私たちの体は様々な形をした骨に支えられている。骨組織は血管、神経、筋肉など他の組織と深い関わりがあり、骨の形の決定には様々な分子メカニズムが存在すると考えられる。
骨の形成は骨芽細胞(OB)が、吸収は破骨細胞(OC)が行います(図)。破骨前駆細胞(Pre-OC)は血管(Blood vessel)から骨表面に移動し、骨芽細胞と相互作用(Cell-cell interaction)して破骨細胞に分化すると考えられています。破骨前駆細胞には受容体であるc-FmsとRANKを発現しており、分化するにはそれぞれM-CSFとRANKLの結合が必要となります。また、OPGはRANKLに結合することで破骨細胞の分化を抑制します。骨芽細胞と破骨細胞それぞれ1つ1つの細胞が存在する位置には意味があり、骨の形を制御していると考えられますが、生体内でどのようにして細胞同士がコミュニケーションしているのか、その詳しいメカニズムはわかっていません。
破骨細胞は骨を溶かしますが、必要でない骨を溶かし、必要な骨は溶かさない、という性質を持っています。しかし、それをどうやって決めているのかはまだ分かっていません。図はメダカにある細工をして背骨を側面から生きたまま観察したものです。骨は赤色に染め、破骨細胞は遺伝子改変技術を用いて緑色に光っています。破骨細胞はTRAPという酵素を強く発現するため、その遺伝子のプロモーターを用いて緑色蛍光タンパク質の一つであるEGFPを発現させています。このようにメダカを用いると破骨細胞が局在する場所と局在しない場所を簡単に見分けることができます。このような系を使って、破骨細胞の位置決定メカニズムを明らかにしようと考えています。骨粗鬆症等の骨疾患の改善に役立てることが期待されます。
地球上の生物は重力の支配下で進化してきました。科学の発展によって人間が宇宙に行くようになると、宇宙滞在時に骨の密度が低下することがわかり、生命体における重力の必要性が指摘されています。私たちは骨研究のモデル動物としてのメダカと、国際宇宙ステーションという微小重力環境を利用することで、生命における重力の役割を解析しました。重力と骨代謝の関係を調べるために、重力がない環境で2ヶ月間のメダカ飼育実験を試みました(代表:東京工業大学 工藤 明教授)。図は国際宇宙ステーション内の“きぼう”で飼育したメダカの様子です。赤矢印が指す魚はお腹を上にしており、まさに宇宙飛行士のように上下を自由に感じて泳いでいます。宇宙飛行士は英語でastronautですが、スミソニアン・マガジンではfishonautと紹介されました。私達は宇宙で育ったメダカの骨を詳細に解析し、骨密度低下の原因の一つが破骨細胞の活性化であることを示しました。
重力が存在する地上環境から微小重力環境に移動した際に骨の細胞にどのような変化が生じるのかを調べるために、宇宙で飼育するメダカの赤ちゃんを地上からリアルタイムで8日間観察しました(代表:東京工業大学 工藤 明教授)。地上から国際宇宙ステーション内の顕微鏡を遠隔操作するという世界初の試みとなりました(図)。実験の結果として骨の細胞の遺伝子発現が著しく上昇することを見出しています。
今後は宇宙実験で得られた遺伝子発現変化データを元に、メカニズム解明に向けて研究を進めていく予定です。
人間は薬を飲んだ後、体の中の細胞、たとえば骨芽細胞や破骨細胞がどのような状態に変化したかを調べることは容易ではありません。しかし、メダカの赤ちゃんは体が透明なので、骨や血管を生きたまま観察することができます。そのため、骨の薬をメダカに与えて細胞の変化を経時的に観察することで、その薬の効用をリアルタイムで追跡することができます。