一般社団法人信州上田里山文化推進協会 沿革
1. 設立前史:地域課題への問題意識と任意団体の発足(~2021年)
長野県上田市・別所温泉地域を中心とする信州上田エリアは、豊かな自然と歴史的な文化遺産に恵まれた里山地域である。しかし近年の少子高齢化や過疎化の進行、農林業の衰退に伴い、休耕地や耕作放棄地の増大、放置林・荒廃山林の増加、空き家の急増といった地域課題が深刻化した。
これらの地域課題に対し、単なる自然保護や文化財の保全にとどまらず、地域内外の人々が主体的に関わりながら、持続可能な地域社会と自律的な生活基盤を再生する仕組みづくりが必要であるとの認識が強まった。地元の有志や移住者、二地域居住者、大学教員を中心とする研究者らが結集し、里山文化の継承と地域資源の利活用を目的とした準備会活動や調査事業が開始された。
そこで任意団体として、地域づくり工房・杜の風舎が結成され、組織的な取り組みがおこなわれた。
この過程で、若者や女性、子育て世代などの新たなプレイヤーが主役となり、里山の暮らしの知恵や伝統技術を学び直しながら、持続可能な里山ソーシャルビジネスや新たな雇用を創出する取り組みの構想が固まっていった。
2. 一般社団法人の設立と組織基盤の構築(2022年)
任意団体としての実績とネットワークの広がりを踏まえ、社会的信用力の向上と持続的な事業展開を目指し、2022年(令和4年)に法人の設立に至った。主たる事務所を長野県上田市に置き、「一般社団法人信州上田里山文化推進協会」として正式に発足した。
設立時には定款および倫理規程、情報公開規程などを整備し、透明性の高い非営利型一般社団法人としての運営体制を構築。代表理事には長野大学講師・松田和彦が就任し、地元住民や専門家からなる理事・監事体制を発足させた。また、大学教員有志等によるアドバイザリーボードの協力や地元地域社会との連携体制を確立した。
設立当初の事業として、地域資源を活用した人づくり・地域づくりのための各種講座やワークショップ、環境整備事業を開始。特に、地域外からの移住希望者や交流人口の受け皿となる拠点の確保と、里山体験プログラムの企画開発に着手した。
3. 活動の本格展開と拠点の確立(2022年~2023年)
法人の活動は、交流拠点の創出と里山資源の活用という二つの軸を中心に急速に展開した。
「信州上田里山友の会」および里山体験メニューの展開 関係人口を創出・拡大するための仕組みとして「信州上田里山友の会」を立ち上げた。会員制度を通じて地域内外のファンを増やしつつ、以下のような体験プログラムを提供・定着させた。
里山林での薪割り・焚火・テントサウナ等の自然体験
別所温泉から野倉集落や森林公園を巡る里山ウォーキング・トレッキングツアー
地場木材(杉、ナラ、クルミ等)を活用した子ども向け木工体験
初夏の山菜採りや季節の植物を活用したアロマウォーター・ジャムづくり等の恵み体験
4. 休眠預金活用事業の採択と「里山木質資源」活用プロジェクト(2023年~2025年)
2023年度(令和5年度)、当法人の事業は大きな転換期を迎えた。一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)等の助成による「休眠預金活用事業(イノベーション企画支援事業)」に採択され、「里山資源を活用可能にする地域の小規模産業連携の構築を中心に多様な人々の参画でリジェネラティブな里山をつくる」プロジェクトを本格始動した。
本事業を通じて、以下の先進的な施策が強力に推進された。
地域木材の循環利用と小規模産業連携 地域の放置林から産出される木質資源を有効活用するため、地元の小規模製材所や職人・工務店・クリエイターと連携。伝統工法を活かしたログ小屋キット、自然素材のサウナ小屋キット、子ども向けの無添加木製品など、地場素材を活用したプロダクト開発やブランド構築に取り組んだ。
女性・若者の雇用創出と起業支援 林業・木材加工分野や里山体験事業において、女性や若者、特にシングルマザー等を重点対象とした「里山体験生」の受け入れを実施。農林業分野における女性の起業支援や、多様な働き方のモデル構築を推進した。
リジェネラティブな地域づくりの推進 自然と調和したアグロフォレストリー(森を創る農業)の考え方を取り入れ、耕作放棄地や山林の再生、森林環境教育の場としてのフィールド整備を一体的に推進した。
2025年(令和7年)には、都市部住民と里山を結びつける新たな仕組みとして「里山保存会員制度」やクラウドファンディングなどの外部資金獲得手法を導入。都市にいながら信州上田の里山に関与・支援できる「自分の里山」提供モデルの構築を図った。
交流・宿泊拠点「つむぐ家」の運用と地域拠点の活用 上田市別所温泉内の歴史的な建物(旧倉澤邸)を改修し、地域住民、移住者、来訪者が集い・学び・宿泊できる拠点「つむぐ家(tsumugu dom)」を開設。別所温泉街や近隣の野倉集落(野倉公民館等)をフィールドとして活用し、地域文化の伝承や里山体験事業を実施した。
5. 現在と未来に向けた展望(2026年~)
2026年(令和8年)現在、当法人は設立から5年目を迎え、別所温泉・野倉地区を中心とする上田市の里山再生モデルをより定着・発展させるフェーズに入っている。
同年6月に開催された理事会・総会では、これまでの事業実績を評価するとともに、ガバナンス強化の一環として倫理規程および情報公開規程の運用を強化。社会的責任を果たしながら、自律的かつ公正な運営体制を一層盤石なものとした。
当法人は今後も、「集い学ぶ拠点づくり」「文化の伝承」「ネットワーク形成」「環境整備」の4つの柱を掲げ、都市と里山を循環する新しいライフスタイルと持続可能な社会の実現を目指して活動を続けていく。
年表まとめ
2021年以前:上田市別所温泉地域を中心とする有志・研究者・移住者により、里山保全および地域再生のための各種準備活動を実施。
2022年:一般社団法人信州上田里山文化推進協会を設立(主たる事務所:長野県上田市)。各種規定の整備、代表理事・役員の選任。
2022年~2023年:拠点施設「つむぐ家」の開設と運用開始。「信州上田里山友の会」の立ち上げ、各種里山体験プログラム(ウォーキング、木工、薪割り等)の整備。
2023年:2023年度休眠預金活用事業に採択。「里山木質資源の活用と小規模産業連携」プロジェクトをスタート。製材・建築・製品開発の連携、女性や若者の定住・起業支援を本格化。
2025年:「里山保存会員制度」の立ち上げ、アグロフォレストリーに基づく里山再生・都市連携プログラムの推進。
2026年:倫理規程・情報公開規程の厳格な運用、役員体制の継続および自律的経営モデルの定着。