフェース(以下UI、※1)で新聞記事を読むことのできるスマホアプリです。主な特徴は、一つの記事を同じアプリで、かつ4つの形式(元記事、要約文、動画、ショート動画)で読むことが出来る部分です。
これにより、従来の新聞紙やSNSでは叶わなかった、ユーザの特性や今いる環境に応じて記事をシームレスに変更することができます。
主な使用方法
Step1.ホーム画面から読みたい記事の形式を選択します(例としてOriginalを選択)。また、このページでは各表示形式をどれくらいの頻度で利用しているか知ることができます。
Step2.記事の形式を選択すると一覧ページに移動できます。次に、読みたい記事を選択します(例として介護保険スタート)。
Step3.記事を読みます。また、このページから上のタブバーにある4つのアイコンをタップするとすぐに他の形式で読むことができます(例としてVideo形式)。
Step4.同じ記事をVideo形式で読むことができます。
使用可能な状況例
本アプリを使う状況として以下のような例が考えられます。
例1:時間
時間があるのでじっくり読みたい→Originalページで従来通りの方法で新聞記事を読む。
時間がない→Short Text及びShort Videoページで新聞記事を読む。
例2:記事のレベル
経済や政治に関する記事が難しそうで読む気が起きない→Short Textページで要点だけ知る。
例3:ミスリード対策
既存のメディアでタイトルだけ読んで誤解→Short Textページなどで読んだ後、Originalページで全文を読む。
開発チーム等の紹介
アプリ開発班
アプリ開発班では、初めにアプリ全体のUIや機能を考え、プロトタイプを作成した後、アプリ開発を行いました。また、アプリ開発だけでなく、データベースからデータを取得する部分もまた担当しました。
開発言語等の紹介
開発フレームワーク:Flutter
開発言語:Dart
バックエンド:Firebase
Original(元記事)ページ
このページでは、従来通り、新聞記事をじっくり読むことができます。
Short Textページ
このページでは、要約された新聞記事を読むことができます。
Videoページ
このページでは、新聞記事を動画で読むことができます。
Short Videoページ
このページでは、要約された新聞記事を動画で読むことができます。
記事メディア処理班
記事メディア処理班では、Short Text、Video、Short Video の3つの形式を作成することを目標とした。
Short Text
開発に用いた技術等の紹介
・開発言語:Python
・モデル:LexRank [4]
抽出型の重要文抽出手法であるLexRankを用いて新聞記事のテキストデータを3行程度に要約した要約文を生成した。
Video ・Short Video
開発に用いた技術等の紹介
・開発言語:Python
・字幕文生成:MMRによる文選択と係り受け木による文圧縮
・画像生成:PImageライブラリ
・動画生成:OpenCVライブラリ、MoviePyライブラリ
・音声生成:gTTSライブラリ、Pydubライブラリ
新聞記事から読み上げ音声と動画用の画像を生成し、生成した画像から無音の動画を生成した。
読み上げ音声と無音の動画を結合してVideoとShort Videoを生成した。
Video用動画
Short Video用動画
新聞の購読者数は年々減少しています[1]。特に、若い世代で顕著に見られています[2]。
インターネット広告費は新聞の広告費を2012年に上回って以降、その差を広げ現在では5倍以上になっています[3]。
これらのことから、ネットメディアの影響力が大きくなっていると考えられます。
また、ネット上に存在するメディアは、短文に特化したものから長尺の動画に適したものまで多種多様で、それぞれ違った印象をユーザーに与えます。
一方、新聞各社はネットメディア、特にSNSの活用を図っているものの効果的に使えている例は多くありません。
各メディアの特徴を議論した結果、様々なメディアでコンテンツに応じた表示形式・特徴があることがわかりました。
新聞記事にあまりアクセスしない人に対してその機会を増やすこと、あるいは新聞に興味を持ってもらうことです。
また、このプロジェクトで開発したアプリから得られるデータ及び評価実験を通して分析し、新聞社に対してネットメディアの新たな活用法を提案します。
上記の目的を達成するために以下の仮説を立てました。
①新聞を馴染みのあるUIで読むことが出来れば、普段読まないユーザにも興味が湧くのではないか。
→これは、若い世代で新聞が読まれていないという背景から、何か話題性になるような面白いアイデアが、新聞にアクセスするきっかけとして必要であると考えたからです。また馴染みのあるUIにしたのは、ユーザの操作性に関する認知的負荷(※2)を軽減するためです。
②新聞記事の形式を様々な日常の場面に適するように変更することで、新聞の記事にアクセスする機会が増えるのではないか。
→これは、現代において新聞紙を読む環境が限られているという背景から、新聞記事自体をユーザに合った場面で読むことができれば、新聞を読む機会が増えると考えたからです。
本プロジェクトで開発したアプリ「N garage」を利用してもらい、アンケート方式により評価・検証を行いました。
実験評価では、N garageの効果の検証と既存のメディアとの比較をすることを目的としました。
公立はこだて未来大学の学生10人が実験に参加しました。
以下のような結果が得られました。(一部抜粋)
新聞について
情報を取得する際に使いたいメディア(実験前)
ニュースを知りたいときに使いたいメディア
N garageで記事を読むときどの形式が読みやすかったか
日常でニュースを知りたいとき、それぞれの場面で利用できると思うメディア
記事形式の切り替えをスムーズに行えたか
記事形式ごとに受けた主な印象
Original
• 真面目
• 硬い
• シンプル
• 疲れる
• つまらない
• 重い
• 難しい
• 考えさせられる
Short Text
• 気楽
• 軽い
• シンプル
• 興味深い
• キャッチー
• 柔らかい
Video
• 真面目
• 楽しい
• 柔らかい
• 軽い
• 気楽
• キャッチー
Short Video
• 軽い
• 柔らかい
• 気楽
• キャッチー
• とっつきにくい
制作の過程
用語の説明
※1 ユーザインタフェース:UI。コンピュータと人の間で情報のやりとりを行うための部分(画面など)。
※2 認知的負荷:表面的なデザインやUIから、アプリの持つ機能などをユーザが理解するまでに脳内で辿るステップ数。これが多いほど、ユーザにとって負担となる。
[1] 一般社団法人 日本新聞協会,新聞の発行部数と世帯数の推移,Pressnet.(2021/07/10アクセス)
https://www.pressnet.or.jp/data/circulation/circulation01.php
[2] 公益財団法人 新聞通信調査会,第13回メディアに関する全国世論調査.(2021/07/10アクセス)
https://www.chosakai.gr.jp/project/notification/
[3] 経済産業省,特定サービス産業動態統計調査.(2021/07/11アクセス)
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/index.html
[4] G. Erkan and D. R. Radev . LexRank:Graph-based Lexical Centrality as Salience inText Summarization. Journal of Artificial Intelligence Research, 22, 457-479,2004