#251 敬語で指標する
池田(2009)の「広告にみる日本の言語世界」では、多種多様な広告を例に、その言語的な特徴が鋭く分析されています。この中では、広告や警告、命令、さらには地図といったサインまでもが「ナラティブ(語り)」として捉えられており、その延長線上で「ジャンル」という概念にまで考察が広げられています。
ある表現が特定の「ジャンル」として認定できるということは、私たち読み手がそのテクストを見た瞬間に、無意識のうちに特定のジャンルを期待し、それに沿った解釈を行うということを意味しています。
特に興味深い点として挙げられているのが、日本語のサインにおける「人称」の扱いです。日本語のサインには、書き手や読み手を指す代名詞(「私」や「あなた」など)が一切登場しないにもかかわらず、誰が第一人称であり、誰に向けられた言葉であるかが極めて明快に示唆されています。
ここには、人称代名詞の代わりに「敬語」が「社会的ダイクシス(指標性)」として機能しているという日本語特有の性質が深く関わっています。つまり、日本語では敬語が「ウチ」と「ソト」の関係を指し示す役割を担っているのです。
その具体的な例として、建設現場のサインを挙げてみます。「まことにすみません 工事中ご迷惑をおかけいたします 安全には充分気をつけて作業いたします しばらくの間ご容赦ください」という一文を見てみましょう。
この短い文章の中では、ソトの人(通行人など)が被る事柄に対して、「ご迷惑」や「ご容赦」といった「ご」を伴う尊敬語が使われています。一方で、自分たち(建設側)の行動については「いたします」という謙譲語が用いられています。このように尊敬語と謙譲語を使い分けることで、建設者側を「ウチ」、見る者を「ソト」として明確に区分することに成功しています。
そして、このサインを見る側も、自分が書き手にとってどのような社会的立場にあるのかを、言語表現を通じて瞬時に、かつ正確に認識することができているのです。
p.s. 4月20日(月)放送の「YOUは何しに日本へ?」(餅が大好きなファッションデザイナーの回)に、少し映るかもしれません。実は先日、杉野服飾大学で行われたファッションショーにて、イタリアから招待された学生さんの通訳をしていました。通訳という大役のプレッシャーに加え、目の前にはテレビカメラ……。焦りまくっている姿が映っている気がしてなりませんが(笑)、なかなかできない貴重な経験でした。もし全く映っていなかったらそれはそれで笑い話ですが、私自身も放送を楽しみにしています。お時間があれば、ぜひご覧ください!
その時の様子は以下の記事で書いています。
#75 通訳の大変さ
#76 トーカティブな私たち
参考
池田佳子 (2009). 広告にみる日本の言語世界. 『論集:異文化としての日本』, 73–82.
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[敬語] [ダイクシス] [広告] [ナラティブ][ジャンル] [指標性]