次のような研究に取り組んでいます。それぞれが重なる部分もあり、厳密に分けることは難しいです。
さらに、これらの研究を基盤とした酵素改変にも取り組んでいます。
活性中心に金属を用いることで、金属タンパク質は多様な機能を発揮します。構造生物学的手法によって金属タンパク質の機能発現機構の解明を目指しています。
左図は、私がこの道を歩むキッカケとなった金属酵素である暗所作動型プロトクロロフィリド還元酵素 (DPOR) の結晶構造です。
金属酵素には、一般的な酵素では困難な反応を触媒する酵素も多く存在しており、産業的に重要な酵素も数多くあります。古くて新しい研究分野と捉えています。
ヒドロゲナーゼは活性中心に複雑な金属クラスターを有しています。
細胞内でヒドロゲナーゼの活性中心が作られる仕組みを研究しています。
ヒドロゲナーゼの金属クラスターには一酸化炭素が含まれています。
この一酸化炭素はHypXという酵素によって生合成されます。
左図は、HypXの結晶構造です。中央にスティックモデルで示しているのが補酵素Aです。一酸化炭素を生合成する反応はこれまでにも報告例がありますが、HypXは、金属が関与しない・酸素の有無に影響しない・補酵素Aを利用する という全く新しい生合成酵素であることを発見しました。
生物は驚くほどたくさんの種類の金属を利用しています。
必要な金属を必要な場所に運ぶための仕組みを研究しています。
左図は、コリネバクテリアが細胞の外でヘム(ピンク色のスティックモデル)を獲得するために作るタンパク質HtaBです。コリネバクテリア属のジフテリア菌はヒトに感染すると赤血球中のヘモグロビンからヘムを抜き取り、鉄源として利用することで増殖します。HtaBはジフテリア菌が宿主体内で生存するために必須のタンパク質であり、創薬ターゲットとなり得ます。
生物は恒常性を維持するために、さまざまな方法で環境を感知しています。環境を感知することによって、タンパク質の構造が変化する様を活写することを目指しています。
現在は、金属や光に応答するセンサータンパク質に着目しています。
左はヘム濃度を感知するセンサータンパク質PefRの構造です。
タンパク質を改変するというアイデアは古く、ミオグロビンなどのヘムタンパク質を改変して新規な酵素を作る研究はよく知られています(2018年ノーベル化学賞)。金属酵素では、金属を置換することで機能改変する研究もなされています。最近では、機械学習等を利用してデザインするという手法も出てきました。現状は細々ながらですが、これらの研究にも取り組んでいます。
左は鉄硫黄クラスターを有する電子伝達タンパク質フェレドキシン(左)と鉄をガリウムに置換したガリウム置換型フェレドキシン(右)の結晶構造をそれぞれ示しています。
これまでに示したように、金属の結合・非結合を伴う系に着目した研究に取り組んできました。
金属の結合状態と非結合状態によって生じる構造多型を追跡することで、
生命が有する精緻なシステムの理解を目指しています。
活性中心に金属を有する酵素の中には、酸素存在下で失活する酵素もあります。
そうでなくても、活性中心を形成するために多くの補助タンパク質を必要とする酵素も多く、産業利用の障壁となっています。
私は嫌気性酵素に酸素耐性を付与するシステムや、好気的条件で嫌気性酵素を活性化させるシステムを構築することで、これまでに産業利用されなかった嫌気性酵素を大量に安定に生産する手法の開発を目指しています。