生体システムにおける「差」の創発原理
当研究室では、ショウジョウバエをモデルに、分子から個体に至る多階層に生じる差や、個体差・性差・左右差といった多様性がどのように生まれ、維持され、あるいは破綻するのかを研究しています。
この「生物学的な差」の理解を通して、恒常性維持の仕組みと、その破綻による疾患発症の原理を明らかにすることを目指しています。
“Individual differences are of the highest importance.” — Charles Darwin
同じ臓器であっても、性別や体の左右によって組織機能や疾患感受性が異なることが知られています。例えば、がんや慢性炎症では、男女間や左右対称組織の間で応答性が異なることが示されています。しかし、こうした違いがどのように生じ、どのような仕組みによって維持されているのかは、十分には解明されていません。
私たちは、性差や左右差といった生物学的コンテキストの違いが、組織の恒常性や疾患発症にどのような影響を与えるのかを研究しています。臓器間の相互作用という視点から、これらの差を生み出す分子・細胞レベルの機構を明らかにし、生体の恒常性や疾患病態に対する性差・左右差の解明を目指しています。
同じ遺伝的背景を持つ個体であっても、ある個体は病態を発症し、別の個体は発症しないことがあります。また、発生期や発達期の経験が、その後の寿命や疾患感受性に影響を及ぼすことが、疫学研究などから示されています。しかし、このような個体差がどのような生体内状態の違いから生じるのか、その実体は十分には明らかになっていません。
私たちは、ショウジョウバエの組織障害モデルや疾患モデルを用いて、ライフサイクルのどの時点で、どの組織にどのような変化が生じることで、将来的な疾患発症や病態が影響を受けるかを明らかにしています。個体の一生を時空間的に捉え、分子・細胞レベルの変化と個体レベルの表現型を統合的に解析することで、個体の最終的な運命を規定する状態遷移の原理の解明を目指しています。
同じ種類の細胞からなる集団の中でも、一部の細胞だけが異なる振る舞いを示すことがあります。例えば、がん細胞の集団では、すべての細胞が一様に悪性化するわけではなく、集団の一部から悪性化能を獲得した細胞が出現します。しかし、こうした細胞がどのように浸潤や転移を引き起こすのか、その仕組みは十分には解明されていません。
私たちは、細胞間の状態の「差」や相互作用に着目し、それらががんをはじめとする様々な疾患の病態進展にどのように関与するのかを明らかにし、その背後にある原理の解明を目指しています。