#76 トーカティブな私たち
昨日からイタリアの大学に通う学生の通訳をしていますが、彼女は特にコミュニケーションの取り方の違いに驚いている様子でした。
今日は日本全国から学生が集まっていたのですが、まず、出番を待つ控室で誰も会話をしていないことにびっくりしていました。「なんでこんなに静かなの!イタリアだったらすぐに話し始めるのに」と不思議そうに、でもその違いを感じて楽しそうに話していました。
その後、中国からの留学生と一緒にディナーをとった際も、中国の学生がとても静かだったことにまた驚いていました。
以前、YouTubeで英語とイタリア語のターンテイキング(会話の順番の交替)の違いを紹介する動画を見たことがあります(今度探し出してリンクを貼ります…)。そこでは、英語ではアイコンタクトや話し手のトーンの変化などで、次の話し手に重ならずに交代するのに対し、イタリア語では割って入ることで発言権を得る場面が紹介されていました。文化によっては失礼になりかねない行為が、むしろ自然で積極的な会話の一部として捉えられていることに驚きました。慣れていない人は話に入るタイミングをつかめず、一向に発言できないというのも印象的でした。
その話を通訳していたイタリアの学生とも話してみると、「たしかにそういう面はある」と言っていました。「話すのが好きだし、思いついたことはすぐ言わないと忘れてしまう」とも付け加えていました。
少し調べてみると、Di Napoli(2017)の研究では、これまで指摘されてきた「イタリア語は重複発話が多い」という見方(Agliati et al. 2005)に対して、実際のローマ方言のイタリア語による対話データ(音声のみ)を分析した結果、他の言語(スウェーデン語・オランダ語・スコットランド英語)に比べて、話者交替時の重複はむしろ少なかったと報告されています。つまり、「イタリア語=話が重なりやすい」というステレオタイプは必ずしも実証されなかったのです。
会話分析の分野では、重複する発話は避けられる傾向があり、話者交替の際には「間(gap)」や「重なり(overlap)」を最小限にして、no-gap-no-overlap(隙間も重なりもない状態)を目指す傾向があるとされています(Sacks et al., 1974; Schegloff, 2000)。Di Napoli(2017)によると、ローマ方言のイタリア語では、他言語と比べて沈黙が多く、重複の割合が最も少ないことが分かったそうです。
Napoliの研究が音声のみの対話を対象としていたことは結果にかなり影響していそうなので一般化するのは注意が必要だと思います。実際、私が見たYouTubeの動画は友人同士の多人数会話だったので、人数や関係性によっても違いが出る可能性があります。それでも、ターンテイキングの取り方は言語文化によって異なるということを柔軟に理解しておく必要があると感じた一日でした。
私も彼女もおしゃべりだったので、今日は重複しまくりでした。
参考
Agliati, A., Vescovo, A., & Anolli, L. (2005). Conversation patterns in Icelandic and Italian people: Similarities and differences in rhythm and accommodation. In L. Anolli, S. Duncan Jr., M. S. Magnusson, & G. Riva (Eds.), The hidden structure of interaction: From neurons to culture patterns (pp. 223–235). Amsterdam: IOS Press.
Di Napoli, J. (2017). Overlapping speech and turn-taking in Roman Italian. Proceedings of the Conference on Phonetics & Phonology in German-speaking countries, 37–40.
Sacks, H., Schegloff, E. A., & Jefferson, G. (1974). A simplest systematics for the organization of turn-taking for conversation. Language, 50(4), 696–735.
Schegloff, E. A. (2000). Overlapping talk and the organization of turn-taking for conversation. Language in Society, 29, 1–63.
keywords
[ターン交替]