街の外れにある寂れた一軒家だ。廃墟とまではいかないが、長いこと手入れがされていないような庭や、蔦の伸びた壁、暗くて中の見えない窓など、陰鬱な雰囲気を纏っている。
駐車場を確認した場合、車は一台も停まっていない。
玄関扉には鍵がかかっているが、何らかの技能判定に成功、もしくは侵入口を探す等の宣言で、不用心にも玄関近くの窓が開けっぱなしになっていることに気付く。そこそこ大きな窓なのでSIZの高い探索者でも侵入可能だ。
もちろん<鍵開け>で扉を開けることも出来るし、物理攻撃や扉のSTR6との対抗で強引に開けることもできる。
建物は二階建てになっていて、手前から玄関、居間、台所、風呂トイレと続き、奥に階段が見える。
1階
建付けの悪い玄関扉と、少ない靴の置かれた棚がある。靴はすべて男性のものだ。
<目星>をすると、埃の積もり具合から人の出入りはあるようだと気づく。長いこと放置されていた訳ではなさそうだ。
テーブルと椅子、テレビなどの必要最低限の家具があるだけで、殺風景である。また、何故か椅子が一脚倒れているのが見える。
◆テーブル
テーブルには湯呑みが一つ。冷めきった茶が入っている。
<目星>
テーブルの下に古びたお守りが落ちているのを見つける。いつも谷河が身に着けているものだ。なにかと不幸体質な谷河は、こういったお守りの類を複数持っていた。
※谷河がこの家を訪れたという痕跡。
◆倒れている椅子
湯呑が一つそばに転がっているのを見つける。
<目星>or<アイデア>
その周囲にうっすらと色の濃い液体が渇いてこびりついているのを見つける。
近づいて詳しく調べるなど宣言があった場合、あるいは<聞き耳>の成功でその液体の痕を嗅ぐことになり、コーヒーの臭いがするがすることに気づく。これを吸い込んでしまった探索者は、POT6との対抗ロール。失敗すると眠気に襲われ、頭がぼんやりとする。1D10×10分の間、頭を使う技能値に-5%の補正となる。
これに関しては詳しく調べようとしてもこれ以上のことは分からない。
※『睡眠薬としての黒い蓮』が混入されたコーヒー。薄められていたり、時間が経過して乾いているため効果も抑えられている。
あまり綺麗とは言えないが、一応は生活していた痕跡があり、水道やガスは通っている。
冷蔵庫にはミネラルウォーターと缶ビール、少しの食材が入っており、戸棚には保存食がいくつか並んでいる。
<目星>
インスタントコーヒーと、その隣に中身のない小さな瓶があるのを見つける。瓶にはラベルが張られているようだが、文字は滲んでいて読めない。
もし匂いを嗅いだ場合はPOT3との対抗ロール。失敗するとわずかに眠気を感じ、頭がぼんやりする。行動に支障が出るほどではない。数分もすれば眠気はなくなる。
※『睡眠薬としての黒い蓮』が入っていた瓶である。かすかに効果が残っている。
よくある水洗トイレと狭い風呂場だ。ここではとくに得られる情報はないので、探索者が催したら用を足すくらいである。
もし生活した痕跡はあるのかと尋ねられた場合は、リンスやシャンプーといった生活用品が残っていることを告げる。
2階
きしむ階段を上がっていくと、部屋が二つあるのが分かる。手前が書斎、奥が寝室になっているようだ。
壁をぐるりと囲む大きな本棚と机があるだけの部屋だ。独特の紙とインクの匂いが漂っており、壁にかけられた時計がちくたくと時を刻んでいる。
本棚には沢山の小説や専門書のほか、よく分からない言語の本なども並んでいる。小説はそのほとんどが怪奇小説で、夢野久作や小泉八雲など有名な文豪のものから、名前も聞いたことのないような作家の本まで多彩だ。どれもとても大切に保管されているようで状態がいい。著者名の五十音順に整理整頓され、中には透明なカバー掛けをされている大判の辞書や辞典のようなものまである。
◆本棚
<図書館>or<目星>
気になるノートと古めかしい本を見つける。ノートはどうやら何かの記録になっているようだ。
記録の内容
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(これ以前にも下記と似たような記録がある)
・田畑律子 完了
精神:4日 雛:8日
・羽柴幸助 完了
精神:4日 雛:7日
・青田真希 完了
精神:3日 雛:5日
・加西秀介 完了
精神:2日 雛:3日
・香川まみ 完了
精神:2日 雛:5日
・松浦太郎 完了
精神:3日 雛:6日
・谷河望夢 進行中?
精神:? 雛:?
・安住康太 完了
精神:3日 雛:6日
・山崎登美子 進行中
精神:1日 雛:推定4日
・山田浩二 進行中
精神:1日 雛:推定3日
・不明の人物 進行中?
精神:? 雛:?
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古めかしい本のタイトルは『The Revelation of Glaaki』となっていて、12巻まである。
中はすべて読みづらい手書き文字の英語で書かれている。この本に関しては<英語>技能を振ることで、わずかにだが目を通すことが出来る。
内容は難解かつ非現実的で、おぞましく複雑怪奇なものだ。読んでいると背筋が凍り付き、ひどい恐怖に襲われる。狂気に満ちた冒涜的で触れてはならない知識が、ただほんの少しのページに目を通しただけで流れ込み気が狂いそうになる。
SAN減少1D5
呪文<神格との接触/アイホート>を習得
神話技能+5%
この呪文についてはシナリオ中で使用されることは殆どないと仮定して詳細の記載はしない。もしも使用する場合は基本ルールブックP.260を参照する。
また、谷河が書いた英文を読んでいた場合、それと内容が似ていることも分かる。
この本は妙に難解で古い言い回しを使っているため、詳しく読み解くのにはかなりの時間を要する。ただ少なくとも「読んではいけないもの」だということだけは理解できる。
※これらは『グラーキの黙示録』の写本であり、佐原は第4巻はじっくりと読み込んでいるものの、他の巻はまだ研究途中である。
◆辞書や辞典
様々なジャンルの辞書や辞典が並んでいる。何度も読み返しているのかどれもカバーに痛みがある。様々な言語の辞書から国内や海外の怪異をまとめた辞典など、図書館顔負けの蔵書だ。探索者が希望するのであれば英語辞書も勿論ある。この辞書を使って英文を読む場合は<英語>にプラス補正をかけてロールすることも出来る。
また、怪異辞典に今回の事件と類似のものがないかも探せば見つかるが、探索者が入手している以上の情報はない。
◆机
『連続失踪・怪死事件、またも犠牲者が』という見出しの書かれた新聞を見つける。
目を通せば、おおむねこれまで得た情報と同じことが書かれているのが分かる。
またこの記事では、市内にある中学の校長が同様の変死体となって発見されたと報じられている。この中学校では生徒からも数人の犠牲者が出ているようだ。
中学校は佐原の家からはやや離れているが、探索者達の住む場所の比較的近くにある。
中に入ると、古いベッドと本棚だけが置かれているのが視界に入り、開けっ放しの窓からは冷たい風が入り込んでいる。殺風景ではあるがここにも蔵書があり、よほどの本好きなのだろうと察することができる。
◆ベッド
ベッドには本が一冊置かれている。
中は英語で書かれており、読み解くには<英語>技能に成功する必要がある。
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グレート・オールド・ワンであるこの神は、セヴァン谷の地下深くにある迷路のような暗い場所に棲んでいる。この神と出会うと契約を迫られ、それを受け入れなければ即座にこの神によって殺されてしまう。
契約を受け入れた者は、その雛を体内に埋め込まれる。通常はこの神と接触することで雛が寄生するが、なんらかの形で雛を持ち出した者により、呪いのようになって地上に広まることがある。それはカルト教団の仕業であることもあれば、人ならざる何かによって罠が仕掛けられることもある。
雛はわずか1か月程度で成長しきることもあれば、数か月の時間をかけてゆっくりと成長していくこともある。この雛が育っていけば宿主を洗脳し、恐ろしい映像を見せて精神を破壊する。やがて雛が成長しきると、その腹を突き破って飛び出していく。これによって死亡した者は解剖しても詳しい死因が特定されないため、事件はすべて迷宮入りとなる。
過去にこの神がカルト教団によって呼び出されたとき、通常の成長速度から逸脱した勢いで呪いが広がったことがある。人間がそのような手を加えることなど絶対的に不可能だが、このような変異が実際に観測されていることは確かであり、人間に干渉する何かの存在があるのではないかと推測できる。
現在この神はカルト教団と対抗する組織によって追放され、棲みかであるセヴァン谷の迷宮に幽閉されている。しかしこの拘束は1年程度で解かれてしまうため、またいつ狂人によって目覚めさせられるかは分からない。
雛達は現在も地球上のどこかで身を隠し、親の目覚めをじっと待っている。
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もし<クトゥルフ神話技能>に成功した場合、これが『アイホート』のことを差していることと、自らに寄生しているのが『アイホートの雛』だとはっきりと理解してしまう。SANc1D3/1D6
◆本棚
<図書館>or<目星>
日記を見つける。はじめは綺麗な筆跡で綴られているが、途中から乱れたものに変わっている。
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仕事を辞めることにした。やはり私は、作家になる夢を諦めきれない。これまで親の敷いたレールに沿って生きてきたが、本を、小説を愛する気持ちだけはどうしても捨てられなかった。仕事で忙殺されて執筆の時間が取れないのはあまりにも苦痛だ。そんなのは、生きていても死んでいるのと同じことだ。生活はきっと苦しくなるが、溜めた金でなんとかしていこう。
*
何を書いても駄目だ。持ち込んだ原稿も酷評だ。少し、肩の力を抜いて初心に帰ろう。このところ書くことばかりに執着していたから、ゆっくりと本を読んで過ごす時間を取っていなかった。今の私にはきっと心の栄養が足りていないのだろう。
*
やはり読書は楽しい。様々な本と触れ合う時間が一番の至福の時だ。何度読み返したか分からない名作も、偶然手に取った無名作家の新作も、どれも心が躍る。書くことばかりに固執して本を愛する気持ちを忘れてしまうところだった。本質を見誤ってはいけない。
*
古書店で奇妙な洋書を見つけた。怪奇小説の部類に入るのだろうか? 言い回しからしてイギリスで出版されたものだろう。ずいぶんと難解で古めかしいが、読み応えがありそうだ。時間をかけてじっくりと読み込もう。
*
ああ、これだ、これだ! 私はこれを求めていた。私がずっと書きたかったのはまさしくこの世界だ。怪しくもどこか壮大で、混沌としていて、恍惚とするような世界……ああ、私の求めていたものがまさに、まさに、今……。
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(解読できない走り書きで何かが書かれている)
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本のことが忘れられない。
*
夢をみる。夢。夢を。夢を毎日、毎日。まいにち。暗い。なにも見えない。なにも。
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イギリスへ行くことにした。海外旅行は久しぶりだ。
急ではあるが、羽を伸ばしに行くのもいいだろう。
(ぐちゃぐちゃになったよく分からない絵のような文字のようなものが書かれている)
(しばらく空白のページが続く)
かかなければ。
(長い空白ページ)
実験が上手くいった。
どうやら、雛を仕込めばすぐに洗脳状態になるようだ。彼らの意識はすべてコントロール可能だ。その後に精神崩壊が進んでいき、一週間程度で雛が誕生する。
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少しずつ侵蝕のスピードが速まっている。いい調子だ。
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素晴らしい! 3日で雛が誕生した! かなり急速に育つようになったし、皆とても従順で、いい母体だ。
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どうやら死の直前になると教会を抜け出すようだ。帰巣本能でもあるのか? 所詮人間も動物だ。
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今日の生贄は随分と精神が弱っているようで、簡単に付け込めた。これならかなり早く雛が誕生しそうだ。
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彼は作家をしているらしい。なぜだろうか、胸がざわつく。私は何か忘れているような気がする。
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薬に対しての依存度や摂取量は他の連中よりずっと高いが、それにしては雛の成長が遅いような気がする。この薬はかなり急激に侵蝕が進むとあの男は言っていたし、これだけ多量に摂取していれば、3日と経たず雛が誕生してもおかしくないはずだが……。
雛に意識を蝕まれつつある傾向はあるし、魔術書や映像を見せれば簡単に発狂はした。しかし何故か精神崩壊はしない。はじめての事例なので、慎重に様子を見る必要がある。
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彼の持っている本から何か不思議な力を感じる。気になるので見せてくれと言ったら、大事なお守りだからと断られた。雛を仕込んでから私に逆らった人間ははじめてだ。それ以外はとても従順な男だが……。
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なんとか本を奪うことができた。間違いない、これには何かの力がある。呪文をかけてみたが、上手くいくだろうか。
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どうやら成功したようだ。これできっと私の悲願は……。
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手ごたえはあるのにまだ雛が誕生しない。奇妙だが、調整を施せば上手くいくだろう。
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どこかで雛が発生した? 私が手引きした者ではない。確かに気配はあるが、雛の力が弱いように感じる。念のためあの男に確認を取ってみたら、にやにやと笑うだけで何も教えてはくれなかった。一体何が起きている? 誰かが私の邪魔をしようとしているのか?
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鍵を持って逃げられた。どのみち洗脳が進めば戻ってくるだろう。終わり次第始末する。
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また、書斎にあった記録と両方見た探索者は<アイデア>もしくはPLの推測で、これまで入手した情報や自身の体調不良と合わせ「不明の人物」や「私が手引きした者ではない」が間違いなく自分達のことだと理解する。これらを記した人間の深い狂気と、自分や谷河が得体の知れない実験に巻き込まれていることに恐怖や不安を感じる。SANc0/1