協同繁殖って?

ハダカデバネズミは協同繁殖を行うことで知られます。

協同繁殖とは、親以外の個体が子の世話に参加する繁殖システムのことを指します。

我々ヒトも、年上の子が年下の子の世話をしたり、祖父母が子どもの世話をしたり、様々な形で両親以外による子育てが起きるため、協同繁殖を行う動物に含まれます。

では、もっと具体的に、協同繁殖とはどのようなものなのでしょうか?

さらに言えば、なぜ協同繁殖という性質が生まれたのでしょうか?


これらの疑問に対する記述をしたので以下に残しておきます。↓ (2023/10/30)


親以外の個体が子の世話に参加する繁殖システムを協同繁殖(cooperative breeding)と呼ぶ。協同繁殖を示す種では多くの場合、群れの中で優位のペアが独占的に繁殖する。劣位個体が自ら繁殖することは稀であり、優位ペアの子育てを手伝うヘルパーとなる。本項では、協同繁殖の様式と進化に関して、哺乳類や鳥類を対象とした研究を紹介しながら概説する。


協同繁殖の様式

 ヘルパーを伴う協同繁殖は様々な分類群で生じているが、その様態は多様性に富んでいる。特に、ヘルパーへの依存度、ヘルピングの方向性や強度、繁殖の独占性の度合いなど、多次元的かつ連続的な尺度で協同繁殖を捉えることができる。

 繁殖成功がヘルパーの存在や数にどの程度依存するかは協同繁殖種の間でも大きく異なり、ヘルパーがいなければ繁殖がほとんど成功しない種(obligate cooperative breeder)、ヘルパーを必ずしも必要としない種(facultative cooperative breeder)が存在する。例えば、ミーアキャット(Suricata suricatta)はヘルパーがいなければ子育てに成功しないが、ダマラランドデバネズミ(Fukomys damarensis)はヘルパーの助けを借りずとも子育てすることができる(Thorley et al. 2023)。

 ヘルパーが直接的にコドモの利益になる行動をするか、繁殖個体や群れ全体にとって利益となる行動をするか、また、それらの行動をどの程度行うか。これらの点も種によって様々である。例えば、ミーアキャットなど社会性マングースの仲間では、ヘルパーは縄張り防衛や捕食者への見張り、巣穴掘りなど群れ全体に寄与するヘルピングだけでなく、授乳・餌やりや保護などコドモに対し直接的に寄与するヘルピングを示す。一方で、ハダカデバネズミ(Heterocephalus glaber)など社会性デバネズミの仲間では、ヘルパーが防衛や協力的な巣穴の維持・拡張行動、採餌行動を行い群れ全体に貢献するが、コドモに対する直接的な世話行動は比較的少ない。具体的には、ヘルパーはコドモに対してグルーミングをしたりネストに運搬するくらいで、直接餌をあげたり守ったりする行動は通常見られない。このように子の世話への参加が曖昧な種でも、グループ全体への貢献によって優位個体の繁殖成功を上昇させる効果を与えることが示されている(Houslay et al. 2020)。

 優位メスは群れの中で独占的に繁殖を行うが、独占の程度も種によって大きく異なる。例えば、ミーアキャットの劣位メスは群れにいながら群れ外のオスと交尾して妊娠する場合がしばしば見られる。つまり、優位メスは群れ内の劣位メスの生殖能力を抑制することはできないし、交配機会を完全に制御することもできない。しかし、劣位メスが妊娠した場合、優位メスからの攻撃や群れからの追放を受けて流産する(Young et al. 2006)か、出産しても妊娠した優位メスによる子殺しが起こり(Clutton-Brock et al. 2001)、結果として生き延びるコドモのほとんどは優位個体の子となる。また、妊娠優位メスによる子殺しだけでなく妊娠劣位メスによる子殺しも起こることが報告されており(Young & Clutton-Brock 2006)、優位メスだけでなく劣位メスも他のメスの繁殖成功に影響を与える。ハダカデバネズミでは、出生群から分散する間際の個体を除き、劣位個体は生殖能力そのものが抑制されており、その生理的抑制は優位メスとの物理的な接触が重要であることが示唆されている(Smith et al. 1997)。結果として、ハダカデバネズミではほぼ完全な繁殖独占が起こっている。

 

協同繁殖の進化の道筋

 では、協同繁殖というシステムが進化した究極的な要因は何なのだろうか?なぜ劣位個体は自らの繁殖を犠牲にしてまで優位個体の繁殖を手伝うのだろうか?協同繁殖の進化的要因・生態学的要因についていくつかの観点から概説していく。


血縁選択理論

 古くから提唱されている理論として血縁選択(kin selection)理論が挙げられる。ヘルピングによって血縁である優位個体の繁殖成功を高めることで、ヘルパーは間接的に自身の適応度を高めることができる。血縁選択理論によると、間接適応度の利益がヘルピングに伴うコストを上回る場合に協同繁殖が進化することができる。実際、様々な分類群での系統種間比較による研究で、ヘルピングの進化の背景には群れ内メンバー間の高い血縁度があることが示されている。例えば、哺乳類では協同繁殖の進化が社会的一夫一妻制の種に限定していること(Lukas & Clutton-Brock 2012a)、鳥類では協同繁殖と関連する要因として、メスが複数のオスと交尾する率の低さが報告されている(Cornwallis et al. 2010)。また、アリやハチなどの膜翅目昆虫で独立に進化した8つの真社会性系統の全てにおいて、女王の単一オスとの交尾が祖先的な形質であることが報告されている(Hudhes et al. 2008)。さらに近年、協同繁殖を示す鳥類36種の比較解析で、ヘルパーと繁殖個体の血縁度が高いほどヘルパーの貢献度が高まるという報告もあり(Green et al. 2016)、血縁選択が協同繁殖の進化に重要な役割を果たしていることは間違いない。


集団増強仮説

 血縁選択が協同繁殖の進化をある程度説明できるが、非血縁ヘルパーの存在(Cockburn 1998)やヘルピング頻度の個体差(Clutton-Brock et al. 2000)など、血縁選択だけでは説明できない事例が数多く発見されてきた。これらの現象を説明する仮説として、集団増強(group augmentation)仮説が提唱されている。ヘルピングによってコドモの生存率が上がり、その結果、群れサイズは増大する。群れサイズの増大によって、ヘルパーは自身の採餌効率の向上捕食リスクの低減という利益を得て、自身の生存と将来的な繁殖成功を高めることができる。このような直接適応度の利益がヘルピングに伴うコストを上回る場合に協同繁殖が進化する、という考えが集団増強仮説である。例えば、コビトマングース(Helogale parvula)やミーアキャットでは、群れサイズが大きいと、見張りや外敵を撃退する能力が群れとして向上することでヘルパーの生存率が上がることが報告されている(Rood 1990; Clutton-Brock et al. 1999)。


生態学的制約

 血縁選択の説明力が高いとはいえ、社会的一夫一妻制の交配システムを示す種全てで協同繁殖が進化するわけではないため、協同繁殖の進化を制約する要因の存在が考えられる。協同繁殖は多産性の繁殖様式との関連が示されている。例えば哺乳類において、協同繁殖への移行は1回の出産で複数の子を産む系統に限られる(Lukas & Clutton-Brock 2012b)。さらに、協同繁殖は生息環境の予測不可能性にも関連している。例えば鳥類では、生息環境での気温や降雨量の時間的変動の大きさが協同繁殖の進化に関与している(Jetz & Rubenstein 2011; Griesser et al. 2017)。哺乳類でも、年間降雨量と協同繁殖の関連が示されている(Lukas & Clutton-Brock 2017)。以上のような環境要因と多産性には明確に関連があり、生息環境が厳しいほど一度の産仔数が多くなる。また、協同繁殖種では、成熟した劣位個体が分散を遅延してヘルパーとして出生コロニーに留まる傾向が強い。これも、単独生活のリスクの高さや資源利用の可能性の低さなど、予測可能性や捕食リスクに基づく生態学的な制約に起因すると考えられている(Groenewoud et al. 2016; Nelson-Flower et al. 2018)。以上から、社会的一夫一妻制の背景のもと、予測不可能な環境や捕食リスクの高い環境などの生態学的制約の存在が、協同繁殖の進化を促進する条件かもしれない。生態学的要因と協同繁殖の進化に関する数理モデル解析によって、環境の厳しさに関わらず血縁選択が協同繁殖の進化に関与する一方で、厳しい環境下では集団増強のみでも協同繁殖進化に十分であることが示唆されている(García-Ruiz et al. 2022)。