Mammal

研究室では、マウス初代培養神経細胞を用いて、神経変性疾患に重要なシグナル伝達機構の解析を行なっています。特に、パーキンソン病原因遺伝子αシヌクレインの凝集体形成・伝播機構や、疾患前駆期における神経シナプスの変性機構、エクソソームなど細胞外小胞の生合成・放出機構に関し、グリア細胞(アストロサイトなど)の役割に注目した研究を進めています。

また家族性パーキンソン病原因遺伝子LRRK2と、そのファミリー分子LRRK1による細胞内小胞輸送の制御機構の解析も進めています。これまでLRRK1が、上皮成長因子受容体(EGFR)の細胞内トラフィックを制御するメカニズムや、損傷ミトコンドリアを除去する機構(マイトファジー)など、さまざまな細胞機能に、LRRK1/2が重要なことを明らかにしてきました。現在、アストロサイトにおいてどのような機能を果たしているのか解析を進めています。 

αシヌクレイン凝集体形成・伝播とシナプス変性機構の解析

認知症を含む神経変性疾患は、高齢化が進む日本にとって喫緊の課題です。しかしながら、未だ根本的な治療法は開発されていません。アルツハイマー病やパーキンソン病などの疾患では、実際に症状が現れる10〜20年も前から、脳の中で原因タンパク質(アミロイドβやTau、αシヌクレイン)の凝集・拡散が起き、それに伴って神経シナプスの機能障害が進行します。この疾患前駆期に治療介入できれば、疾患の発症を防ぐ、あるいは、遅延させられる可能性があります。そのためには、疾患前駆期の脳で何が起きているのか知ることが必要です。当研究室では、マウス初代培養神経細胞やグリア細胞(アストロサイトやミクログリア)を用いたin vitro解析から、疾患前駆期におけるαシヌクレイン凝集体の形成・伝播、それに伴うシナプスの変性機構に関し、分子・細胞レベルで明らかにすべく研究を行なっています。 

家族性パーキンソン病原因遺伝子LRRK2とファミリー分子LRRK1の機能解析

 LRRK1/2は、一分子内にRas様GTPaseドメインとMAPKKK様キナーゼドメインを持つ非常にユニークなキナーゼです。LRRK2は、家族性パーキンソン病の原因遺伝子として知られていますが、その作用機序は長く不明でした。我々を含めた最近の研究から、LRRK1/2は、低分子量GTPase Rabファミリーをリン酸化することで、エンドソーム・リソソーム経路の制御に重要なことが明らかとなってきました。パーキンソン病患者で見られるLRRK2変異は、キナーゼ活性を亢進させることから、Rabファミリーのリン酸化を介した制御は、パーキンソン病発症に重要な可能性があります。

当研究室では、主にLRRK1の機能解析を行い、LRRK1が(i)EGFR細胞内トラフィックを制御すること、(ii)Parkin依存的マイトファジーを制御すること、(iii)一次繊毛の退縮を制御すること、などを明らかにしてきました。現在、LRRK1/2によるエクソソームの生合成・放出の制御に注目し、解析を行なっています。

■■ 論文 ■■


Nat. Comm.  2011

ロイシンリッチリピートキナーゼLRRK1はEGF受容体のエンドソーム間トラフィックを制御する。


Mol. Biol. Cell.  2012

EGFR依存的なロイシンリッチリピートキナーゼLRRK1のリン酸化は適切なEGFRの細胞内トラフィックに重要である


Nat. Cell Biol.  2015

PLK1依存的に活性化したLRRK1は、CDK5RAP2をリン酸化することでスピンドル配向を制御している。


J. Cell Sci.  2015

LRRK1がリン酸化したCLIP-170は、p150Gluedを微小管プラス端にリクルートすることでEGFRトラフィックを制御している。


J. Cell Sci.  2019

LRRK1はRab7セリン72をリン酸化し、エフェクター分子RILPを介したEGFR含有エンドソームの輸送を制御する。


J. Cell Sci. 2022

LRRK1-NDEL1経路は、dynein-2輸送経路を介して一次繊毛の退縮を制御している。

 

J. Cell Sci. 2022

LRRK1はRab7 Ser-72リン酸化を介して、Parkin依存的マイトファジーを制御している。

 

J. Cell Sci. 2023

LRRK1はER-endosome接触部位で、PTP1BによるEGFR脱リン酸化・ILV sortingに機能している。