Research

ハダカデバネズミの集団維持機構の解明を目的に研究しています。

現在は社会性に関する行動解析を主軸に研究を進めています。

アリやハチなどの真社会性昆虫ではワーカーたちが明確に分業することが有名です。この場合、「タスクAをよく行うワーカーはタスクBをあまり行わず、タスクBをよく行うワーカーはタスクAをあまり行わない」というような状況が多く見られます。これをタスク特殊化(task specialization)と呼びます。このタスク特殊化によってアリやハチは効率的な集団に運営しています。脊椎動物でも、自身が繁殖をせずに群れの子どもや群れ全体のためにタスクに従事するヘルパーと呼ばれる個体が存在する社会を作る種があります。哺乳類や鳥類でこのような社会を構築する種では、「タスクAをよく行うヘルパーはタスクBもよく行い、タスクAをあまり行わないヘルパーはタスクBもあまり行わない」場合が多く見かけられます。これをヘルピング・シンドローム(helping syndrome)と呼びます。

ハダカデバネズミでは、群れ防衛タスクと日常的な巣穴維持タスクとでタスク特殊化が起きていることが示唆されています。一方で、巣穴維持タスク各種(穴掘り・巣作り・餌運び)の間でhelping syndromeが起こっていることが示唆されてきました。しかし、我々の研究グループは、これまでの観察経験から、巣穴維持タスクでもヘルピング・シンドロームは起こっておらずハダカデバネズミ社会におけるワーカーの分業はもっと複雑なものであることを予測しました。各ワーカーがどのタスクにどの程度従事するかを調べたところ、ヘルピング・シンドロームの傾向が見られたタスクの組合せはあったものの、多くの場合ヘルピング・シンドロームが起きているともタスク特殊化が起きているとも言えない結果となりました。このことから、ハダカデバネズミは真社会性昆虫ほど明確な分業は見せないものの、似た社会を作る哺乳類や鳥類とは一線を画す複雑な社会システムを持っていることが明らかになりました。