◆チャールズ・アイヴズ
「答えのない問い」
アイヴズは、1874年にアメリカのコネチカット州で生まれた作曲家です。その経歴は後にも先にもないようなもので、イェール大学で作曲の専門教育を受けたものの、「不協和音のために飢えるのはごめんだ」という有名な言葉を放ち、何と保険会社を設立。大成功を収めます。そんな彼が作曲する時間は週末のみしかなく、「日曜日に作曲する作曲家」と、当時のアメリカの音楽界ではほとんど注目を浴びることはありませんでした。でもそのおかげで、演奏上の難しさや、可能不可能など気にすることなく、当時の常識では考えられなかった新しい作曲技法を自由に生み出していくことが出来たのです。
1906年に作曲された「答えのない問い」も、そのアイデアは斬新です。曲の最初は舞台裏の弦楽アンサンブルの美しいコラール風の音楽「ドルイドたちの静寂(または沈黙)―何も知らず、何も見ず、何も聴かない」から始まり、全く関連性を持たないトランペットによるシグナルが、「存在の絶え間ない質問」をステージ上の4本のフルート・アンサンブルに問いかけます。
答えを求められたフルートは、最初は静かに、そして、どんどんといらだつようにテンポを上げながら無調性の不協和音を多用しつつ、「見えない答え」「問いに対する戦い」「秘密の協議」と様々に変化し、最後は問いに対する嘲りとなります。そしてトランペットが7回目の問いを繰り返したときには、無駄なことに気づいたフルートは何も答えず、舞台裏から流れる弦楽アンサンブルの「ドロイドの静寂」が静かに消えて行きます。
この作品の原題は、「生真面目なことについての熟考」「答えられることなく永続する質問」です。古代ケルトの宗教の祭司ドルイドたちが信じた、霊魂不滅、輪廻、祖先崇拝、樹木崇拝というような神秘性も感じさせながら、有史以来、人類が考えづけている究極の命題、人間の存在に対する問いすらも実はわからないことを思い知らされるのです。
(文責:篠崎靖男)