令和6年12月8日 四国4県分科会発表資料
杖や歩行器をいやがる94歳
ふらつきが酷くなってきており、転ぶことが増えてきて家族(長女)から相談がありました。
本人は「そんな年寄みたいなもんいらん!」と話し、
家族は「94歳は年寄りやろ!何歳になったら持つんよ!」と怒っています。
ということで本人に聴き取りをしました。
【聴き取りの要点】
・杖や歩行器は嫌。人に見られたくない。竹の棒で充分。
・年寄りとは年齢ではなく「よぼよぼした年寄り」のこと。
・「人の世話になるような人間になったら終わりだ」と話している。
※ 介護を受ける人に対し差別意識あり。
【会話から得られたヒント】
・好きな色は青。嫌いな色は赤や黄色、白など。黒は嫌ではない。
・自分で出かけられないのは嫌だ。転んででも行きたい。
・かっこ悪い姿で出かけるくらいなら手ぶらで行く。
【本人と交渉】
・「介護を受ける人」「年寄り」に対する差別意識は否定しない。
※ 肯定もせず「あなたがそう思っていることは理解しました」という態度。
質問①
手ぶらで行って転ぶと多分人が集まってくるが、恥ずかしくない?
→ それは死ぬほど恥ずかしい。
質問②
転んで人が集まるのと、杖や歩行器を持つのを比べるとどっちが恥ずかしい?
→ 転んで野次馬に見られる方が100倍恥ずかしい。
質問③
(カタログで歩行器見せる)この中で一番嫌いなのはどれ?
→ 「この黄色とピンクのやつ、花柄だし」
質問④
青い歩行器、黒い歩行器もある。この中でならどれがマシ?
→ 青いの、悪くないな。
質問⑤
娘さんが歩行器使ってと言ってる。多分今のままだと納得しないし、一度お試しするのはどうか?
お試しはおよそ1週間、お金はかからないので
→ まあ、それくらいなら。合わなかったら返すぞ?
合わなかったら返していいです。使えないものを使えとは娘さんだって言わないでしょ
【結果】
歩行器が気に入って、歩いて買い物に行っている。
モニタリング時「新型ができたら教えてくれ」と話す。
「風呂になんか入ってないし、入らん!」
という91歳女性と、
「ちゃんと入りなさい。ヘルパーさんに頼んで!」
と怒っている家族(長女)
【聴き取りの要点】
・「風呂に入っていない」は、よくよく聴くと「湯船に浸かっていない」ということだった。
・シャワーを浴びている頻度は週に2~3回。冬場は2回くらい。
【会話から得られたヒント】
・冬場にシャワーの回数が週2回に減る理由は、寒いのもあるが、肌の乾燥が酷いから。
・感想が特に酷いのは脛、手足の甲、背中。かゆみもあるが、掻くと皮膚がぽろぽろ落ちて床に積もる。
・床の掃除は大変。掃除機が重たくて使えない。箒はなんとか使えるけど、チリトリは無理。
しゃがんだり、かがんだりできない。ごみを捨てるのもきつい。
・ヘルパーさんを頼めば手伝ってくれるのはわかるけど、気の毒で頼めない。
【本人と交渉】
質問①
寒さと乾燥、かゆみがなかったら、本当はどれくらい入浴したい?
→ 週3回か、夏なら毎日入りたい。
質問②
床の掃除やごみ捨ては手伝える。箒で床に集めたごみをヘルパーさんが取って捨てるとか、分担もできるけどどうか?
→ 限定的な感じでもできるとは思っていなかった。
質問③
シャワー浴びた後、保湿できてる?背中には塗りにくくない?
→ そうなの。実は困ってる。背中はもう諦めてる。
質問④
入浴は自分でやって、背中だけ保湿剤塗ってもらう?
→ それいいね!近くにいるだけとか、そんな頼み方でもいいの?
大丈夫。入浴をする間、ヘルパーさんがお風呂場に注意を向けながらごみを片付けできると良いかも。自分でするなら、箒でごみを脱衣所の前あたりに集めておいたらどうか?
→ それで決まり!早速来てほしい。
【結果】
訪問介護員と打ち解け、入浴の見守り、浴後の保湿(身体介護)、床の掃除(生活援助)をできるようになった。
その後、本人から希望があり、浴室の掃除(生活援助)と湯船を跨ぐ介助(身体介護)もできるようにケアプランを変更した。
デイサービスで親しい人(他の利用者)にお菓子などをあげてしまう。
デイサービスの規約違反なので注意されたが、本人は納得していない。
【聴き取りの要点】
・親しい人に善意で物をあげるのに、なぜ怒られるのか!
・あの人には本当に助けられたんや。あの人が居るから私はデイに行って、今も元気にいられる。
・感謝の気持ちを踏みにじるのは人としておかしい。
【会話から得られたヒント】
・デイサービスの規約で、食品など、物品を持っていき、やり取りすることが禁止されていることは知っている。
・なので隠れて手渡している。
【本人と交渉】
質問①
なぜ禁止されているかわかる?
→ わからない。迷惑かけてない。
いろいろあるけど、例えばおかしをあげたとして、糖分の制限や、アレルギーなど、食べるのを控えている人もいる。
→ あの人は大丈夫。そういう人にはあげてない。
自分の病気のことを人に言わない人もいるし、傷つけないように断れない人もいる。それに、周りの人が欲しがったりするとややこしくなる。
→ わからなくはないけど悲しい
質問②
デイサービスが関係ないとしたら、感謝の気持ちを伝えるのに他の方法はある?
→ 一緒にご飯を食べに行きたい。好きなお店がある。できないから物を渡した。
質問③
デイに行ってる曜日は一緒なので、休みも同じ。お休みの時にランチに行けばいいのでは?
→ いいの?
相手がOKならいいでしょ。デイの日以外の行動はデイの規約に関係ない。
→ 誘ってみたい!
相手が嫌がってないか、気を使ってないかだけは気にしてあげて
→ もちろん!
【結果】
デイにお菓子をもっていくことはなくなった。
タクシーに乗って、たまにランチにでかけるようになった。
ついでに、帰り道で一緒に買い物をする。
買い物の度にかかるタクシー代を折半できるようになった。
浮いたお金でランチの回数が微増した。