ルスタイン語は、アルカイン=アムディカ大陸の南東に位置するルスタイン王国の公用語として使用される言語。歴史的にみて語彙や音韻など、あらゆる面において既存のどの言語とも類似性が見当たらないということから、現状「紫瀛星世界」内の比較言語学では孤立した言語となっている。
1. ルスタイン語の音韻
2. ルスタイン文字とその翻字
3. ルスタイン語の形態論
4. ルスタイン語の文法
5. ルスタイン語の数詞
6. ルスタイン語の標準語・方言
7. ルスタイン語の語彙・慣用表現
8. 架空世界におけるルスタイン語
詳細は「ルスタイン語の音韻」を参照。
ルスタイン語の子音は全部で39種類存在し、発音の特徴によって強調音と非強調音に分けられる。また単語の弁別には関係ないが、子音の一部には前後の母音に影響されて性質が変化するものもある。
子音 /h/ は以下の条件下にあるとき、発音されなくなる。
語末にあるとき。
前が短母音であり、かつ後ろが子音であるとき。(このとき、短母音は対応する長母音に変化する)
前が長母音または二重母音であり、かつ後ろが子音であるとき。
子音 /ʔ/ は以下の条件下にあるとき、発音されなくなる。
語頭あるいは語末にあるとき。(語末の方が発音されないことが多い)
前後どちらかに子音が連結しているとき。
子音 /ʕ/ は以下の条件下にあるとき、曖昧母音 /ə/ として発音される。
母音 e, o, i, u, ai, au の後ろにあり、かつ他の子音の前あるいは語末にあるとき。
ルスタイン語の母音は、短母音と長母音がそれぞれ3種類、二重母音が2種類の計8種類存在する。加えて限定的な場面でのみ使用される鼻母音が3種類、単母音に対応する形で存在する。また、子音の区別のための挿入母音が現れることがあるほか、他の母音も前後の子音に影響されて発音が変化することがある。(個人差あり)
一部の子音連結の中に区別のための(弁別に影響しない)挿入母音 [ə] が現れることがある。
全ての母音に共通して、後ろの子音が鼻音のときは鼻音化して発音される。
母音 a の音素表記は /ɜ/ だが子音に影響を受けやすく、非強調音の後ろでは [ɛ] に、強調音の後ろでは [ʌ] に変化する。
母音 e, â, i, au は強調音にのみ影響を受け、それぞれ [ɘ, ɑː, ɨː, ʌu̯] と後ろ寄りの位置で調音される。
母音 o, u, ai は非強調音にのみ影響を受け、それぞれ [ɵ, ʉː, ɛi̯] と前寄りの位置で調音される。
母音 e は子音 j の後ろで短い [i] に、母音 o は子音 w の後ろで短い [u] に変化する。
ルスタイン語の表記には通常、ルスタイン文字というアブジャドの文字体系を使用する。しかし、技術的にインターネット上での表示は難しいため、代替としてアラビア文字とラテン文字による翻字法を設定している。
アブジャドであるルスタイン文字は基本的に子音しか表記しないが、初学者や辞書の編集のための補助的な付加記号も存在する。付加記号にはルスタイン数字のデザインが流用されており、それぞれの通常母音と無母音と挿入母音、重子音化と前鼻音化を表すものが存在する。
ルスタイン語の単語のほとんどは2~4個の子音によって成り立つ語根をもとに作られており、それぞれ2語根品詞、3語根品詞、4語根品詞と呼ばれる。語根からは主に母音交替によって品詞が派生するが、その派生パターンは語根を構成する子音の数によって変化する。
派生の類型は動詞(原形と過去分詞)と動名詞(有生と無生)と形容詞のそれぞれで異なり、さらにそこから類型I~類型IXまでの9つに分かれており、かなり複雑である。
また、子音の順序を入れ替えることによっても意味を派生させる語根も一部存在する。
ルスタイン語の3種類の単母音にはそれぞれ近称、中称、遠称といった距離的な意味が与えられており、動詞、名詞、代名詞など多くの品詞、限定詞の活用に応用される概念である。
具体的には a と â が近称母音、e と i が中称母音、o, u が遠称母音と呼ばれ、代名詞では距離的な弁別を、動詞では後述の3つの態の区別を、名詞では同綴語の差別化を表現している。
対象の語の末尾に -þ を用い、概念的に不可算なものを単数化することができる。これは冠詞による名詞の固有化などとは異なり、単一の「概念」を表すような場合に用いられる。
同じように対象の語の末尾に añ, eñ, oñ を用いて双数化することができるが、こちらは名詞を二極化(寒暖、高低といった相対するものを一語に表す)するときに用いられる。
SVO順が一般的かつ支配的。ただし表現によってはVを先頭に移動させたり、Sを末尾に移動させたりもするため、例外的に語順は自由であるともいえる。
ルスタイン語の文法における性は既に廃れて存在しなくなっているが、動名詞や代名詞、冠詞などには区別が残存している。特に冠詞は、有声冠詞か無声冠詞かによって元の語の意味合いを変化させる役割も併せ持つため、ルスタイン語の表現を知る上で重要である。
ルスタイン語の冠詞には前述の通り、大まかに有生(l系)と無生(n系)の2種類存在する。冠詞は単語によって母音が交替して距離的意味合いを変えるほか、直後の子音によって語形自体が変化する。また接頭辞と膠着することによって何種類もの変化形が作られる。
動詞は完了の是非と人称(一人称、二人称、三人称)と数(単数、複数)と態(能動態、中動態、受動態)のそれぞれで活用形が変化し、さらに語根の子音の数によってパターンが分かれる。これによって文章の主語を省略することが可能になる場合もある。
ルスタイン語には活用をしない接頭辞や前置詞といった形をとる副詞が多く存在する。中には一見すると同じ意味を持つ接頭辞と前置詞もあるが、同じでも接頭辞と前置詞では意味合いの強度が異なり、前者は「弱副詞」、後者は「強副詞」と呼ばれる。
弱副詞は名詞と動名詞のみと組み合わさることができ、合わせて一語とみなすことができる。対して強副詞は修飾語以外のあらゆる品詞と組み合わさることができ、必ず集合品詞という形になり一語とみなすことはできなくなる。弱副詞と強副詞は副詞部分が品詞に及ぼす意味の影響の強さが異なり、具体的には下記の訳語にあるようなニュアンスの違いを区別する。
名詞+弱副詞:文章中 → 文章+中
主語の中で強調したい部分が名詞にある。
名詞+強副詞:文章の中 → 文章+の中
主語の中で強調したい部分が副詞にある。
ルスタイン語では数詞を取り扱う際に特殊な活用の仕方をする。特に他の品詞が軒並み子音のみの語根を基にしているのに対し、数詞は基数詞そのものを語根として扱う点に注意しなければならない。
独立した基数詞として存在するのは、数価 0~12, 20, 30, 40, 50, 100, 1000, 10⁴, 10¹⁶ の21個で、数価 60, 70, 80, 90 には基数詞 6, 7, 8, 9 の派生形、数価 10⁸, 10¹² には基数詞 10⁴ の派生形を用いる。
ルスタイン語の数体系には10を底とする十進法が採用されており、そのほかの数は複数の数詞を組み合わせて表現する。11 と 12 の専用の基数詞は今日では使用される機会は限られており、通常はそれぞれ 1 と 10 の組み合わせ、2 と 10 の組み合わせで表現される。
ルスタイン王国におけるルスタイン語の標準語は、首都のサガドで話される口語のサガド方言が元となっている。発音などの面での地域差が大きく多種多様な方言が存在しており、首都出身の者と辺境出身の者の意思疎通が難しいというのは王国内では有名な話である。
標準語でない方言の中で最も使用者が多いのはゲレヴ方言であり、ルスタイン語話者全体の4分の1程度を占めるともいわれている。ゲレヴ方言ではルスタイン語に特徴的な強調音と非強調音の区別が存在しない、長母音が長音である必要が無くなっている、二重母音の数が多いといった特徴がある。
次に使用者が多い方言はダチア方言で、こちらでは強調音を円唇化子音として発音する点が特徴的である。ダチア方言はアムディカ大州南部のアズナロアで話されるゾンネ語と音韻論的な類似点が多く、ルスタイン人とゾンネ人の文化的繋がりについて調査する際の研究材料となっている。