当団体の沿革
アジア社会共通の課題である「がん」を、学際的・国際的に研究・実践を行ってきた。
「アジアがんフォーラム(以下、ACF)」は、2004年のアジアハイテクネットワーク会議(三宅淳 産総研)との連携によるアジアがん情報ネットワークとして発足した。
2007年の安倍・温家宝会談による日中医学構想への政策提言、中国・南京でのアジア癌情報ネットワーク会議(UICCアジア支局(UICC-ARO)主催)開催に準備段階から参画。2008年からアジアがんフォーラムと名称を変えて、国内外の有識者によるラウンドミーティングを重ねてきた。
アジアとの連携のなか、医療格差の大きい地域との連携においては、歴史的文化的背景を学際的につないでいく学術的基盤が必要である。赤座英之先生が2011年 に 提 唱 し た 概 念 「 Cancer is Mirror 」 を 継 承 し 、 「 Cross-boundary Cancer Studies」による学び合いを推進。医療のみならず、政治、経済、外交、文化などさまざまな課題と密接に関わるがんに国際的・学際的に研究してきた。
2021年 に 、 Society 5.0時 代 に 智 慧 と 資 金 が ま わ り 人 が 育 つ 「 UHCProvision ecosystem」構築を構想。実践として、マレーシアでのがん疾患啓発活動「BEAUTY & Health」、 岐阜県高山市での「がん医療地域ネットワーク構築事業」を学術的基盤を基に、推進している。
併せて、東京大学横断型講義「アジアでがんを生き延びる」を、赤座・河原は、2011年から実施。東京大学 先端 科 学 技 術 研 究 セ ン ター ( 2010-2014年度)、東京大学情報学環( 2015-2020 年 度 ) で 実 施 。2021年度から東京大学東洋文化研究所に所属し、講義を継続。がん医療を通じた地域の持続可能性の概念を、東京大学の学際講義に提供してきた。書籍化も行ってきた。
地域の持続可能性の概念を提供を行ってきた、東京大学横断型講義は書籍化もされている。
発表・受賞
国内外の学会でアジアがんUHCについて発表してきた。マレーシアでの共同プロジェクトが、アジアで受賞。
主な学会発表
Kawahara N
「ワールドキャンサーデーとがん医療のGAP」第61回日本癌治療学会学術集会パシフィコ横浜,2023年10月21日
Kawahara N
「Challenges and Prospects for Cross-boundary Cancer Studies as Asian Studies」Exploring Asian Connectivity: Topics, Methods, and Implications,1st Global Asian Studies Joint Workshop シンガポール南洋理工大学 2023年3月24日
※毎年、日本癌学会 日本癌治療学会、およびUICC関連国際会議にてがんUHCについて発表
主な論文
Kawahara N.
The new significance of UHC for cancer in Asia in the era of data-driven cancer research. Jpn J Clin Oncol. 2021 May 18;51(12 Suppl 2)
Akaza H, Kawahara N, Nakagama H, Kitagawa Y, Noda T.
The 2nd Japan Public-Private Dialogue Forum-A Multi-Stakeholder Dialogue on Universal Health Coverage for Cancer in Asia-Seeking an Approach to Asia Health and Wellbeing
※アジアがんフォーラムは、UICC アジア支局(UICC-ARO)や東京大学と連携しながら会議の起案と論文化によって医学は普遍であるが、医療はローカルであるという信念のもと、アジア各地の医療関係者との学術的基盤構築の議論を継続している。
主な受賞
UICCネットワーク加盟組織である「マレーシア対がん協会」と共に推進しているプログラム「BEAUTY(Bringing Education and Understanding to You) & Health 」 が 、 2024 年 1⽉31⽇ に シ ン ガ ポ ー ル で 開 催 さ れ た 「 Asia Business Conclave 2024( 主 催 : WBR 社 ( 本 社 : 英 国 ) 」 で「Transformative Approach to Health Prevention in Asia」を受賞しました。
※NCSMとACFを代表して受賞した、ACF代表理事河原ノリエ(写真中央)2024年1月、シンガポール
これまでのフォーラム・シンポジウム
医療関係者に対して、医療と国際連携の視点に立ち、学術的基盤を基にしたフォーラム・シンポジウムを開催。
2013年以降、当法人の赤座英之理事がUICCアジア支局(UICC-ARO)のDirectorとなったのを機に政策提言研究をUICC加盟組織として、UICC-ARO活動として展開してきた。
ACFで議論してきたことをもとに、グローバルヘルスアジェンダとしての癌の位置づけについて焦点をしぼり、UICCをはじめ、アジア太平洋癌学会(APCC)、日本癌学会などを軸にしてラウンドテーブルでの議論を重ねて論文を積み上げてきた。
2022年には、アジアの格差は構造的に日本の地域格差にも存在していることに気づき、「LOCAL CANCER DAY2022」を開催。がん医療は「均てん化」という政策とられるなかでも、地方にいて、果たしてどれだけの最適な治療を受けられるのかということが、大きな課題となって浮かびあがってきた。
[がんUHCの実践]
黒竜江省ハルビン市における医療教育プロジェクト
2014~2017年に独立行政法人国際協力機構草の根支援型事業として、中国ハルビン市で実施した。
がんという疾病は死病としてタブー視されてきており、公的資金が投入されている無料の癌検診も住民が寄り付かないものだった。訪日研修を行い、地元医療者が無関心層へのアプローチの仕方を学ぶ機会を提供した。
美容院を中心にして農村部の女性の関心をひきやすいテーマ設定を絡めたSNS微信を通した癌予防情報の発信が軌道にのり、婦女連合会の活動もからめがんへの地域の関心が醸成された。
地域の中核病院の医師を指導して長年にわたって慣れてきた濃い味付けを見直すことに村民が心を向け始めた。薄味で簡単においしいものがつくれることを、教えて、自宅でも始める人が増えた。
がんになったら、家が破産すると噂をするだけで、実際の金額を知らなかったが、早期発見で手術を行った乳がん患者が医療保険でほとんどがカバーされた事例を基に知識提供を行った。
ハンドクリーム講習会を行い、地域のひとと密に触れ合う機会をもった。資生堂の協力を得て、持ち帰ったハンドクリームで家族にマッサージを施し、お互いに体調についてのコミュニケーションを持ち合い、ソーシャルヘルスを高め合う習慣を提案した。
小学校では健康講座は、ひとりの優秀な先生しか講義ができない状態であったが、DVD制作によりどの教師でも試みることができるようになった。また教員研修会を行い、教員の課題意識から制作した形をとったため、自分たちの教材という意識が高まった
健康は毎日の生活習慣とつながっていることを暮らしの中で、認識してもらうために、毎日の生活記録をつける宿題を展開。また、子どもたちががんの地域啓発ポスターをつくり、地域に出かける活動を行い、自分たちが地域の未来をつくるという意識を醸成した。
新生児の健康に敏感な母親学級への介入により、たばこの害や、離乳食の味付けが一生の味覚に影響することなど、長期的視点での家族の健康維持の講習をがん予防という視点で組みこみ、若い世代から高齢者に伝え、関心を高めた。
[がんUHCの実践]
日本と中国の地域コミュニティにおける誰ひとり取り残さないがんと暮らしを問い直す学びあいの構想と実践
2021年からトヨタ財団国際助成プログラムとして、地域のがん教育を実施している。
2019年から砺波市で、子どもをはじめ地域住民に展開。地域の元教員の紙芝居ボランティアの語りで、地域の民話の中で大切に守ってきた概念を方言で伝え、がんを地域で支えるための気付きを提供した。
2022年に南砺市上平小学校で、zoomを中国の蘇州の小学校と繋ぎ、がんについて其々学んだことを家族で共有した結果について、クイズ形式で問題を出しあい交流した。親世代の意識の低さを子供たちが憂慮し、次世代の共有意識を醸成した。
2023年から南砺市平中学校で、がん俳句を授業で実施。がんという疾病の交差性と文学による交差的思考1の涵養を論じた先行研究が存在する(Squier 2007; Stephens 2022)。地域の人々がん俳句の会も実施している。
2022年から南砺市で計6回開催。生老病死はさけられないことであり、生まれるということ、老いるということ、病むということ、死ぬということ、生老病死の現場に関わる人々と、命のありようを語り合う会を、2024年も定期的に開催している。
2022年から砺波市で、がんで逝ったひとを見送った後の喪失感を癒すワークショップを年に1回開催。人知を超えた昔ながらの自然への畏敬の念を満月の夜に地元の石を無心に磨いて自分自身と向き合う再生プログラムを開催した。
2020年に、「東となみロータリークラブ」に対して、がん教育を実施。経営者ががんになったときの対応をはじめ、高齢者が貴重な労働の担い手である地域特性に合ったがん対策などの勉強会を開催した。
2022年に砺波市で開催。中国ハルビン市の農村とZOOMでつなぎ、がん予防につながる、土徳・身土不二の概念共有を、農業研究者を招聘し勉強会を実施。ハーブなどを共に育てる活動は、今も継続している。
少子高齢化が進む現代社会、がん治療における交通アクセスは地域の大きな課題。交通問題とがん患者の生活の質向上をどう結びつける未来への視点を、交通事業者と学識専門家で学び合いを行った。
[がんUHCの実践]
BEAUTY(Bringing Education and Understanding to You) & Health
マレーシアにて、「マレーシア対がん協会」と保健・医療へのアクセスを促進する共同プロジェクトを実施している。
これまでの知見を活かして、マレーシアにおける健康教育のデジタル化、また地域の理美容室をタッチポイントにしたがんの予防と早期発見の促進を推進している。あわせて、住友商事グループとの協働も行い、検診だけでなく治療までのエコシステムを追求し、検診データ・医療コストデータの分析の相互研究も検討を重ねている。
【構想】教材作成と実践 ]
~官民連携のエコシステムの共創を促進~
日本初の「がん医療のUHCの官民連携をデザインするための教材」を作成し、次世代の人材育成を促進したい。
国連様々な提言書に関わってきた「TPI1」。TPIは、国際的な非営利組織として、官民連携パートナーシップによる、独自のリソースと、官民の強力な手段を組み合わせることで、すべての人の利益となる社会的、経済的、環境的変革を実現させることを提唱。世界中にスケールアップさせるために、マルチステークホルダープログラムを開発している。
TPIは、これらの一環として、NCDs疾患に関する官民パートナーシップのデザインである「Better Together」を2017年に発表。世界的にユニバーサル・ヘルス・カバレッジのための財源は限られており、さまざまな利害関係者の活性化と社会全体のアプローチが必要であることを伝えている。ACFは、この内容に強く共鳴し、2023年に、ACFはエクゼクティブディレクターDarian氏と面談。 「Better Together」の日本語版の作成への意欲を打診、 Darian氏からは了解を得ている。
以上より、当団体では、がんUHCの自走化のために、企業とNPOの連携の仕組みを体系化し、社会全体で学び合える教材を作成・公開。 NPO団体にむけたセミナーとワークショップも行い、広めていく。
教材の作成・公開は、ビジネスセクターの事業拡張・成長という経済的なものだけでなく、中国・日本でのケーススタディを活かして、子どもたちが、自らの力で地域の未来を変える構想をもてるがん教育の普及にも注目し、がん医療を通じた、社会的、経済的、環境的変革の官民のパートナーシップをスケールアップしていきたいと願っている。
主なメディア掲載歴
2007年11月「Nature Science」の記事
アジア癌情報ネットワーク会議(中国南京)
2022年1月15日「北日本新聞」の記事
がんという共有課題を国際交流
2024年3月3日「北日本新聞」の記事
生老病死~がんを地域で公言しともに語りあう~
2023年8月「The Star」のウェブ記事
BEAUTYプロジェクトでのマラッカ視察
2024年11月「日経COMPASS」の記事
BEAUTYプロジェクトローンチイベントの様子
2024年11月「Yahooニュース」の記事
住友商事グループなど5社のMOU締結