研究テーマ2

小惑星の形成進化と

天体衝突史解明

天体画像出典: NASA

太陽系の惑星形成と小惑星

約46億年前、地球をはじめとする太陽系の惑星は、太陽を回るガスと塵の円盤(原始惑星系円盤)から誕生しました。微小な天体が衝突による破砕と集積を繰り返し、微惑星(~10kmほど)、原始惑星(数100kmサイズ)と成長して、原始惑星の巨大衝突を経て地球などが形成したとされています。

このような惑星形成の記録は、地球からは既に失われているため、その詳細を地球上で直接調べることができません。しかし、微惑星や原始惑星の "生き残り" ならば、46億年前の惑星形成プロセスを記憶しているはずです。火星と木星の間の小惑星帯には、太古の小天体の残骸が数多く保存されています。小惑星起源の岩石(隕石)を調べることで、太陽系の初期の出来事が分かります。

太古の岩石小惑星ベスタと、ベスタを起源とする隕石

ベスタは19世紀に発見された大型の小惑星です。小惑星帯では2番目に質量が大きく(最大は準惑星ケレス)、他の大型天体とは異なり、主に岩石から構成されています。また、ベスタの内部は "地殻・マントル・コア" という地球同様の層構造を持つことが知られています。ただし、ベスタは地球に比べると非常に小さいため(地球質量の約20万分の1)、内部も既に冷え切っていて、マグマは存在しません。

ベスタの地殻は、46~45億年前のマグマ活動で作られた最古の火成岩です。この地殻岩石の一部は “隕石” として地球へ飛来していることが知られています(ベスタ隕石. 正式名は: Howardite, Eucrite, Diogenite)。ベスタ隕石は、現在までに2,000個以上見つかってきました。これらの隕石には、45億年前〜最近までの小惑星帯の出来事が記されています。小惑星帯と地球型惑星(地球や火星など)の形成領域の進化過程は密接に関係しているため、ベスタ隕石を調べれば、初期の地球などの形成進化史まで遡ることができると期待されます。

ベスタ隕石の年代測定から分かること

隕石の中には、ウラン-238 (238U; 半減期45億年) やカリウム-40 (40K; 半減期13億年) といった放射性元素がごく微量に含まれています。特定の放射性元素の壊変系を “時計” として利用することで、隕石のもとの天体(母天体)が経験した集積・衝突・溶融イベントなどのタイミングを知ることができます。こういった手法を放射年代測定と呼びます。

私の研究グループでは、二次イオン質量分析計を利用した高空間解像度放射年代測定によって、様々なベスタ隕石が記録した形成年代と変成年代を調べています。多数の隕石の年代情報から、かつてベスタが被った天体衝突の歴史を復元することを目指しています。

最近の研究成果 – 40億年以前の天体衝突史を解明

  • 月の後期重爆撃 (LHB) 仮説

1970年代、アポロ計画により回収された月の石の多くが、38億〜40億年前の天体衝突を記録していることが判明しました (Tera et al., 1974)。この時代(約39億年前)に、月面クレーターが集中的に作られたとされ、月にとどまらず、地球や他の惑星もが激しい隕石重爆撃に見舞われたと考えられました。この出来事は、惑星形成(45億年前)よりも後の時代の隕石重爆撃という意味で “後期重爆撃” (Late Heavy Bombardment; LHB) と呼ばれてています。しかし近年では、LHB仮説が本当に正しいのか疑問視されてつつあります (Mann, 2018)

  • 小惑星における衝突の記録を復元

ベスタなどの小惑星には、月よりもさらに古い時代の衝突の痕跡が残されています。私たちの研究から、ベスタ隕石が 44億年〜41.5億年前という非常に古い時代に複数回の天体衝突を経験していたことが分かりました。一方で、いわゆる "後期重爆撃" に相当する39億年頃の衝突の痕跡はベスタ隕石からは見つからず、LHB仮説が小惑星帯においては成立していないことが明らかになりました(Koike et al., 2020, Earth Planet. Sci. Lett)。

この結果は、惑星形成と天体衝突の歴史を見直す必要性があることを示唆しています。私たちは現在、より様々な小惑星を調べることで太陽系全体の歴史解明に繋がると考えて、研究を進めています。

【主な研究成果】

  • Koike, M. et al. (2020b) Evidence for early asteroidal collisions prior to 4.15 Ga from basaltic eucrite phosphate U-Pb chronology, Earth and Planetary Science Letters, 549, 116497.

  • Sumiya, Y., Koike, M. et al., Uranium-lead dating of zircon and phosphate minerals in a highly-shocked eucrite Northwest Africa 13166, Lunar & Planetary Science Conference (2022年3月)

研究紹介ポスター (2022年9月)