北海道大学  大学院水産科学研究院  海洋生物資源科学部門  水産工学分野

環境科学院  生物圏科学専攻  海洋生物生産学コース

高木研究室

水産資源をこれからも持続的に利用するためには,水産物を適正に漁獲し,生産するための高度な技術が求められています。当研究室ではそのための技術やシステム開発を行っており,物理学,工学,行動学など多様な側面からアプローチしています。

お知らせ

当研究室は高木の大学院担当変更に伴い,2022年度から学部学生研究室も札幌(環境科学院)となりました。当研究室配属希望の方は,高木までコンタクトするようにして下さい。

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<2024.4.20>

江口剛さんの論文がJournal of Theoretical Biologyに掲載されました。

魚は流れ場の変化に応じて最も楽な遊泳姿勢を選ぶ~尾ヒレを振らずに推進する「ドラフティング」の仕組みを解明~


ポイント

●尾ヒレを振らないまま流されず定位したり、他個体に追従したりする「ドラフティング」に着目。
●実際に生きた魚と翼模型を用いて魚のドラフティングを再現、魚体まわりの流れ場の解析に成功。
●魚体にかかる力が最小になるよう、流れ場に応じて最適な遊泳姿勢を選んでいた魚の機能性を解明。

概要

北海道大学大学院水産科学院博士後期課程3年(研究当時)の江口 剛氏と同大学大学院水産科学研究院の髙木 力教授らの研究グループは、魚が尾ヒレを振らずとも推進できる「ドラフティング」についてマアジやウグイと翼模型を用いた生体実験を行い、魚が魚体まわりの流れ場の変化に伴う圧力差を利用することで魚体にかかる力を低減させるメカニズムを明らかにしました。

魚は尾ヒレを振って流体を押し出し、その反作用で推進します。ただ、例えば川の岩など構造物周辺では尾ヒレを振らず定位する様子も報告されます。これらは構造物の影となる死水域や前方の淀み域に魚が入ることで流れから受ける抗力と釣り合わせています。そのため似た個体サイズが集まる魚群内で同様の現象が起きるとは考えにくいです。

そこで本研究では魚群を想定し、魚の流線形に似た翼模型を構造物に採用しました。粒子画像流速測定法(PIV)を用いて流れ場を可視化・解析した結果、流れの剥離がほぼない状態で比較的高い流速を受ける環境下でも、翼模型近傍に生じる局所的な低圧領域を利用して魚はドラフティングを実現させていました。この仕組みは生体実験のほか、魚を再現した模型実験や数値流体力学(CFD)でも検証し、魚の能動的な遊泳姿勢の制御がなければドラフティングの維持は困難だと明らかにしています。構造物まわりの局所的な圧力差すら推進力に利用できる魚の優れた形態や、常に魚体にかかる力を最小限に留めようとする柔軟な機能性が示唆されており、魚群遊泳における遊泳時の消費エネルギー節約の仕組みを説明する一因として発展が期待できます。

なお、本研究成果は2024年4月20日(土)にJournal of Theoretical Biology誌でオンライン公開されました。


論文名:Drafting behaviors in fish induced by a local pressure drop around a hydrofoil model(翼模型近傍での局所的な低圧領域による魚のドラフティング行動)

URLhttps://doi.org/10.1016/j.jtbi.2024.111821 


プレスリリース

https://www.hokudai.ac.jp/news/2024/05/post-1478.html